狷介孤独<其の二>

 学校生活が始まってはや一月。
 そろそろクラス内にいわば『仲良しグループ』が形成されつつある。
 学級委員長となった仙蔵は、小平太や文次郎達と連んでいた。
「あのさ」
 食堂で定食の小芋と格闘していた小平太は、ふと手を止めて切り出す。文次郎と仙蔵は顔をあげた。
「あの2人、どう思う?」
 小平太はそう言って、箸先を軽く上げ、あちらの机を指す。文次郎と仙蔵はそちらを見た。
「中在家と…善法寺、か?」
「うん」
 ついに小芋の捕獲に成功した小平太は、口に放り込んでからこくりと頷く。ゆっくり噛んで、ごくりと飲み込んでからボソリと呟いた。
「どうも…苦手なんだよね。近寄りがたいっていうかさ」
 仙蔵は長次と仙蔵を見る目を鋭くする。2人は、他の皆とは少し離れた位置で、2人で向かい合って食べていた。会話は全くない。その2人の周りだけ切り離されたような、そんな雰囲気があった。
「そうか?」
 仙蔵は視線を小平太達に戻す。
「そうは思わないが」
「そうかな」
 小平太はそう言って茶をぐっと飲み干した。ふう、と息をついてからちらり、と先程の2人の方を見る。
「伊作はさ、まだ話しかけても色々喋ってくれるし…まだ何とかやっていけそうなんだ――名前を『君付け』で呼ばれるのはちょっと苦手だけどさ。でもあいつ、悪い奴じゃないと思うし。でも…」
 小平太は視線を落とした。
「長次ってさ、なんか協調性ないっていうか…見ててイライラしちゃうんだよね。いくらめんどくさいとか、しんどいとかあってもさ、ああいう場ではみんなに合わせるべきだと思うんだ。やっぱりそうしないと雰囲気は悪くなるし、みんながそうし始めると収拾がつかなくなるし。回りに合わせるって事は大事だと思う。なのにあいつはそれをしようとしない。それを格好いいでも思ってるんじゃないかな…なんだか…」
 小平太はことり、と箸を置く。
「…感じ悪いよ」
 聞こえるか、聞こえないかというような小さな声で小平太は呟いた。仙蔵は規則的に箸を口に運びながらじっとそれを聞いていたが、小平太が話し終えると同時に自分も箸を置く。
「そうだろうか?確かに協調性はないようだが…私は…」
 仙蔵はちらりと長次の方を見ながら言った。
「奴が自分の過去が辛かったとか、そういう話をするところを聞いたことがない」
「?」
 話の筋がいまいち見えない文次郎と小平太は首を捻る。
「もしも小平太が言うように、あいつがそれを格好いいとかそういう風に思っているんなら、そういった話をするだろう。そういう型の人間は大抵自分の過去の苦労話を自慢にしたりする。実際、今まで私はそう言う人間を多く見てきた」
 仙蔵は続けた。
「中在家は今のところそういった行動を見せていない…私が思うに、単に人付き合いが苦手なタイプなんだと思う。それに善法寺は…」
 仙蔵はふと口元をほころばせる。
「あいつは典型的な『お人好し』だな。きっと誰ともつきあえない中在家を見かねて、ああやって声をかけてやってるんだろう。ま、あいつも賑やかなところは苦手のようだが」
「仙蔵…お前、本当に一年かよ」
 人物解析をやってのける仙蔵を見て、密かに小平太と文次郎が呟いたのは言うまでもなかった。

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