●ガトランティス帝国の残敵掃討と地球防衛艦隊再編

 西暦(地球歴)2202年4月、アンドロメダ星雲に本拠もしくは一大拠点を持つと考えられるガトランティス帝国は、銀河系辺境の太陽系にて本星であり力の根元である白色彗星を失って壊滅した。しかし彼らの長い戦いの歴史の中で、地球連邦政府との戦いは長く見ても僅か半年に過ぎなかった。予測どころか予想すらしなかった結末だっただろう。
 しかも戦役最終局面で、国家元首のズォーダー大帝を始め主だった幕僚、閣僚も失ったと見られた。このため、主戦場から離れていたため僅かに残っていたガトランティス残存艦隊は、太陽系外縁へと緊急待避していった。
 そして地球側では、この時点をもってガトランティス戦役の終幕としている。本来なら即座に追撃し、太陽系内の敵を完全に撃滅したいところだったのだが、そのための戦力が地球防衛軍には存在しなかったのだ。太陽系各惑星の防衛施設の多くは健在だったが、まとまった機動戦力がなくては追撃もままならず、それらの多くは土星宙域で失われていた。
 このため以後約半月の間、地球側は主に太陽系外縁の各地にガトランティス帝国残党の潜伏や跳梁を許すことになる。突然拠点(白色彗星)を失ったガトランティス軍が、兵站物資の不足から動くに動けなくなっていたため起きた状態でもあった。
 もっとも、本星を無くし略奪的戦闘に走る彼らを地球側は海賊と呼び、相応の戦力が復活すると同時に断固たる掃討作戦を開始した。それからさらに半月もすると損傷の軽かった艦艇の多くは現場復帰を始め、傷の癒えた宇宙戦士達も宇宙へと戻ってきた。
 だが、この頃地球防衛艦隊は、大きな改変を余儀なくされていた。また、失われた多くの戦力並びに人員の不足分を補うため、いくつかの奇策が計画立案、実行されていく。

 ガトランティス戦役終了時、地球防衛艦隊はまさに壊滅的だった。決戦に参加した約330隻の護衛艦以上の戦闘艦艇のうち、損傷しながらも残存したのは100隻あまり。しかも戦線離脱しやすかった小型艦の残存率が高く、加えて損傷艦全ての完全復帰には最低半年はかかるというものだった。一ヶ月以内に1個外周艦隊が編成できる程度には復帰できる見込みだったが、侵略者が消え去ったことのみを喜ぶべき事態だと考えられたほど、地球防衛艦隊の傷は深かった。
 この時、地球防衛艦隊でまともな集団を形成していた艦隊は、錬成中で戦役に間に合わなかった太陽系外周艦隊第6艦隊だけだった。また、戦役に間に合わなかった建造中や艤装中の艦艇も多数あり、完成が急がれる事になった。これに半月ほどすると、損傷復帰した艦艇が月軌道に集められ再編成されていく。
 そうして損傷復帰した艦隊の中でも戦力価値の高い艦艇を集めて太陽系外周艦隊第1艦隊が再編成され、第6艦隊は第2艦隊へと格上げされ、最低限の太陽系外周の防衛体制が組み上げられる。また、決戦に参加しなかった空間護衛艦隊(※護衛艦以上の大型艦約120隻が所属)の中から何隻か有力な艦艇が引き抜かれ、それにさらに損傷復帰した艦艇を加えて第3艦隊も再編成されつつあった。
 加えて半年以内には、既存計画内で建造が進められていた新造艦艇が数十隻加わる予定にもなっていた。
 そうした中、4から6の番号を飛ばして太陽系外周艦隊第7艦隊が設立される。
 第7艦隊は全くの新設艦隊であり、一種の実験艦隊でもあった。だが当初は形にもなっていなかった。
 地球防衛軍がガトランティス帝国軍の残党狩りに奔走し、現役復帰し新乗組員を迎えたばかりの「ヤマト」が、ガミラスのデスラーからの知らせにより危機を知ったイスカンダルへ救援に赴いている間も大きな進展はなかった。
 第7艦隊が、装備並びに人員不足を解消するための実験艦隊であったからだ。

