●ガトランティス戦役

 西暦(地球歴)2201年初秋、地球人類は原理不明の強力なエネルギー通信によって、「テレザート星のテレサ」と名乗る人物から助けを求めるメッセージを受け取る。その通信は“言葉”ではないのに聞いた全ての者に理解可能で、地球のどの言葉とも違うにも関わらず翻訳不要だった。加えて発信源は、タキオン通信トレーサーによって地球から銀河系外のアンドロメダ星雲方面に向かって約6000光年離れた場所だと判明した。
 しかもほぼ同じ頃、地球防衛外周艦隊・第三艦隊は、未知の武装集団から通り魔的な攻撃を受けた。調査の結果攻撃者の装備は、地球ともガミラスとも、もちろんイスカンダルのものとも違っていた。
 それが、「ガトランティス戦役」の予兆だった。

 その頃地球は、急速という言葉すら不足する勢いで、復興から発展へと大きく一歩を踏み出しつつあった。まるで夢か幻、もしくは千夜一夜物語のランプの妖精の魔法を見るようだったと言われる。だが、全ては物理的な事実だった。
 戦中に作られた膨大な自動機械とナノマシン群をイスカンダルの技術でレベルアップさせ、それらを一年以上にわたりフル稼働させた結果であったのだが、それは宇宙時代の機械化文明というものを地球人類に教えるには十分なものであったといえるだろう。全ての物理的な存在の製造・建設速度と量は、宇宙開発黎明期の約200年前と比べた場合数十倍に達している。
 僅か一ヶ月で町の景観は様変わりしていき、2201年春頃から俄然溢れた膨大な物資や消費財により、人々は物質的な豊かさを取り戻していった。そして地表の都市が再び息吹を取り戻しメガロポリスが輝きを取り戻す頃には、新たに誕生した無敵艦隊が宇宙を守護すべく展開し始めていた。
 そうして、物質的な平和と安定をいきなり手に入れた人々の心に、十数年程前までは当たり前であった人類の繁栄に対する慢心ともいえる感情が広まりつつあった。
 発展から一度は滅亡の縁にまで追いやられ、また大きく飛躍しつつある現状を思えば多少浮かれるのは仕方ないかもしれなかった。だが二つの奇妙な事件は、再び慢心し始めていた地球人類に警鐘を鳴らすには十分なものだった。
 そして心ある一部の人々が、再び人類に危機をもたらさないよう活動を始めるのだが、悪い予感とでも呼ぶべきものが目に見える形で突如出現する。
 観測用の超遠距離用タキオンレーダーが、ほぼリアルタイムで「白色彗星」を初観測したのだ。
 大アンドロメダ星雲から飛来したと考えられる直径6000キロの白色矮星は、いかなる自然法則によるものか通常空間で超光速移動を続け、進路上のすべてのものを自らの超重力により粉砕していた。つまり、観測された白色彗星は、超光速時に発生する様々な現象が作り出した白色彗星の残像に過ぎなかった。そのぐらい白色彗星の進行速度は速かったのだ。
 なお、ここでの最大の問題は、その進路上に太陽系(ソル・システム)が存在している事だった。
 そして謎のメッセージの送り先も、その白色彗星の進路上にあり、奇妙に符号が合致していた。
 しかも金星軌道上の太陽発電所の一部が首謀者不明の大規模テロにより破壊され、地球に対する電力供給が混乱するという事件も発生した。
 そして、白色彗星が人類の新たな脅威であるかどうかの調査のため、「宇宙戦艦ヤマト」は元乗組員達とともに無断で発進(※その後正式命令となる)し、一路助けを求めるメッセージを発信してきたテレザート星を目指す事になる。
 この時期の「ヤマト」の活躍については別の機会に譲るとして次に移ろう。ただ、新たな侵略者「ガトランティス帝国」との太陽系第11番惑星「ネメシス」での認知できる形でのワースト・コンタクト、テレザート星への旅路の途中でのガミラス軍との再接触、など様々な事件があった事は思い起こしていただきたい。
 そして数々の障害を乗り越えた「ヤマト」は、ようやくテレザート星に到着し、超常的な通信能力と念動力、そして反物質を操ることのできる「テレサ」と名乗る超能力保持者とのファーストコンタクトに成功する。
