●地球防衛艦隊再建(1)

 地球防衛軍並びに地球防衛艦隊は、「ガミラス戦役」の中で当然の選択として誕生し、文字通り死線をくぐり抜け、そして一度は壊滅した。だが、イスカンダルからの使者の到来と共に、不死鳥のごとく復活を果たす。人類を外敵から守るため、必要不可欠な組織だったからだ。
 「ヤマト」帰還の当時、建軍から10年に満たない組織であったが、もはやその存在を疑うものはなかった。中でも人類を救った「ヤマト」は、地球防衛軍及び地球防衛艦隊ばかりか、地球人類のまさに救世主であり、象徴ですらあった。
 地球各地にあった様々な国家連合や国家間にあった軍事力を手放す事への不満や不安も、ガミラスとの戦いの間に多くが乗り越えられていた。もっとも裏事情として、あまりの戦災を前にいかなる地方勢力でも、まともな宇宙戦力や軍事力を単独で揃えるのが難しくなったという理由がある。それにその気力を持ち得る国も、ほぼなくなっていた。
 地球人類は、ガミラスという外圧によって、歴史上始めて一つの組織、一つの軍事力に統合されたのだ。
 だが、「ヤマト」帰還即地球防衛艦隊の発展、とはならなかった。極めて短期間だったが、地球連邦政府は地球防衛軍並びに地球防衛艦隊の成長に待ったをかける。
 ガミラス帝国が事実上崩壊したため、地球並びに地球人類の復興こそがまずは急務だったからだ。
 また、「ヤマト」がイスカンダルから戻ってくるまでに新たに建設された地球防衛軍に、ある程度の戦力が与えられていた事も新たな軍事力の成長に待ったをかける一助となっていた。
 「ヤマト」帰還の西暦(地球歴)2200年秋、地球防衛の中核である地球防衛艦隊はかなりの戦力を保持するようになっていた。
 主要戦力だけでも、8000トンクラスの戦列艦30隻、3000トンクラスのコルベット100隻、その他旧式艦約30隻、空間航空機約300機を保有していた。さらに防衛軍全体では、地球衛星軌道、月軌道、小惑星帯を中心に固定設置型の砲台や基地が無数に設置されており、月面には波動機関を用いたショック・カノン型高射砲までが多数設置されていた。
 全てを合計した戦力価値は、かつての最盛時の地球防衛軍の約150倍の規模があり、最盛時の在太陽系ガミラス軍のおおよそ4倍の規模があると判断されていた。
 求められた数字が、在太陽系ガミラス軍を撃滅できる事にあったわけだから、当然の戦力だった。
 しかしガミラスは、感情的な復讐以外で地球に襲来する可能性は激減した。また14万8000光年という距離の防壁が、残存ガミラス軍の進撃を阻むものと考えられた。これには、「ヤマト」が行く先々でガミラス軍の前進拠点を破壊していた事も強く影響していた。いかにガミラスと言えど、中間拠点なしに大軍が踏破できる距離ではない筈だった。
 以上のような理由もあり、地球防衛軍並びに地球防衛艦隊は、既存戦力を用いた土星を絶対防衛圏とする拠点づくりを細々とする以外、しばらくは現状戦力のまま復興のための船団護衛や、周辺星域のパトロールを行っていた。
 無論防衛軍本部がただ何もしないわけでもなく、「ヤマト」と入れ替わるように太陽系外へと向かったパトロール任務部隊の発見も大きかった。
 この頃、戦列艦2隻ペアによるパトロール任務部隊複数が、地球人類が既に進出を開始していた別太陽系へと向かった。その行く先での発見の中には、彗星の巣で遺棄されたガミラスの採掘拠点の発見や、20年近く前に出発した恒星探査船がバーナード星域で地球型岩石惑星の簡単な改造と初期入植を開始している現場に出会うなどがあった。他にも、太陽系から半径30光年内に対しての出来うる限りの恒星探査が行われ、ガミラスの痕跡がないかが調査された。
 また太陽系限定で建造されたコルベット群は、任務の多くを資源輸送する輸送船団護衛に変更して、休む間もなく働き続けた。
 そうしていつしか、コルベットは「護衛艦」と俗称されるようになっていた。戦列艦も、任務に応じて武装を一部おろして探査装置や探査機を搭載した艦が多くなった事もあって、「パトロール艦」と呼ばれるようになる。それだけ市民に親しみを持たれた艦艇だったと言えるのだろう。そしてこの名称は、地球防衛軍が新たな建艦計画を始動させると正式なものとされていく。また、塗装の方も地球防衛軍所属を現すライトグレーから、コーストガードやガード・フリート所属を現すダークブルー系の色へと変更されている。

