●銀河大戦(デスラーの軌跡)

 西暦(地球歴)2204年が明けた頃、銀河系核恒星系では、一つの大きなうねりが生まれようとしていた。
 イスカンダル危機後、イスカンダル星にて「ヤマト」と分かれたガミラスのデスラー総統率いるガミラス残存艦隊は、自らの母なる星を失ったという事もあり、その後銀河系中心部へと第二の故郷探しの旅に出た。
 自ら戦乱に明け暮れた結果、大小マゼラン星雲には彼らを受け入れる場所が既に存在しなかったからだ。因果応報とは言え、過酷な現実がそこにはあった。
 その後地球側は、ガミラス残存艦隊の行方について全く知ることはなかったが、旅立ちを始めた彼らはある一つのルートをたどっていた。それは結果論的なものであったが、彼らの先祖がかつていた銀河系からマゼラン星雲に至った道を遡るものだった。
 また民族大移動に際したデスラー総統は、大小マゼラン雲にあったありとあらゆる残存ガミラス勢力の集結を命令し、未曾有の一大移民船団を形成していた。
 移民船団の規模は、もともとガミラス帝国時代に百年単位で移民計画を進めていた事もあり規模が大きかった。またガミラス本星崩壊後も戦線維持や資源確保などのため残っていた残留部隊を根こぎ含めているため、全ての戦線を放棄したその数及び戦力は数千隻にも達していた。かつて「ヤマト」が見た一千隻に達する大艦隊は、いまだ健在だったのだ。
 その様は、まさに大ガミラスの再来を思わせるものがあり、ひとたび彼らが侵略者となればその威力は全銀河を覆い尽くすに十分なものであった。だが今度の彼らは、可能であるなら穏便に第二の故郷を探すつもりであった。この数百年間とて、彼らも好んで侵略戦争を続けていたわけではなかったのだ。
 そうして平穏なまま銀河系へと入ったガミラス移民船団は、知的生命体のいない太陽系を見つけては調査を行っていった。残念ながらガミラスの第二の故郷足りうる星はなかなか見つからなかったが、資源獲得のための拠点をいくつも建設しつつ、またいくかの将来有望な星を見つけると百年単位でのテラフォーミングの準備も開始した。第二の故郷はともかく、まずは新たな足場を作ることが先決だったからだ。しかも銀河系には彼らに敵対する勢力はなく、彼らの新たなる旅立ちは極めて順調と言えた。
 そうして地球時間で一年以上の旅を続けていた彼らは、運命的とも言える遭遇を果たす。
 それは数千年も昔、彼らの先祖達が築いた移民途上の拠点跡(遺跡)との遭遇だった。そこで彼らは気づいた。この道標を逆に辿っていけば、彼らの先祖が旅立った故郷もしくは彼らの先祖にあたる民族に出会えるかも知れないと。
 かくして先遣艦隊を編成して急ぎルートを探らせるのだが、その先で彼らは驚愕すべき現状をに出会うことになる。
 確かに道標の先には、彼らの先祖筋に当たるガルマン民族が住む星があった。だがそこはボラー連邦(銀河連邦)と名乗る全体主義的軍事国家の勢力下にあり、しかも同胞と呼んで差し支えないガルマン民族の本星住民は、近年ボラーとの戦いに敗れたらしく奴隷的地位に貶められていたのだ。
 これにいたく激怒したデスラー総統は、急ぎ銀河系各地に調査のため分散していたガミラス艦隊主力を集結させると、電撃的にガルマン星へと進撃。現地ボラー艦隊を、必殺のデスラー戦法と果敢な突撃で瞬く間に殲滅してしまう。
 それはボラーにとってもガルマン民族にとっても青天の霹靂の出来事だった。
 そしてガルマンの民と熱い抱擁を交わす暇もないほどの性急さで、デスラー総統は動き続けた。戦意旺盛なガミラス艦隊は、奪回したガルマン星で得たボラー側の情報に従い、彼らの拠点や艦隊を次々に急襲、これを撃破していった。
 しかもガミラス艦隊の動きに呼応して、周辺地域で反ボラー派の星が次々とボラーに反旗を翻し、デスラー総統率いる戦力は加速度的に膨れあがっていった。その中には、ガルマン本星を追われたガルマン国家に属する軍事力もあり、通称デスラー連合軍の一翼を担った。
 事態発生から一ヶ月、事態を憂慮したボラー本星では、突然発生した「大規模反乱」にようやく本腰を入れる。しかし、必要十分と判断して派遣した艦隊は次々に撃破された。
 しかもボラー本国が「反乱軍」と決めつけたデスラー艦隊は、彼らの持つ最終兵器の一つであったプロトンミサイル(陽子爆弾を弾頭とする恒星間弾道弾)を使用して、ボラー艦隊を粉砕したのだ。
 このプロトンミサイルは、地球との戦いでついに使われなかった戦略兵器だった。地球に使わなかったのは、当時のガミラス側が終盤まで使うに値せずと判断していた事と、ガミラスがあくまで地球への移民を前提として戦いを行っていたためだ。
 だが、仇敵ボラーに対してガミラスは、何ら遠慮する必要がなかった。
 しかも、ボラーの持つ科学力より、戦乱で鍛え上げられたガミラスの科学力の方が上回っていた。デスラー砲、瞬間物質移送機を用いたデスラー戦法、ガルマン軍の切り札であった次元潜行艇など数々の決戦兵器により、デスラー連合軍は次々に勝利していった。