 かつて超近代文明を誇っていたテレザート星についてもここでは割愛するが、テレサより白色彗星とそこを本拠とするガトランティス帝国に関する情報を得ることになる。そしてテレザートのテレサとの協力関係を築いた「ヤマト」並びに地球連邦は、悪質な侵略国家であるガトランティス帝国に対する共同戦線を張ることになった。
 もっともすでに文明も人類も滅んでしまったテレザートの協力者は、唯一の生き残りであるテレサ一人。まるでかつてのイスカンダルのようだった。しかしテレサは自らの母星テレザートを犠牲にして、白色彗星の進撃を遅らせた。

 一方、「ヤマト」からの報告を逐次受けていた地球人類は、力(パワー)で「白色彗星」を倒すための準備を急ピッチで進めた。何があろうと、ガミラスとの戦いのような破滅は避けなければならない。もう一度同じ規模のダメージを受けたら、今度こそ地球人類は滅びるしかなかったからだ。
 かくして、既に大規模な拡張が開始されていた地球防衛軍並びに地球防衛艦隊の、さらなる増強が開始される。特に、太陽系外縁で白色彗星並びに強大と言われる前衛艦隊(主力艦隊)を撃滅すべく、艦隊戦力の整備が急ピッチで進められた。象徴的なものに、結局間に合わなかったが「アンドロメダ級」超大型戦艦5隻の追加建造がある。
 また、万が一の事態を想定して、最低限の人的資源と物的資源の太陽系外への疎開が始まった。何しろ直径6000キロもある巨大白色矮星が、超光速で太陽系に突っ込んでくるのだ。ガミラス戦役前なら、気づいた頃には人類は太陽系ごと滅亡していたほどの脅威だ。実際のところ、何が起きるか見当もつかなかった。そして今度の地球人類には、太陽系の外に容易く出ていく事が可能となっていた。
 しかしガトランティス帝国軍の散発的な妨害などもあり、効果的疎開にはほど遠かった。とりあえず地球人類にできた事は数万人規模の疎開だけだった。しかし、この時の副産物としてケンタウルス座アルファ星の大幅な開発促進と移民促進があり、後の道標を作った功績は小さくない。ガトランティス戦役末期には、大型艦用の簡易ドックを備えた港湾施設すら建設されているからだ。
 そして土星空域での一大決戦へと至るわけだが、ここで地球防衛軍は地球防衛艦隊の事実上の独走という形で、移動型波動砲のほとんど全て、機動打撃戦力のほとんど全てを2202年1月までに土星空域へと根こそぎ集結させる。

 この頃地球防衛艦隊は、太陽系外周艦隊が第1から第5艦隊までが実戦配備にあり、第6艦隊が金星宙域で編成及び訓練中だった。また、水星を除く各惑星並びに火星と木星の間の小惑星帯には、中規模の駐留艦隊や哨戒艦隊などが所属していた。加えて月面には練習艦隊と教導隊が、木星圏の各大型衛星には母艦配備されていない艦載機隊が駐留していた。
 また地球防衛艦隊とは別枠で空間護衛艦隊が存在しており、旧式艦が主力だったが船団護衛を任務とし、この時の集結にはほとんど参加せず航路防衛に従事していた。一部は太陽系からの疎開艦隊にも護衛で随伴している。
 なお、一個外周艦隊の標準編成は、主力戦艦4隻からなる主力戦隊1から2個戦隊を中核に、巡洋艦2個戦隊8隻、駆逐艦1個水雷戦隊16隻で編成されている。これに高速補給艦、駆逐母艦などを加えて、三ヶ月交代で太陽系外周の警戒任務に就く事になっていた。
 一方各惑星駐留艦隊は、基本的に艦隊決戦戦力である主力戦艦を含まず、巡洋艦を旗艦とした各惑星圏の防衛を主眼とした小型艦艇が主体となっている。特に小惑星駐留艦隊は、駆逐艦よりも小さい水雷艇多数が配備され、地の利を活かした活躍が期待されていた。また、外惑星艦隊になるほど、偵察に重点が置かれた艦艇が多数配備されてもいる。
 しかし、2201年暮れの集結命令により、全ての艦隊が土星圏へと参集する。
 地球本土からの新造艦などの増援を含め、最終的に3月までに集結した地球防衛艦隊の総数は、超大型旗艦2隻、主力戦艦34隻、巡洋艦並びにパトロール艦80隻、駆逐艦、護衛艦など小型艦艇が188隻になる。また別働隊として、テレザート星からギリギリ決戦に間に合った「ヤマト」を中核に、戦闘空母3隻、巡洋艦4隻、駆逐艦12隻からなる空母機動部隊(第一機動部隊)も存在した。