 大きな損害を受けた地球防衛艦隊は、当面の手当以外での艦隊再編に際して、通常の手段以外に二つの奇策を提出した。
 一つは、ガトランティス帝国軍が遺棄した状態の良い艦艇の再利用並びに戦闘跡の膨大なデブリ(宇宙屑)を資源とした新規艦艇の建造。もう一つは、完全自動艦隊の編成である。最初の案は短期的な戦力増強を、後の案は中長期的な視点での戦力増強を図る計画であった。
 そしてどちらも予算すら呆気なく通過し、遺棄艦艇の再生については臨時予算を出してすぐにも計画が始められた。地球の損害復旧も急がなくてはならないが、ガミラスとの戦いに比べればはるかに“軽い”損害であり、恐怖心から防衛力の再編成に力が入れられたからだ。
 なお、もともと地球防衛軍はガミラスとの戦いにおいて、相手の遺棄物の回収に極めて熱心だった。多くの場合敵側の遺棄物は、技術的な意味での宝の山や金の卵だったからだ。2200年初頭に壊滅した冥王星前線基地跡を訪れた時の技術者達などは、文字通り宝の山を見つけたような喜びようだったと言われている。
 そうした経緯もあってガトランティス帝国との戦いでも、敵の遺棄物回収と技術解析は殊の外熱心だった。不謹慎な話ではあるが、科学者や技術者にとっては未知の敵の侵略イコール稀代の幸運でもあったわけだ。しかもガトランティス戦役では、太陽系内での戦闘が大規模に行われたため、とりわけデブリ(宇宙屑)が豊富だった。
 地球軌道の一部を占拠してしまった元彗星都市デブリ群と、未曾有の大艦隊同士の決戦跡となる土星デブリ群は、未知の技術の山であった。加えて、どちらも呆れるほどの有望なデブリが存在し、多くが再利用可能な「資源」として利用可能だった。
 そうした雰囲気の中での解析で判った事は、ガトランティスの軍事技術体系は長距離遠征を前提とし、修理・補給の関係から簡便な技術や構造を用い、さらに構造的なモジュール化を押し進めている事だった。また攻撃に特化しすぎており、一度守勢にまわるともろい事も判った。ミサイル戦艦や駆逐艦に至っては、小口径のパルスレーザー砲ですら破壊可能なほどだった。空母部隊も、攻撃時は極めて高い破壊力を示すも呆気なく壊滅している。多くが、電撃的侵攻を前提としていて、敵からの密度の高い反撃をあえて考慮から外している為と考えられた。
 主動力となる波動機関に関しては、一部で使用されていた放射線触媒(仮称:アンドロメディウム)が銀河系に存在する可能性の低い希少なものであると判った。また波動機関に付属する形の発電装置が大規模であり、移動国家故に太陽発電を用いずに他動力を利用した発電に依存した技術体系が用いられている事も判明した。
 ガトランティス帝国軍が、瞬間的に膨大な電力エネルギーが必要になる超高出力熱プラズマ兵器と大威力フェザー砲(回転型速射砲タイプ)を多用しているのも、当然といえば当然の選択だったのだ。
 そして遺棄物資の収集の中で、回収者たちは奇妙な事を発見する。ガトランティス帝国軍は、修理すれば復帰可能な程度に損傷した艦艇を、かなり簡単に放棄しているのだ。無論放棄に際して波動機関の無力化などの措置は取られていたが、比較的簡単な修理と改装、もしくは地球製の機材を代用して修理すれば再使用可能なものが多かった。
 そうして回収された再利用可能なレベルのガトランティス帝国軍艦艇は、大型ミサイル戦艦4隻、中型高速空母2隻、駆逐艦14隻にも及んだ。他に超大型空母1隻、大型戦艦3隻も回収されていたが、地球防衛軍が用いるには規模が大きすぎるのと、用いられている技術が他より高レベルのため、再生利用は当面諦められた。代わりに超大型空母は遺棄エリアに近い土星の衛星タイタンの衛星軌道に曳航され、航空機用の強固な軍事用リグ空母として利用される事になった。
 こうして3ヶ月の収集作業と4ヶ月の改装作業の後の2203年1月に、外周艦隊1個艦隊に匹敵する20隻の元ガトランティス艦艇が地球防衛艦隊に編入された。
 ここでの大きな収穫は、地球防衛艦隊が初めて全通甲板型の攻撃空母を保有した事と、強力な全天球型防空が可能な艦艇を得た事だろう。
 艦載機の方も、この空母に合わすかのように中型で大きな攻撃力と汎用性を持つ「3式艦上戦闘攻撃機(A-3) サーベルタイガー」の量産配備が始まりつつあり(本来は後期型戦闘空母用)、これで地球防衛艦隊は初めて実用的な惑星内での空母運用能力を得た事になる。
 そしてこれらの艦艇は、実験艦隊である第7艦隊へ編入され、順次実験と訓練に入っていった。
 そうして元ガトランティス艦艇が艦隊に編入された頃、もう一つの奇策も実行に移されつつあった。
 人員不足の切り札、完全自動艦隊の編成だ。

