●第二の地球探査

 西暦(地球歴)2204年年末、地球人類の感知しないところで一大事件が発生する。
 ガルマン・ガミラス帝国とボラー連邦の戦いで使用された恒星間弾道型プロトンミサイルのうち1発が流れ弾となり、自動設定された投棄処理のためのランダム・ワープの末に偶然太陽系内に飛来。そこでエネルギーを失ったミサイルは、重力に引かれるまま太陽へと着弾したのだ。
 しかもこの超大型ミサイルは見た目の漆黒色が示すとおりステルス型でもあり、地球側が全く予期していない事も重なって、地球人類は全く知ることができなかった。そしてプロトンミサイルの太陽内での爆発で、太陽は核融合の異常増進を促進させ人類を滅亡の危機へと追いやるのだが、それを人類が知るのは爆発から一ヶ月以上先の事だった。

 未知の事故から約一ヶ月後の明けて2205年、地球人類が自らの危機を知ろうというまさにその頃、突如防空識別圏内深くに未確認飛行物体を確認する。しかもほとんど失敗状態のランダムワープをしてきたとしか思われれない危険行為を行った未確認飛行物体は、ファースト・コンタクトはもちろん地球防衛軍にインターセプトの暇を与えずに地球に降下しようとする。その後も交信を閉じたまま戦闘行動を続けるため、やむなく迎撃に出た現地地球防衛軍によって低高度軌道で何とか撃沈される。
 全長200メートルクラスの艦艇は完全に爆発したためこの時点で多くを知る術はなかったが、残骸などから高度な星間文明と軍事力を有することが判明した。また回収された遺体から、地球人類と同型の知的生命体である事も判明した。その他の情報の解析も急がれた。特にブラックボックスやボイスレコーダーに相当する装置の解析が急がれたが、艦中枢部の物質は自爆機能の作動と思われる爆発により、乗組員の遺体も含めてほとんど消滅していた。それでも残骸の解析は急がれた。撃破された艦艇の異星文明先を明らかにすることが第一だったからだ。
 さらに地球防衛軍は、この時点で警戒態勢を強化。外周艦隊も予備待機の艦隊が緊急出撃し、太陽系外に対しての近隣調査も合わせて開始された。
 一方で、太陽の異常増進がようやく地球人類の手で確認された。しかも地球上での地球人類及び主要生命体生存のタイムリミットが約一年であることが、恒星天文学の権威であるサイモン教授の研究により明確に判明した。
 この時点で地球連邦政府は、先年計画が始まったばかりの移民計画を大幅に前倒しにする事を決意。さらに第二の地球探しのため、地球防衛軍並びに政府が全力が挙げることも同時に決められた。そしてその先駆けとして、遠洋航海と探査に優れた「ヤマト」に白羽の矢が立つ事になる。この時「ヤマト」が選ばれたのはまさにその能力故で、さらに他の専用艦艇がいまだ訓練中や艤装中のためであった。
 ただしこの時点では、太陽の異常増進も新たな異星文明の存在も、市民には伏せられていた。だからこそ、探査には軍艦が用いられたのだ。

 「ヤマト」を先駆けとする第二の地球探査開始の矢先、今度は太陽系外からまた違った未確認飛行物体が飛来する。深海魚のようなデザインのこれまで見たこともない形状の戦闘艦で、戦艦クラスと思われるその艦艇は大きく損傷していた。
 幸いファースト・コンタクトに成功し、同じオリオン腕にあるバース星という惑星を母星とする国家に所属するラジェンドラ号と判明した。彼らの用いる言語は比較的解析しやすく、向こうから言語解析用のデータが提供されたため意志疎通もすぐに可能となったのだ。
 また情報の交換と人類同士の接触によって、バース星人は地球環境とほぼ同じ条件下で生存する人型知的生命体であり、食性から遺伝子に至るまでよく似た種族だと判明した。何より地球人類にとって一般的な形での友好的なファーストコンタクトが初めてという事もあり、接触当初は慎重であると同時に丁重なもてなしが行われた。バース星人の方も、文明的かつ友好的な対応だったこともこれに拍車をかけた。
 そしてラジェンドラ号がもたらした最新の銀河系中心部情報は、銀河系辺境に住む地球人類にとって驚くべきものだった。地球人類は、ようやく銀河系中心で今まさに行われている大戦乱の事実を知ったのだ。
 そしてラジェンドラ号滞在の最中、今度は別の未確認艦隊を確認する。数は数十隻にも及びダークグリーンの攻撃的な艦艇で構成された、軍隊以外あり得ない戦闘集団だった。しかもその艦艇は、数ヶ月前地球に現れた艦艇に酷似していた。
 彼らは自らをガルマン帝国と名乗り、互いの言語解析もそこそこに自分たちの交戦国所属であるラジェンドラ号の引き渡しを要求。受け入れられない場合は地球連邦もガルマン帝国の敵と見なすと、一方的な通信を送りつけてきた。ラジェンドラ号も、ガルマン帝国をバース星と交戦状態にある敵国だと地球側に説明した。今までほどではなかったが、ほとんど一方的なワーストコンタクトだった。
 ここで地球側は、一度助けたものを裏切るのは国際信義に反するとして、高圧的でもあったガルマン帝国側の要求拒否を通達。合わせて、ガルマン帝国軍の地球領域からの退去を要求した。しかし地球とガルマン帝国との交戦を危惧したラジェンドラ号側が、自主退去を申し出る。
 この時地球防衛艦隊は領域(太陽系内)ギリギリまでの護衛を務めるが、結局ガルマン帝国側が約束を破って攻撃を開始。しかも地球側で護衛についていた艦艇(ヤマト)に対しても無差別に攻撃を開始する。この時点で交戦もやむなしと地球側も自衛のため反撃。ガルマン帝国との交戦状態に突入した。
 この事件をもって地球連邦は銀河大戦に巻き込まれた事になり、一大星間戦争と太陽系崩壊の危機という、二つの危機を抱えた困難に立ち向かうことになる。

