●デザリアム戦役

 デザリアム帝国との戦争状態は、正確には「イスカンダル危機」のあった西暦(地球歴)2202年5月13日に開始されている。
 この時イスカンダル星の危機を受けて急遽派遣された「ヤマト」は、自らを暗黒星団帝国と名乗った現地デザリアム帝国と独断でなし崩しに交戦状態に突入してしまう。
 この時の戦闘自体は、ガミラス軍との共同戦線で現地デザリアム帝国軍をうち破り、イスカンダルの危機を救う事ができた。そして、暫定的な現地での外交権が与えられていたとは言え、「ヤマト」クルーに対する後の政治面での批判は大きかったが、主に地球人類全体の感情面(恩返し的心理)ではやむを得ない措置であったとされる事が多い。
 だがしかし、この時点でデザリアム帝国の詳細も国家の位置についても全く不明だった事は、事情が事情とは言え大きな失点だったと言えるだろう。戦闘中の数度の交信とガミラスからの情報、戦闘等で判明した事も、別の銀河系の国家である事、ガミラスをしのぐ軍事技術を有している事、戦争のため波動機関用の特殊な放射性元素を強く求めている事だけだった。
 そしてイスカンダル救援と未知の文明との戦争状態突入の代償が、彼らが地球人類を認知し地球人類と敵対した事だった。加えて、この時最も致命的だったのは、イスカンダルから地球へと帰投した「ヤマト」が、彼らの偵察部隊に追跡されていた事だった。しかも地球人類、地球連邦側がこの事実を知る事はなく、ガトランティス戦役での傷を癒す事に専念していた。「ヤマト」のみならず連邦軍全体での失態のため、地球連邦上層部も戦役後に「ヤマト」クルーを徹底的に糾弾できなかったとも言われている。