 他にも支援用の補給艦や、土星各地に潜む形になる多数の水雷艇なども含めると、その総数は500隻にも達した。百数十門の拡散波動砲一斉発射を行えば、恒星すら一瞬で破壊できるエネルギー係数に達しているほどだ。
 この数字は、ガミラス戦役の最盛時を越える数であり、その戦力係数は3000隻以上が観測されたガミラス主力艦隊を防ぐことができる規模だった。
 だが、これだけの戦力を集めても、地球防衛艦隊の劣勢は明らかだった。ガトランティス帝国主力艦隊並びに白色彗星は、ガミラス軍主力艦隊よりも強力だったからだ。
 幸いにして前哨戦の多くは、主に「ヤマト」の活躍により一部の艦隊を撃破できた。だが、ガトランティス帝国の戦力は知れば知るほど脅威感は増していった。決戦前にシリウス、プロキオン方面への強行偵察で確認された艦隊規模は、地球艦隊の二倍以上にも達していた。中でも、1隻で地球側全てと同じ母艦戦力を持つ「カルテット型超大型空母」(※地球側命名。滑走路を4本持つ事から)だけで8隻も確認された航空機及び艦載機戦力の差は絶望的な開きがあった。しかも運用されているカブトガニのような形状の大型攻撃機の攻撃力は当時の戦略爆撃機並で、地球側の同クラスの機体を大きく凌駕していた。
 そこで地球防衛艦隊は、複雑な地形を持つ土星を決戦場に選んで相手をおびき寄せ、地の利を活かした空母部隊による奇襲攻撃で空母を叩いた後に、主力艦隊の拡散波動砲一斉発射で敵艦隊を葬ろうと考えた。この前衛艦隊ですら重荷なのだが、その後ろに控える白色彗星本隊の撃滅を思えば、自らの犠牲は最小限にしなければいけなかったからだ。
 そうして地球側が懸命の防衛策を講じている最中、2202年3月8日、ついにガトランティス帝国が動いた。
 戦意が高く、戦力差から自らの敗北はないと考えていたと思われるガトランティス帝国前衛艦隊は、駐留先のシリウス・プロキオン方面より一度のワープで一気に太陽系外縁に到達。そこで無線封鎖に入り土星空域へと進路を取った。
 なお、ガトランティス帝国側の指揮官は、総司令長官がバルゼー(提督)、空母機動部隊司令がゲルン(提督)と判明している。共にアンドロメダ星雲から無数の戦歴を重ねてきた歴戦の軍人であったと推察される。
 一方、ガトランティス帝国艦隊の太陽系侵入と同時に、地球防衛艦隊第一機動部隊は活発な偵察活動を開始する。目的は敵空母機動部隊の殲滅。出撃直前の彼らを奇襲攻撃し、一気に殲滅してしまうのだ。
 この時の戦闘は地球側の意図が完全に図にはまり、ゲルン提督率いるガトランティス空母機動部隊は、純軍事的に一瞬と表現しうる短時間で壊滅してしまう。地球防衛艦隊を万全の空襲で先制攻撃しようとしていた直前に、逆に地球艦隊の奇襲攻撃を受けたためだ。
 「カルテット型超大型空母」8隻、「ファースト型高速空母(※高速と滑走路1本を持つ点をかけた地球側名称)」24隻からなる一大機動部隊は、初手でほぼ均等に「コスモタイガーII改雷撃機」の奇襲攻撃を受けてほとんど全ての空母が損傷。主に被弾による誘爆で、艦載機発進能力をなくす。中にはこの攻撃だけで誘爆沈没する空母も多数あり、艦隊の損害と混乱はかつての七色星団の戦いを彷彿とさせるものがあった。しかも地球側の波状攻撃はガトランティス機動部隊が立ち直る暇もないほど連続して続いた。最終的に6波のべ250機の攻撃隊に加えて、「ヤマト」以下機動部隊本体の直接攻撃により空母は一隻残らず全滅。護衛艦も半数近くを失い、100隻以上の規模を誇っていたガトランティス機動部隊は壊滅した。これを「フェーベ沖海戦」と呼ぶ。
 本来ならここでガトランティス側が一旦退きそうなものだが、依然艦隊戦力で圧倒するバルゼー艦隊は進撃を継続。遂にヒペリオン空域で地球防衛艦隊と正面から対峙する。