 「ヤマト」がガルマン帝国軍を撃破しつつ、第二の地球探しのため銀河系中心部に向かう中、地球では全地球人類に真実が伝えられた。同時に、初期の準備段階を過ぎていた第二の地球探しと、初期段階に差し掛かっていた大規模移民の一大プロジェクトが本格的に、そして急ピッチで活動を活発化されていった。
 主な計画は、地球防衛艦隊の全力を挙げた護衛による各地への探査船派遣、簡易移民船の大規模建造、一時的避難場所としての土星圏へのスペースコロニーの設置及び建設、そして一年以内に開始される本格的移民からなっていた。
 この計画に従い、太陽系中のありとあらゆるプラントで、計画に必要な各種探査船、簡易移民船の建造が始まる。簡易スペースコロニーの建設の方は、ガミラス戦役前に建設され戦乱の中で破損放棄した地球圏の旧式コロニーが再利用される事になっており、修理と移動がその大きなプロセスとなる。
 そしてここで、様々な異星文明から得たオーバーテクノロジーと、度重なる戦乱の中で鍛え上げられた地球人類の建設能力が威力を発揮した。
 異常なほどの熱意で、キロメートル単位の大型船が古の伝説の中でうごめくドラゴンような超巨大工作機械群により次々と建造されていく様は、まさに天地創造や宇宙開闢を見るようだったと言われている。また一方では、巨大移民母船建造の手間を省くため、月面に元から存在している自律型地下都市を移民船の母体とするべく、住んでいる住民ごと“掘り起こされて”即座に改装作業へと入り、全ての人々の度肝を抜くと同時にいかに急がねばならないかを人々に知らしめた。
 無論、経済効率を無視した建設は地球経済に歪さをもたらした。だが、既にガミラス戦役から歪になっていた地球経済にとって、何かを大量にしかも素早く作り出す事はもはや日常となっていた。極端な話、何か大量の建設や生産を行わなくては、ガミラス戦役後の復興から依然として続いている復興熱と異常なほどの好景気は維持できなくなっていたとも言える。この状況を裏付けるかのように、とある著名経済人は「地球人類丸ごとの移民事業は、産業界にとっては天地開闢以来の天恵である」と言ったと伝えられる。