 そして地球人類がガトランティスとの戦いからようやく落ち着きを取り戻した西暦(地球歴)2203年5月、地球は突如デザリアム帝国(地球側当初呼称:暗黒星団帝国)軍の電撃的な地球本土侵攻を受ける。
 この時デザリアム帝国は、重核子(ハイペロン)爆弾をまず投入して、地球防衛力の奇襲的殲滅を計った。
 この「ハイペロン爆弾」は、極めて特殊な粒子を放出する事で生物の生体電流や脳波を止めてしまう極めて凶悪な装置である。しかも何度も使用する事ができ、被爆半径は数十万キロメートルにも及んでいた。爆弾というよりは、特殊な爆発現象を利用した一種の粒子拡散兵器と言えるだろう。
 なおこの時は、地球人類の脳(大脳)に対してのみ致命的ダメージを与えるよう設定されていた。つまり地球人類が被爆すると極めて短時間で脳死してしまうのだ。これは戦役後に解析され、重核子爆弾は一種の量子を使用していることが分かった。そして被害を防ぐには、タキオン系のシールド波長を同調させ遮断するのが最も有効だと判明した。
 だが当時何も知らない地球人類側に対して主要外惑星付近を通過した重核子爆弾は、地球防衛軍の人員だけを殺戮しつつ抵抗を受けないまま地球へと降下する。しかも間髪を置かずして、一大機動部隊が出現。残りの抵抗を排除していった。
 進撃は全く電撃的であり、首都が置かれていた地球の東京メガロポリス郊外に着地した重核子爆弾を用いた恫喝もあって、地球連邦政府は数日で全面降伏に追いやられた。
 無論地球防衛軍も、黙っていたわけではなかった。水際での迎撃戦や敵艦隊に対して、重核子爆弾の影響を受けない自動艦隊を用いての反撃を開始する。しかし、敵との艦隊決戦直前に地球側制御施設が壊滅し、柔軟性を失った自動艦隊2個艦隊は呆気なく殲滅もしくは無力化されてしまう。地上施設からの防衛も、ある程度善戦するのが精一杯だった。
 なおこの一連の戦闘で重核子爆弾によって地球人類が殲滅された外惑星は、爆弾の進路の関係から冥王星から火星にかけての約半数に上る。一方では、各基地や資源拠点は、自動機械により稼働するものがほとんどだったため人的被害は意外に少なくかった。また土星圏、木星圏は地球人類側の活動範囲が広すぎるため、主に軍事施設がピンポイント攻撃を受けた。そして最も損害が大きかったのが、宇宙でも多くの人的資源を必要とする地球防衛軍であった。
 なお軍事・産業など多くの面での一大拠点である月面は、被爆範囲の関係で地球とほぼ同じ位置となるため壊滅を免れている。また月面の人口が億の単位を数えた事も、デザリアム側の事情で被爆させなかった大きな要因となっている。だが無傷だった月面と月面の地球防衛軍各部隊も、地球そのものを人質に取られ身動きがほとんど取れず、しかもその後のデザリアム艦隊の襲撃により軍事施設と港湾施設の多くに被害を受けていた。
 また身動きできなかったのは、他星系や太陽系辺境にいた艦隊や部隊、各地の間を移動中の艦隊、太陽系外の艦隊や施設、さらに地球より内側にあった基地など多数に上っていた。つまりこの時点で、地球防衛軍の戦力が消滅したわけではなかった。全体から見た場合のこの時の損害率は、人的資源の面から見ても最大で約30%程度になる。ガミラスとの戦いを思えば、十分に許容範囲内の損害であった。
 そして中でも大きな機動戦力を抱えていたのが、旧ガトランティスの駐留施設を再利用してシリウス恒星系で長期演習を始めたばかりの太陽系外周艦隊第7艦隊だった。
 第7艦隊の戦力は当時の地球防衛艦隊・太陽系外周艦隊の三分の一にも及び、「アンドロメダII」を旗艦として多数の戦艦、空母を含む一大機動艦隊だった。しかもこの演習では機動部隊全体の演習も兼ねていたため、当時地球が有していた空母、戦闘空母のほとんど全てが演習に参加していた。加えて、自動艦やガトランティス再生艦も多数擁しており、駆逐艦以上の大型艦艇数は約70隻に達していた。これは、通常の外周艦隊3個艦隊分に相当する戦力だった。
 ただし、この戦力をデザリアム帝国側が放置しておく筈もなく、地球侵攻開始とほぼ同時に自らの侵攻艦隊主力の約三分の一をシリウス方面に差し向ける。
 シリウスでの戦闘も、デザリアム側の奇襲に近い形で始まった。完全な奇襲攻撃にならなかったのは、演習中である程度艦隊が分散していてその一部が最初にデザリアム軍から攻撃を受けたためだった。ただしその後は断続的に戦闘が行われ、守勢を維持せざるを得ない地球側艦隊のほとんどが大なり小なり損傷するという事態にまで追いつめられる。しかし戦力、軍事技術双方に勝るデザリアム側の攻撃はどこか及び腰であり、じわじわと包囲網を狭める戦法を続けていた。このため艦隊全体の損失艦艇も最低限だった。
 理由は後に判明するのだが、この時のデザリアム側の躊躇が地球側の不意の増援を間に合わせ、逆にデザリアム艦隊壊滅に繋がる。
 この時来援したのは、消息不明となっていた「ヤマト」以下合計2隻の小艦隊であったが、「ヤマト」は約一年にも及ぶ近代改装工事により最新鋭戦艦と同等の戦力を持つ艦艇に生まれ変わっていた。そして敵後方から奇襲による攻撃で包囲網を呆気なく突き破り、内と外からの攻撃によりデザリアム艦隊は壊滅・撤退した。
 なお、この時の戦闘で分かった事は、デザリアム艦艇はシールド防御及び装甲は強力だが、一旦防御を打ち抜かれてしまうと思いの外という以上に脆い事であった。そして接近戦でのショック・カノンが有効で、波動砲の効果に関しては通常では考えられないほどだと判明した。
 そして地球から脱出したクルーを連れた「ヤマト」は、敵艦隊の包囲殲滅後に地球の状況とハイペロン爆弾の特徴を、第7艦隊司令部に伝える。また地球防衛軍総司令官による命令書まで携えており、命令を受けた戦力の全てが対デザリアム戦に関してのフリーハンドを得ることができた。
 ここで艦隊司令部は、起死回生を計るべく一路進路を40万光年彼方の暗黒星団デザリアム帝国本星に向ける決定を下す。そうしなければ、ハイペロン爆弾の脅威(主に起爆方法:本体と本土の装置双方の無力化が必要)から地球人類を救う手だてがないと判断されたからだ。この時点で敵本星の位置は、敵艦隊のワープ跡のハレーションなどから方位と概略距離、概略位置がわかる程度だったから、いかに追いつめられていたかも理解できるだろう。
 そして地球防衛軍始まって以来の大規模遠征作戦が開始される。当然と言うべきか進撃途上で問題が多発し、「ヤマト」が行ってきた過去の旅同様に苦難に満ちたものとなった。
 だがここで重要なのは、地球防衛軍が「個艦」ではなく「集団」として初めて遠征を行った点にあった。これまではほとんどの場合、「ヤマト」単艦による旅や探査、戦闘が行われた。これは「ヤマト」が、戦闘艦としてばかりではく移民船としての設備を十分に備えたままで長期遠洋航海に適していたからだ。だがこの時は、最終的に70隻近い大規模な艦隊と2万人以上の宇宙戦士達が、イスカンダルより遙かに遠い40万光年彼方のデザリアム帝国本星を目指した。
 なお、この遠征成功の背景には、侵略行動を旨とするガトランティス帝国のテクノロジーやノウハウを吸収していた事が大きく影響していた。また艦隊に元ガトランティス艦艇や、事実上無補給・無休息でかまわない自動艦が含まれている事も、遠征を可能とした大きな要因となっていた。無論長期演習のため大量の物資を持ち出していたなど、純物理的な要因も遠征を可能とした大きな要因なのだが、ガトランティス帝国との戦いとその後の技術吸収なくして遠征は不可能だっただろう。