 砲撃戦では、戦闘初期の奇襲に失敗した地球側だが、規定の方針に従い拡散波動砲発射隊形を維持した。だが最新鋭のガトランティス側旗艦(艦名「メダルーザ」)は、瞬間物質輸送型大口径熱プラズマ砲(※翻訳名「火炎直撃砲」)を装備しており、地球側が波動砲発射をあきらめ転進するまでに、地球側主要艦艇の約4割を撃破してしまう。
 だが、土星の輪の中に誘い込まれたバルゼー艦隊は、極めて強い熱源を放つ火炎直撃砲を不用意に使用して周囲の環境を自ら劇的に悪化させ、大戦艦すら姿勢制御がままならない乱気流が荒れ狂う輪の中で大混乱に陥る。そしてそこを反転攻勢に出た地球防衛艦隊に狙い撃たれ、戦闘可能艦艇がほぼ皆無になるという地球側にとって射的大会のような戦闘が終盤で展開されることになる。
 この時点では地球防衛艦隊の圧勝だった。
 無論ガトランティス艦隊も反撃したし、地球側の損害も皆無ではなかった。だが、全ての戦闘を経過した状態で戦力の2割近くを完全喪失しただけで、脱落艦艇を除く残存艦艇が半数以上に達している事は、予想以上の結果と考えられていた。
 だがこの直後、事態は激変。行方不明となっていた白色彗星が、予想外のワープアウトで土星の側に出現したのだ。
 地球防衛艦隊は、急ぎ残存艦隊全てによる拡散波動砲一斉発射を行うも、白色彗星の一時的な進撃停止及び中性子ガスの排除にまで成功したが、それが限界だった。しかしこの時の破壊力は極めて大きく、今現在でも地球人類の手によるこれ以上の破壊力は発揮されていない。波動砲がもたらす次元振動と白色彗星命中時の爆発現象により、土星の軌道が若干ズレた程の破壊現象だったのだ。
 なお、拡散波動砲百数十門によりガスが吹き払われた白色彗星の中核は、直径約20キロメートルの武装都市星となっていた。それを肉眼で確認できたのが、波動砲一斉発射の結果だったのだ。
 そして姿を見せた武装都市星は、力を使い果たしていた地球艦隊に対して反撃を開始する。結果地球艦隊は、損傷で戦線離脱した艦艇を残して殲滅されてしまう。この時点で、決戦空域の地球側の戦闘可能艦艇は一部小型艦を除いてほぼ皆無となり、損傷艦として退却し残存することに成功した数も戦闘開始前の約3割に過ぎなかった。
 そして地球側の抵抗を排除したガトランティス帝国本星でもある白色彗星は、途中の地球側拠点をほとんど無視する形でゆっくりと進撃し、地球へたどり着くと奴隷化を前提とした無条件降伏を突きつける。
 本来なら他と同様、地球もそのまま彗星形態で粉砕してしまうのだが、ガトランティス帝国の大帝ズォーダー(降伏要求時に自ら名乗ったため判明)が、地球を保養地として欲したための結果だったと言われている。
 その間重大な損傷により戦線離脱を余儀なくされた「ヤマト」は、応急処置を経た修理ドックでの緊急修理に成功すると、一路地球を目指した。だがその途中再度デスラーの襲撃を受け、激しい戦闘となった。そして戦闘の終盤、デスラーは地球との和解を示唆し、さらには同盟関係にあったガトランティス帝国の彗星都市弱点を言い残して立ち去ってく。
 その後地球上ならびに地球軌道で行われた戦闘は、もはや戦闘という表現が不足するほど熾烈なものとなる。
 「地球沖会戦」と命名された戦いでは、主に「ヤマト」の活躍により巨大無比と思われた彗星都市の破壊に成功した。なお、よく間違えられるが、ドキュメント映画などと違い「ヤマト」以外にも月面や軌道上からも攻撃は行われているし、残存し戦場に間に合った艦艇や航空機も攻撃に参加している。あれだけの巨大構造物を波動砲以外で「ヤマト」1隻で破壊し尽くせるものではない。
 だが、廃墟となった都市要塞の残骸の中から全長12キロメートルにも及ぶ超巨大戦艦が出現し、大口径プラズマ砲にて地球表面各地を攻撃(爆撃?)。ガトランティス帝国元首ズォーダー大帝は、再度地球に極めて強い語調で無条件降伏を勧告する。
 だがその直後、超巨大戦艦は公式発表上では原因不明とされる爆発で一瞬で消滅。痕跡すら残さず破壊され、数ヶ月間の激しい戦いの幕切れは実に呆気ないものとなった。


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