 一方その頃、最前線では戦局が二転三転する。
 原因はいずれも「ヤマト」だった。
 第二の地球探査任務中の「ヤマト」は、当初はボラー連邦辺境地域での援助を受けつつ、さらにガルマン帝国軍と交戦を続けながら探査任務に就いていた。「ヤマト」にしか出来ない離れ業と評価される事も多いが、これまでの功績を踏まえた特例措置として限定的外交権を与えられていたからこその活躍だったと言えるかも知れない。限定的外交権が付与されたのは、今までとは違い二つの星間国家が交戦状態で存在する中で活動しなければならないからだ。そして当初から一部で懸念されていたように、現場に多くの権限を与えた事が混乱を大きくしてしまう。
 とあるボラー連邦の星に寄港した「ヤマト」は、現地の政治体制(強制収容所などの存在)を独断で厳しく糾弾。相手側の対応の硬直さと高圧さもあり、ついには交戦状態に至ってしまったからだ。このことは地球連邦政府ならびに地球防衛軍を揺るがし、権限を与えた政府や防衛軍以上に、軽率すぎた「ヤマト」乗組員幹部の評価を非常に低くした。
 そしてこの時点で地球はガルマン帝国、ボラー連邦という二つの敵を抱えながら、第二の地球探査を行わなくてはならなくなった。
 当然ながら各地でボラー連邦軍との戦闘が発生し、「ヤマト」以外にも探査に出ていた探査船や探査艦隊が交戦に巻き込まれ、当然ながら損害も発生した。
 もっとも、一ヶ月もしないうちにさらなる政治的激変が訪れる。今度は予想を遙かに通り越えた朗報だった。
 探査と戦闘を続けながら銀河系中心部に向かっていた「ヤマト」が、様々な偶然と必然からガルマン帝国との電撃的な全面和平の橋渡しに成功したのだ。しかも正式にはガルマン・ガミラス帝国という名であったガルマン帝国の国家元首こそが、かのデスラー総統だった事が判明した。
 デスラー総統は、あまりにも急速な戦線拡大のため目の行き届かなくなっていた現地部隊の独走を深く謝罪し、直ちに地球との友好関係を締結する。さらには地球の危機を知り、ガルマン帝国の優れた科学技術による速やかなる太陽沈静化を行うと伝え、帰投した「ヤマト」と共にガルマン帝国の大規模な工作船団が訪れた。
 しかし、すでに地球表面での気温上昇が大きく進むほど膨張していた太陽は、ガルマン帝国の科学力をもってしても制御不可能なものだった。
 そしてデスラー総統はこの失敗を謝罪し、ガルマン帝国も第二の地球探しに協力してくれる事になった。母なる星を一度は失った彼らだからこその好意であると言えるだろう。
 しかしガルマン帝国の協力があっても、なかなか第二の地球は見つからなかった。有望な星への簡易テラフォーミングすら間に合わないほど、時間が限られすぎていたのが原因だった。しかもガルマン帝国と正式に国交を開いた事もあり、逆に交戦状態となっていたボラー連邦軍の妨害と交戦が激しくなる。各地に派遣された地球防衛艦隊も、大きな戦果を挙げると共にさらなる損害が発生した。撃沈された艦の中には、最新鋭の大型探査戦艦「アリゾナ」の姿まであったほどだ。そしてこの背景には、強力なガルマン軍を相手にするより、俄にガルマン帝国のアキレス腱となった地球を攻撃する方が、ボラー連邦の利にかなっていると判断されたという政治的駆け引きがある。
 ただしボラー連邦は、地球艦艇の主要艦艇の多くが自らよりずっと強力な波動砲や主力装備(ショック・カノンや各種波動弾)を装備し単艦でも容易な敵でないことを知ると、迂闊に手を出さなくなるようにもなってくる。100メートル程度の小型艦艇から決戦兵器にも用いられるショック・カノンが放たれた事は、相当ショックだったと考えられている。
 そうした中で本来の探査任務に戻っていた「ヤマト」は、かつて銀河系に覇権を唱え今なお銀河系の多くの人々が宗教的祈りを捧げるシャルバート星とのファーストコンタクトに成功した。そこで太陽制御を行うことができる装置、ハイドロコスモジェン砲を無償譲渡されるという幸運に巡り会う(※ハイドロコスモジェン砲=本来の用途は今回とは逆、つまり恒星の暴走を目的に使われる、ガルマン帝国すら製作不可能なオーバーテクノロジーを用いた兵器である)。
 しかもここに至る過程でいくつもの戦闘が頻発。ついには、シャルバート星を巡ってガルマン帝国とボラー連邦の主力艦隊決戦が発生する。そこでボラー側は、再建されたばかりの数百隻の艦隊(1000メートルに達する大型艦を旗艦とする主力艦隊)を一度に失う大打撃を受け、以後戦線を大きく後退するばかりでなく、地球人類に対する妨害密度も大きく低下した。
 そして西暦(地球歴)2205年11月「ヤマト」は無事帰投するも、地球を囮かつ人質とするべくボラー本国艦隊がゼスバーデ級巨大要塞と共に電撃的に侵攻。すぐさま、インターセプトに動いた月面艦隊(地球本国艦隊)との交戦状態に入った。しかしボラー艦隊の数は多く、当時月面艦隊が護衛していた「ヤマト」すら戦闘加入しなければならないまで戦況が悪化する。その後各所から駆けつけた艦隊が随時戦闘参加するも、逐次投入の形になり戦況は好転せず。
 そうして地球側の不利が明らかになった頃、ボラー本国艦隊を追ってきたガルマン帝国デスラー総統自ら率いる親衛艦隊が出現。ボラー本国艦隊と地球と金星の間の軌道上で交戦状態に入る。ボラー艦隊を率いるベムラーゼ首相も、本来の目的が地球を囮としたデスラー総統誘出だったため、すぐさまガルマン艦隊へと艦隊の進路を向ける。
 そしてこの戦場で両軍は、ブラックホール砲、ハイパーデスラー砲という二つの超兵器を用いた。おかげで太陽系は太陽沈静化にこそ成功するも、一時的な重力場の変化や各惑星軌道の変化などの大規模な自然災害に見舞われ、時空のゆがみなどその後遺症から一部進入不可能な空域を作り出してしまう。加えて地球と金星の間の軌道には、ガルマン帝国とボラー連邦艦隊のデブリが、またも多数浮遊する事になった。これで太陽系内には、ほとんどの列強のデブリが漂った事になる。そしてこれ以後、太陽系の安定度が低下したため、太陽系外移民を活発化させざるをえなくなる。
 だがとにかく、地球は再び危地を脱することができた。地球人類の損害も太陽灼熱化による損害だけで、今まででの戦役では最も小さく済んだ。

 しかし地球人類の危機感はいよいよ激しいものとなり、自らの宇宙への飛躍を加速させていく事になる。


●ディンギル戦役 前夜
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