 「ヤマト」の帰還から三ヶ月後の西暦(地球歴)2200年1月、新たな地球防衛艦隊建設(再建)計画が持ち上がる。
 目的は、いまだ残存していると考えられているガミラス主力艦隊を撃退できる戦力の整備、十分な領海防衛体制の整備、太陽系及び周辺航路に対する十分な護衛力の提供にあった。
 当然巨大な軍備計画となったが、人類にとって必要なものと認識された。また「ヤマト」帰還前から資材収集や新装備開発、さらには建造施設建設など準備が進められていた事もあり、ほぼ即決で決定される。そこには、とりあえず死地を脱したという安堵と、また滅びの危機に瀕するかもしれないという恐怖があった。
 新たな軍備拡張計画は、主に機動戦力たる地球防衛艦隊の大幅な増強と、各支援施設の拡充、固定要塞の建設が主眼とされた。何しろほとんど全てが一度は破壊されているため、全てを作り直さなくてはならなかった。
 なお、この頃までに地球地下及び月面地下を中心に地球圏各所には、波動機関型宇宙戦闘艦の新たな建造施設が多数建設されていた。ラグランジュ・ポイント各地にも巨大な浮きドックが隣接した工場衛星が設置され、一部では新たな超大型の建艦工廠の建設もスタートした。
 そしてこの時までに準備された超大型艦建造ドック、大型艦建造ドックの数は合わせて20基にも及び、どの施設でも半年程度で新造艦の建造ができる体制が敷かれた。既存の建造施設も、オーバーテクノロジーを用いて工作機械、機材刷新などを行い、能力のさらなる向上が図られていた。これら中小施設も、1万トンクラスなら3ヶ月、3000トンクラスなら最短一ヶ月での建造が可能となっていた。全てを合わせた同時建造数は、合わせて100隻近くになる。ほとんど全ての生産施設が、自動工作機械とナノマシンを多用した冶金、工作を用いるため、数百年前の宇宙黎明期の工業力とでは比較にならない速度での宇宙艦艇建造が可能となっていたのだ。
 つまり最大で、半年で500隻近い大型戦闘艦艇が建造可能であり、地球防衛軍は約3年間で1500隻近い様々な艦艇の建造を行う野心的な計画を立案、実行していった。
 新たに養成される若い宇宙戦士(将校並びに兵士)の数も、先に養成の進んでいた日本地区を中心に数万人に及んでいた。
 うち、養成に時間のかかるコスモ・ライダー(小型機搭乗員)の数も、計画始動から3年後の2203年春には3000人もの規模となる予定だった(初年度はこの十分の一程度)。
 ただし、大多数の若年層と戦乱を生き延びたごく一部の熟練兵、老年兵という“ひょうたん型”の年齢構図という歪な人材状態となり、地球人類社会全体の年齢構成に比例しているだけに、こればかりはどうしようもなかった。
 しかし、この時の気宇壮大な軍備拡張計画が、結果的に今後数年間地球を救う大きな原動力となっていく。

 一方、艦艇や機動兵器以外の固定型の防衛力や各地の拠点だが、「ヤマト」が帰投する2200年秋頃まではとにかく地球から小惑星帯にかけての防衛力整備に重点が置かれた。遊星爆弾をいかにして防ぐか、という命題こそが「ヤマト」帰投までの地球防衛軍の第一目標となっていたからだ。機動戦力たる艦隊など、贅沢の極みというやつだ。
 対遊星爆弾防衛の要は、月そのものと小惑星帯だ。この点は、ガミラス戦役最盛時から何ら変化はなかった。天然の岩石や岩石群そのものを、防壁や要害として利用する発想だからだ。だが、波動機関を利用した新たな装備により、革新的な変化がもたらされていた。
 各地の防衛拠点や基地には多少の効率を無視して波動機関が設置され、それを動力源とした固定砲座型の長射程型衝撃砲(ショック・カノン)砲台が次々に構築されていったからだ。
 しかも防衛軍はこれだけでは飽きたらず、一部の小惑星や月面には固定装備の波動砲型要塞砲すら装備された。無論これらの波動砲は、周囲への影響を最小限にするよう能力や射界は限定されていたが、地球人類の抱いていた恐怖感を今に伝えるには十分なものだろう。
 そして、対遊星爆弾防衛のための内惑星宙域の防衛網構築が一段落すると、次は太陽系全体を守るべく様々な施設が建設されていった。この頃には「ヤマト」も帰投しており、新たにイスカンダルのオーバーテクノロジーを吸収する事で、さらに軍備の拡張も進んでいくことになる。
 機動戦力である地球防衛艦隊の拠点には、主に土星圏が選ばれた。これはもともと土星の衛星タイタンを中心に、採掘施設などが多く建設されていたからだ。つまり重要な資源拠点であり、守るべき場所であった事も影響していた。
 土星の衛星タイタンの表層のメタンの海に浮かぶ半潜水型巨大メガフロート上と、衛星軌道上に鎮守府と大規模修理工廠が建設され、インテリジェンスセンターとしても地球本土に匹敵する能力が与えられた。なお、拠点としてタイタンが選ばれたのは、その分厚い大気が自然災害から施設と人々を安価に守るのに有効だったからであり、波動機関を備えた新造艦艇群にとってタイタンの自然は何ら障害にならなかったからだ。
 そして入れ物を整えるのと平行して、一大艦隊の建設がいよいよ開始される。


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