 この敗北を前にボラー本国では、軍人の首を次々と切りつつ大きな政争へと発展。数ヶ月後に、軍事面ではなく政治面で大きな実績をあげ強大な権力を持つに至ったベムラーゼ首相(書記長)の台頭へと至ることになる。ベムラーゼ首相は強硬姿勢がとかく指摘されがちだが、この後の混乱は彼の強力な指導無くして沈静化は難しかっただろう。
 だがこの時点でボラー本国は混乱しており、急速にすり減らされる戦力、奪われる広大な領土を前に、とにかく大艦隊を投入して一気に「反乱鎮圧」を行おうとした。
 ガルマン本星陥落から三ヶ月後、ボラー本国では全銀河から集結させた3000隻以上の一大機動艦隊を投入して事態の解決を図ろうとする。
 しかしそれは、デスラー率いるガミラス艦隊の予測しうる事だった。ここ数百年間、小規模な侵略や反乱ばかりに対処してきたボラー艦隊とでは、くぐってきた場数の決定的な違いがあった。
 彼らは周到に待ちかまえ、偽情報や囮艦隊などを使いおびき寄せた宙域、銀河系中心核のマザー・ブラックホールすら見えようかという宇宙が光り輝く場所で一大決戦を敢行する。
 「核恒星系会戦」と呼称される場所に参集した両軍戦力は、合わせて約5000隻。戦力の6割以上がボラー側となるが、地球とガトランティス戦役のおおよそ3倍の艦艇数で、戦力にして5倍の量に達していた。
 数において劣るデスラー連合軍だが、まずは地の利を得た陽動と奇襲を用いて敵艦隊の分断を図る。
 その間両軍の間でプロトンミサイルが飛び交うが、デスラー連合軍が超重力装置(近場で捕まえてきた小型ブラックホールの一部)による地形障害を複数設置して戦場を限定し、戦場を限定させると同時に艦隊主力は恒星系から離れてプロトンミサイルを封殺。通常の艦隊決戦に持ち込む。
 そうした段階で、突然の地形変化で混乱するボラー艦隊に対して、ガミラス史上空前のデスラー戦法が実施された。半日の間に数十隻の空母、戦闘空母から飛び立ったのべ数千機の艦載機群が、突如亜空間から現れては奇襲してボラー艦隊をすり減らすと言う作戦行動が続けられた。
 ジワジワとすり減らされるままであったボラー艦隊だが、ようやく自然と人為によって作られた狭い航路の先に隠れた「反乱軍」主力を発見。数の力で一気に押しつぶそうとした。
 しかし人工的な「海峡」は狭く、ボラー側は数の優位を生かせない戦闘を強いられる。しかも側面からは、所在が定かではない次元潜行艇が嫌がらせとも言える攻撃をかけ続け、しかも散発的にどこからともなく敵艦載機が出現し続けた。
 戦いが始まってから約一日半、進まぬ戦局に業を煮やしたボラー艦隊司令は、遂に全戦力を投入して強引に「海峡」を突破しようとした。何しろボラー艦隊は、消耗したとはいえ依然として相手より多数の戦力を持つからだ。
 そしてそれこそがデスラーが待ち望んでいたものだった。
 ボラー艦隊先鋒が「反乱軍」前衛を撃破したと思ったまさにその瞬間、その真後ろで待ち構えていたデスラー親衛艦隊の一斉斉射を受ける。
 用いられる武器はもちろんデスラー砲。この時までに数十隻揃えられた簡易デスラー砲艦の群は、たった一撃で縦列の密集状態になっていた1000隻以上のボラー艦隊を文字通り消滅させてしまう。
 これで戦いの帰趨は決し、あとはデスラー連合軍による一方的な追撃戦となった。なお、この時用いられた波動砲の数は、ガトランティス戦役での地球防衛軍が白色彗星に対して発射した数に匹敵する規模である。
 かくして、丸二日続いた決戦はボラーの完敗で終結した。
 しかもボラー連邦軍全体で見た場合、所属する全艦隊戦力のおおよそ三分の一、機動(余剰)戦力の過半数を失うという大損害だった。当然というべきか、ボラー側は戦線を立て直すことができなくなり、その後は事実上ガミラス側の前進が兵站の問題から自然停止するまで戦線崩壊状態となってしまう。
 そして決戦から一ヶ月後、デスラー総統は流浪の身であるガミラスを暖かく迎えたガルマン民族との連合国家形成を宣言。デスラー紀元108年、西暦(地球歴)2204年5月、ここに一大星間国家ガルマン・ガミラス帝国が建国される。
 なおガルマン民族は、古くはシャルバート王国が存在した頃から銀河系中心部核恒星系に勢力を誇り、外宇宙に進出していった。そのうちの一つが、大マゼラン星雲に至ったガミラス民族だった。だがガルマン民族は次第にその勢力も衰え、ボラー連邦の台頭に伴い勢力を減退させ、西暦2200年代には仇敵であったボラー連邦に母星すら支配され、しかもその母星が奴隷状態に置かれるという窮地にあった。そして民族最大の窮地の時、デスラー総統が流浪の艦隊を率いて現れた形になる。
 だがそれでも本星以外のいくつかの地域に星間国家としてある程度の基盤や軍事力は残していたため、デスラー総統の国家建設はより容易となった。またガルマン民族だけが持つ優れた技術(次元潜行艇など)などもあり、ガルマン・ガミラス帝国の重要な一角を担うようになる。

 その後デスラー総統率いるガルマン・ガミラス帝国は、ボラー連邦に対してさらに積極的な攻勢を続け、約半年で銀河系核恒星系の主要部を支配し、銀河を二分する一大星間国家へと急成長を遂げる。
 そしてその余波が、早くも地球へと至りつつあった。


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