十人十色<其の六>
「つーきはーしずーんでー」
「全く、元気がいいのお」
漸く温かみを帯びてきた空の下、は組の面々の元気な歌声が響く。担任教師の伝蔵は、そんな光景を微笑ましく思いつつも苦笑いを浮かべた。
「土井先生、六年生達、今はどのくらいになっておるんでしょうなあ」
「さあ・・・先ほどからあまり気配を感じませんが」
半助は辺りを見回す。軽く目を閉じて少しばかり遠くにまで神経を働かせてみるが、人の動いている様子はない。
「われわれに見つかるのを警戒してもっと奥へ行ったんでしょうかねえ」
それに、もしかしたら六年生たちは相殺しあってもうほとんど残っていないのかも知れませんよ、と半助は付け加えた。
と、そのとき。
「山田先生」
横の茂みから小さな声がした。伝蔵と半助に軽く緊張が走るが、すぐにその声を同僚と認め、歩み寄る。
「木下先生」
「どうかしましたか」
それぞれ言葉を発しながらこちらへ来る伝蔵と半助に、鉄丸は声を潜めて言った。
「学園長からのお達しです。すぐに学園へ」
「・・・まさか・・・」
半助と伝蔵は顔を見合わせる。鉄丸は二人の視線が自分に戻ると、軽く頷いた。
「はい。どうやら予定外の邪魔があるようで・・・六年生の課題を切り替えるようです」
鉄丸は一旦言葉を切り、軽く息をつく。
「無事に、下山するようにと」
「長次、小平太」
「仙蔵」
仙蔵は、茂みを抜けたところで漸く見知った顔と出会った。同級生を一年生の前にさらし者にしてから、誰とも会っていなかった・・・というより、『敵』を探そうとしても見つからなかったのだ。
「――長次・・・お前、文次郎と一緒じゃなかったのか?」
「・・・いないんだ」
長次は険しい表情で、仙蔵の問に答える。仙蔵は眉をひそめた。
「いない?あいつのことだ、早々に失格になるようなことはないと思うんだが・・・そう言えば伊作は?」
「あいつも。全然見当たんないんだけど・・・仙蔵、見なかった?」
「いいや」
仙蔵は考え込むしぐさを見せる。小平太と長次も、また然りだった。しばし無言で佇む三人の間を、風が吹き抜ける。
「もしかして」
沈黙を破ったのは小平太だった。
「もう試験、終わっちゃってるとか」
「まさか」
仙蔵は間髪をいれずに言った。
「終わっているのだとしたら何らかの合図があるはずだ・・・ここはやはり」
「何か起こっていると考える方が普通だ、だろ?」
「!!」
不意に聞こえてきた新たな声に、三人はそちらを振り返った。
忍び装束に身を包んだ見知らぬ者たちが、自分達をじっと見ている。三人は思わず身構えた。
「誰だ・・・?」
仙蔵は落ち着いた声で問う。首領格と思われる人物はくく、と押し殺した声で笑った。
「威勢がいい・・・お前達、忍術学園の六年生だな」
「だったらどうした」
小平太が、珍しくきつい眼差しで男達を睨む。先ほどの人物はうれしくて仕方がない、といった様子だった。
「さっきのガキと反応がそっくりだ・・・お前達、潮江と善法寺の知り合いか?」
「!!」
小平太や長次の目が見開かれる。ただ一人、仙蔵はあくまで冷静に問う。
「あの2人に・・・何をした?」
「くく」
首領は口の端を歪めた。
「あの2人は、きっぱりと我等の誘いを断りおった・・・もう用済みよ」
「・・・・!!ふざけるなッ!!」
たまらなくなって、小平太は地を蹴る。実習では見せない真剣な眼差しで、懐から苦無を抜く。そのまま手を振り下ろそうとした瞬間、目の前の男が急に目じりを下げた。
「いや、気に入った!!」
「・・・は?」
男の、声のトーンの上がりように、小平太は思わず手を止める。背後でも、静止しようとした仙蔵と長次が固まっているのがわかった。
状況が飲み込めずに固まっている小平太の肩を、男はがしりとつかんだ。その手の力に、漸く小平太は我に返る。
「・・・!なにしやが・・・」
「きみ!!」
手にさらに力を入れ、男はもがこうとする小平太を制止した。もうだめだ、小平太が目をつぶった瞬間、男はこう言った。
「我が忍者隊に入らないか!?」