 完全自動艦隊は、二種類の新型汎用自動艦から編成され、艦隊丸ごとが内蔵された行動予測型人工知能による自己判断と、指令センターからの遠隔操作により作戦行動する事になっていた。
 完全自動艦の利点は、その名の通り人の手が不要な点にある。また居住区が不要なため艦内容積をより有効に使え、人がいないので瞬間的な機動性や加速性についても破格のものが設定できた。極端な話、戦闘機のような高機動を行う大型艦艇が建造可能という事だ(※機械的に慣性制御が可能であっても、無人と有人の間には大きな開きがある。)。
 また自動艦であるため、高度な人工知能と遠隔操作用の通信装置を装備している。
 欠点は、技術的未熟と技術の熟成期間が短かった事から、自己判断の装置及びルーチンが開発時点では不完全だった事だ。決められた動きなら有人艦と同等がそれ以上の動きが可能だったが、奇襲攻撃など突発自体にはまったく対応できなかった。そのため通常は、指令基地から遠隔操作される事になっていた。この人工知能関連の技術は、皮肉にも初陣となったデザリアム戦役後に、敵からの技術収集により飛躍的な向上を見ている。
 自動艦隊を構成する二種類の自動艦は、大型艦と小型艦あるが、艦の規模はそれぞれ施設面で建造可能な最大級のものが選択されいた。
 大型艦は「自動超大型戦艦」と呼称され、後の発展を見越した余裕のある船体は、船体規模だけでアンドロメダクラスが設定された。装備は、大口径波動砲2門、20インチ4連装砲4基搭載を始め、アンドロメダ以上のものが施されていた。クラス名には、かつて人が用いた大型武器(クレイモア、ハルバードなど)の名が与えられている。ガトランティス帝国の大型戦艦と撃ち合っても負けない事を前提に建造されたが故の能力だった。また、設計自体に盛り込まれた事と大型艦故に艦体に余裕があり、後の大幅な改良を受け入れることも可能だったし、さらには大規模なモジュール交換と仕様変更により有人艦として建造・運用できる構造にもなっていた。自動艦とは言え、大型で贅沢な艦だった証拠と言えよう。現に、有人型がその後数隻就役もしくは再生している。
 一方小型艦は「自動重駆逐艦」と呼ばれ、約4000トンの船体に、8インチ衝撃砲を始め巡洋艦クラスの装備が施されていた。ただし波動砲は搭載されていない。クラス名には、かつて人が用いた小型武器(ダカー、レイピアなど)の名が与えられている。こちらには、ガトランティス帝国の技術が大きくフィードバックされて、艦様も従来の葉巻型から大きく変化している。
 共に通常の有人艦艇より重武装であり、運用面での柔軟性の低さを火力で補うようになっていた。
 艦隊編成は、大型艦1個戦隊4隻に小型艦1個戦隊12隻を合わせて1個艦隊となる。計画ではこの編成の艦隊を外周艦隊の代わりとして用いて半年に1個艦隊のペースで整備され、最終的には現状の外周艦隊と同じ数だけ編成される予定だった。つまり、当初は3個艦隊、合計48隻の整備が始められた事になる。当初計画だけでアンドロメダ級の大型戦艦だけで12隻も建造するのだから、中継ぎ計画としては計画規模が大きかった事が理解できる。
 また、自動艦隊の完成時期に就役した試験艦で有人艦の「アンドロメダII」には、船体・通信装置に余裕があったため自動艦隊のコントロールシステム一式が搭載され、有人艦と自動艦による混成艦隊の試験も行われる予定となっていた。
 このため自動艦隊の試験艦隊が実験艦隊である第7艦隊に編入される予定で、第7艦隊旗艦にも建造当初は員数外となる実験戦艦の「アンドロメダII」が当てられる事が決定していた。
 そして地球防衛艦隊のあらゆる艦艇を集めた第7艦隊(当時の地球防衛艦隊の機動戦力の三分の一を有していた)が、彗星の巣への長期航海演習に出発した頃、人類は次なる試練に直面する事になる。


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