 地球防衛艦隊第7艦隊とデザリアム帝国の戦いについてここでは割愛するが、主に暗黒星団(=超高速回転する暗黒銀河)と平行した先に存在した白色銀河系での約半年間にも及ぶ根気のいる探査と連続した戦闘において、最終的に敵本星を突き止め敵本土での決戦に勝利し、ハイペロン爆弾起爆装置の破壊に成功する。
 しかも高密度ガスのダイソン球郭で覆われた敵母星系での戦闘時の偶発的事件の重なりにより、デザリアム帝国本星は極めて大規模な波動融合反応により爆発崩壊した。しかも爆発は敵母星、母星系だけにとどまらなかった。予想外というレベルを超えた誘爆の拡大で、白色、黒色二つの銀河系も波動融合反応により時間をも超えた超超光速でほぼ瞬時に崩壊してしまう。この爆発は、融合反応の亜空間連鎖による時間も空間も通常の物理法則も無視した次元崩壊だったため、既存の法則がまったく通用しなかった。そしてあまりにも大きな事件だったため、デザリアム戦役そのものとは別に「二重銀河崩壊事件」と呼ばれている。そしてこの時、暗黒星団帝国だけでなく、両銀河系にあった地球が認知していなかった星間文明の全ても滅亡したものと考えられているが全て未確認である。

 一方デザリアム本星崩壊までに地球側では、ねばり強いパルチザン運動の結果ハイペロン爆弾の起爆装置解体に成功。時を同じくして、残存する全ての地球防衛軍による反撃が開始される。
 この時までにデザリアム側は、自らの母星を目指した地球艦隊撃滅のため過半数以上の戦力(侵攻部隊主力含む)がデザリアム本土へと帰還していた。このうち一部の部隊が白色銀河を放浪していた第7艦隊と交戦したが、多くが二重銀河系崩壊の誘爆に巻き込まれ消滅したと考えられている。
 一方地球及び太陽系に残された占領軍兵力は、侵攻初期の3割以下に低下したいた。このため対パルチザンの治安維持ならともかく、降伏をよしとせず各地に潜伏した地球防衛軍並びに地球防衛艦隊に対抗することはほとんど不可能となっていた。また母星及び国家、母銀河の崩壊という国家のみならず種族の破滅を伝える一報と共にデザリアム兵の士気が崩壊しており、ほとんど地球側の殺戮劇と言える一方的な戦闘が一ヶ月近く展開される事となる。そして、ハイペロン爆弾が無力化されたデザリアム軍にとってできる残された事は、「如何にして地球人類から逃がれるか」だけであった。
 しかもデザリアム残存戦力が、たまらず太陽系外に逃れようとしたところを、太陽系へと帰投してきた第七艦隊と太陽系外縁で鉢合わせする形となる。そして不幸は重なるもので、第七艦隊の方がデザリアム残存戦力を先に気づき戦闘隊形を整える事になる。不意打ちの形となった第七艦隊の攻撃は、凱旋帰還・祖国奪回という事もあり戦意旺盛で、しかも太陽系内部から追撃してきた艦隊も追いつき包囲殲滅戦となった。
 そして脱出のためなまじ集結していた在太陽系デザリアム軍は、この時点でほぼ完全に殲滅される事になる。

 2208年現在、生き残りのデザリアム人の数は、銀河系各地で生き延びた艦艇などの僅か数千名程度と推測されている。また地球連邦政府は、太陽系外縁での残存戦力の殲滅をもってデザリアム戦役の終結を宣言し、また消滅したデザリアム帝国との戦争状態の解除も同時に宣言した。
 現在では、戦闘とは逆に残存デザリアム人の保護を進めると同時に、和解及び彼らの最低限の種の存続についての活動を行っている。
 優れたデザリアム文明の収集という目的もあったが、贖罪と言うにはあまりにもあからさまな贖罪というべきだろう。
 なお最後に、地球人類はまたも絶滅や服従から逃れることができたが、一つの一大星間文明そのものを完全に滅亡させた、という事を追記したい。
 また後日談の一つとして、二重銀河崩壊が後の銀河系の悲劇をもたらしたとする有力な仮説が存在している。つまり、銀河系と突如交差した異次元銀河は、亜空間的崩壊を起こした筈の白色銀河であると言うのだ。無論、今のところ真偽は定かとはなっていない。


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