初夏


梅雨が明けて太陽がじりじりと地面を焼くような暑い日が続いている。
それでも、放課後には忍たまたちの元気な声が校庭から聞こえてきている。
そんな中、6年生の五人組が学園長の庵に来るようにと言われた。

「失礼します。」
と伊作が一言声をかけて、五人は学園長室に入っていった。
「おお、来たか」
もうぬるくなった茶を一口飲んでから、学園長は彼らのほうを向いて座りなおした。
「おまえたちの期末試験の課題が決まっての。
今からすぐに、五人で月居(つきおり)城へ行ってマイタケ城から盗まれた巻物を取り返してくることを今回の課題とする」
「しかし学園長、他の6年生はクラスの誰かとペアを組んで出かけていますよ?」
前に少し身を乗り出して伊作は訊ねた。
「お前らは五人で一組じゃろ?五人で行くのが普通じゃ。
それと・・・他の生徒には先生が一人はついていくのだが人数が足りなくてのぉ。
すまんがお前たちだけで行っていて欲しいのだ。
それではたのんだぞ」
有無を言わせぬ、そして理不尽かつ我儘な学園長のお言葉が下った。

五人は庵から出て一斉にため息をつく。
「これじゃぁ課題と言うより・・・」
「・・・学園長のおつかいだな」
寮に向かいながら小平太と仙蔵がこの課題ついて口にした。
マイタケ城は忍術学園と仲が良い。きっと、マイタケ城のお殿様に巻物を取り返してくれるよう、頼まれたのだろう。それに月居城はここからかなり近いところに位置する。それに先生もいないとなると・・・・・・。
はぁ・・・、ともう一度全員が大きくがため息をついた。



寮を出てから一刻が過ぎた。寮を出てきたのが夕食を食べてからだから外はもう暗い。森の中も当然暗くなる。その中の街道を行く五人。あるのは月の明かりのみ。
「ねぇ、伊作ー、今日月が出てるよー」
忍者としては当然の知識を、欠けた月を見ながら小平太が言う。
「しょうがないだろう?学園長が今すぐ行ってこいって言うんだから…。」
その口調は怒っているのか呆れているのか…。多分その両方が含まれているであろう。
「それで、その巻物とやらは何処にあるんだ?」
仙蔵が切れ長な目で伊作をじっと見る。
「わからない…。」
「えっ・・・」
目を見開いて聞き返した。
「わからない・・・」
伊作がもう一度同じ言葉を言う。
後ろで小平太とじゃれつきながら歩いていた文次郎が二人の間から顔を出し、話に加わった。
「そんなんでどーやって広い城の中から小さな巻物探すんだよっ!」
「耳元で大きな声を出すな。」
切れ長の目がじろっと文次郎の顔を睨んだ。
「誰かを捕まえて吐かすしかないか」
視線を伊作に換えて話を元に戻す。
「ねぇ、あれじゃない?月居城!」
遊ぶ相手がいなくなった小平太はいつのまにか、話し込んでいる三人と仙蔵の隣を歩く長次よりも前を歩いていた。
「じゃあこの辺で作戦会議でもするか!」
「だから大きな声出すなって言ってんだろっ!」
今度は伊作が文次郎を叱り付ける。
「わーかったって!で?どーする?正面突破はさすがに無理だぜ?」
伊作が見取り図を広げるとみんな集まってきた。
「一人が囮、二人が巻物の奪還、もう二人が巻物奪還の補佐と敵との戦闘。二の丸側の城壁から囮役が侵入して敵をひきつけている間に三の蔵側の城壁から四人が侵入。巻物の在処を見張りか誰かに聞いて、二人は保管してある所に忍び込み巻物を奪還、二人は敵と遭遇したら奪還組の守りと補助。」
仙蔵が見取り図を凝視したまま言う。いつも仙蔵は作戦指揮を担当している。
「じゃぁ俺が囮をやる」
長次が囮役をかってでた。
「無理するなよ。危ないと思ったら敵をひきつけずに逃げろよ」
「ああ…」
伊作の心配に軽く返事をして、また見取り図に視線が戻った。
「んじゃ俺は戦闘。」
「あ、俺も!」
「それじゃあ、長次が囮、こへともんじが戦闘、私と伊作が巻物奪還。半刻後までにここに戻ってくること。はぐれた場合は森の外にあった神社の前に集合。それでいいな。」
皆立ち上がった瞬間、向うから誰かが歩いてくる音が聞こえた。足音からして忍者ではなさそうだ。
五人は顔を見合わせて、木の上に跳び移った。
「マイタケ城から巻物奪ったってんで、城の中は大騒ぎだ。特に三の蔵の警戒ようったら!」
「!」
木の上で、五人がお互いに目配せをする。
「よせよー、誰が聞いてるかわかんねぇだろ?それにしても何が書いてあるんだろうなぁ。その御大層な巻物にはよぉ」
「まぁ、俺たちには何の価値も無いものだろうがな」
少々酒が回っているようだ。格好からして城の兵士だろう。
男たちが去ったあと、すっと音も無く木の上から下りてきた。
「せんぞーの勘ってすっげー!」
けらけら笑いながらお腹を抱える小平太に、仙蔵は冷ややかな目を向ける。
「静かに!でも、ほんと仙ちゃんって昔から勘がいいよね」
口元を緩ませて伊作も言う。
「じゃぁ、変更は無しってことで。では、作戦開始!」
伊作が言うと、皆一斉に城へ向かって走り出した。

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