表裏一体〜其の二〜
利吉は樹上でぼんやりと眼下に広がる景色を眺めていた。
景色は目に映ってはいるが頭の中までは入ってこなかった。
頭の中では昨日のやりとりが繰り返されている。
――利吉、蘿とは一体何者なのだ?
――父上…どういうことですか?
――お前が蘿について知っていることを全て教えてほしいと言っているんだ。
考えたこともなかった。
二年も一緒にいながら自分が知っているのは「蘿」という名前だけ。
――年齢も知らないのか。
――えっと…私は聞いたんですけど何も聞かずに『同い年だ』と言い張って…
お互いに年齢を知ると対等につき合えなくなるし、余り相手について知りすぎると、将来忍としてやりにくくなるからって…それで…
――しかし、余りにも知らなさすぎるな…それでは。
確かに父上の言うとおりだ、と思う。
自分は何もかも蘿の言うとおりにしかしていなくて、自分から何かを知ろうとかそう言ったこと
をしようともしなかった。
実際、知ってしまうのが怖かったのかも知れない。
初めは蘿とは本当に同い年なのではないかと思うこともあった。
しかし二年もの月日の流れる間、その可能性は否定されていった。
どう見ても自分の方が年上なのだ。
もし、蘿の口から自分が年下であることを認めるような言葉がでたら、自分は平生を保っていら
れるだろうか。
正直、自信はない。
自分の修行不足だ、そうあっさり認められるとはとうてい思えない。
利吉は、ふう、と溜息をついた。
そして…
心の片隅で、蘿とはもう二度とあえない方がいいのかも知れない、そう考えている自分がいるこ
とに気付く。
「相当タチが悪いな、私も」
利吉はそうつぶやくと、眼下を見下ろした。
美しい夕映えの風景は利吉の頭にしっかりと届いていた。
そんな利吉を伝蔵と雅之助は木陰から見守っていた。
「12の子には少しきつすぎるのかも知れませんなあ…現実ってものは」
雅之助は伝蔵に語りかけるように呟く。
伝蔵はふう、と溜息をつくと息子をじっと見据えた。
同じ頃、1人の少年が山の中を駆けていた。
「ごめん…利吉…」
すまなさそうに、そう呟きながら。