GENOCIDER ANGEL
『これが、シティの見取図だ。城壁は堅固で簡単には破れない上に
壁の上部には侵入者を排除するためのシールドが張ってある。』
作戦の説明を始めたアダムス議長の言葉に兵士達は怪訝な顔をした。
『それでは我々はどこから内部に突入するのですか?』
『決まってるだろう?正面入口さ。』
『……はあっ?何ですって、正面?それは一体……。』
みんなの疑問も当然だ。それができるなら誰も苦労はしない。
『大丈夫、必ず門は開けてみせる。君達はその後に内部へ入り込み
敵兵士をたたいてもらう。……本当はみんなをハリネズミのように
武装させて送り出してやりたいが、我々の力ではこれが精一杯だ。
だが必ずや諸君の力は新しい時代を築くと私は信じている。
次世代の子供達に平和を、そして我々の今に勝利を!』
全員が無言のままうなづいた。計画は静かに進められていく。
端の方でアッシュが肩越しに問いかけた。
『なぁリリス、ハリネズミって何だろう?』
『さあ、私は知らないけど?』
それを聞いた傍らの老兵が口を挟んできた。
『何じゃ、知らんのか?ハリネズミって言うのはな、
昔々この星に住んでいた生物で、そもその生態というものは……。』
『あ、私パス。用事を思い出しちゃった。』
リリスはアッシュの手を取ってそそくさと逃げ出した。
『おい、まだ話は終わってないと言うのにっ!
まったくこれだから近頃の若い者は!』
『いいの?怒らせたんじゃないの?』
『ん!いいのよ。だって、あの人始まったら長いんだもの。』
アッシュの方を振り向いてリリスはペロリと舌を出してみせた。
その姿は間もなく戦いの中に身を投じようとする戦士の物ではなく
ごく普通の少女の愛らしいしぐさだった。
そんな二人の、束の間の幸せな時間は次の瞬間消し飛んだ。
『総員、戦闘準備−−−−−!攻撃開始は五分後だ!』
一同は素早く出口付近で待機した。
大きな岩の隙間から覗くとやや下方にシティの城壁がそびえている。
見るからに頑丈そうな姿は実戦経験の少ないアッシュには
恐ろしく難攻不落な要塞にしか見えなかった。
『一体どうやってあの中に入るって言うんだ?』
『あ・れ・よ!』
その疑問に答えるようにリリスは後からアッシュの顔を横に向けた。
薄暗い岩陰に中型のミサイルが発射態勢で待機していた。
『あ……あれで壁を壊すの?』
『ブーッ、はずれ。あれはね、シールドに穴を開けるためなの。』
理解できずに苦悩するアッシュを尻目に彼女は続けて説明した。
『あの中には六発の小型ミサイルが内包されていて、
それはほんの一瞬だけシールドを中和させる力を持っている。
六発全弾が円形に炸裂したら数秒だけシールドに空間ができる。
そこに私が飛び込み中から正面の門を開けてしまう。
で、みんなはそこから中に。』
そこまで聞いてアッシュは問い返した。
『待ってよ。うまく飛び込めなかったら?』
『多分…………体をちぎられるか粉々になるか、じゃない?』
何かを言おうとしたアッシュの口を人差し指で制して
リリスは首を横に振ってみせ、そして笑顔でさとすように言った。
『成功するわ、させるわよ。私は、そのために今まで、ね?』
アッシュも笑顔でうなづいた。彼女の笑顔は困難な事でも
不思議と何とかなりそうな、そんな気にさせてしまう力があるようだ。
『用意はいいかリリス、時間だ。頼んだぞ。』
懐中時計を睨んでいたアダムスの言葉にリリスは力強くうなづくと
ミサイルの上に乗り、取り付けられた金具をつかんだ。
『全員、聞け。これよりこのミサイルがシティのシールドに
突入を開始するが発射と同時に迎撃の手段が取られる事だろう。
しかし何が何でもこれを迎撃されてはならない!
レーザー砲や迎撃ミサイルが見えたら、諸君は全力で
これを排除してほしい。以上だ!』
兵士達はもう一度銃を構え直した。緊張が時間を支配した。
『ねえ、アッシュ。もしも……この戦いに勝って
私が普通の人間に戻れたらお嫁さんにしてくれる?』
アッシュは顔をこわばらせてうなづいた。
『もちろんだよ。戦いが終わったら二人で暮らそう。』
リリスの把手を握った手がかすかに震えた。
『……ありがとう、好きよ、アッシュ。勝とうね、絶対。』
アッシュも力強くうなづいた。
『我々は、今よりシティとの戦闘を開始する。総員、攻撃開始!』
号令と同時に岩盤が飛び散ってミサイルが轟音を上げて発射され、
同じくしてゲリラ達は抜け穴から飛び出した。
だがそれを見越したようにシティの壁のあちこちから
レーザー砲が次々に姿を現した。が、最初の一台が機能を果す事なく吹っ飛んだ。
ゲリラ達の銃の腕前は見事な程正確で数人の犠牲者を出しながらも
確実に迎撃しようとした敵の抵抗力を奪っていった。
と、その時シティ上空に閃光と共に爆発音がとどろいた。
『ミサイルがっ!?』
空中分解した特殊ミサイルがシールドに突入して、穴を穿った。
ミサイル本体にはりついていたリリスはシールド閉鎖直前に
内部へ飛び込むことに成功したようだ。
地上へ降立った彼女はレーザー砲の集中砲火を浴びたかに見えたが
その素早い動きは敵の動きをはるかに凌駕していた。
『なっ何をしている!?相手はたった一人だぞ!』
制御室でモニターを見ていた指揮官は焦りの色を濃くしていた。
『駄目です、自動追尾では追えません!』
『フルメタルアーマーを出せ!ここで食い止めないと
内壁の奥へと突入されるぞ!そうなれば我々は始末されてしまうっ!』
周囲の格納庫が解放されておびただしい数のフルメタルアーマーが
飛び出して来たが、その一瞬の間隙を縫って巨大なエネルギー弾が
シティ正面入口を直撃し、通路に外の風が吹き込んで来た。
『総員突入−−−−−っ!』
大型火器を搭載した車両数台が号令と共にシティ内部へなだれ込む。
その後に小型の火器で武装した歩兵部隊が続く。
フルメタルアーマーを相手には一般兵士には荷が重いかと思われた。
しかしそんな心配は一発の小型ミサイルが吹き飛ばした。
ゲリラ達の後方からディックが放ったミサイルは
集団で押し寄せるフルメタルアーマーの頭上で爆発すると周辺を
ガスのようなもので覆いつくしたのだった。
すると、いきなり奴らは混乱を始めた。
チャンスとばかりにゲリラ達は間髪を入れず次々に破壊していく。
『……?一体、どうなってるんだ?』
不思議そうなアッシュの横で初老の兵士が教えてくれた。
『チャフ、じゃよ。つまり、命令を伝えている電波を妨害して
あのガラクタ共を単なる案山子にしてしまった訳だ。』
シティの司令部は混乱をきわめた。
ゲリラ達は何故あれほど武器を持っているのか?
何故シティ内部の実情に詳しいのか?
どうやら彼らはプロメウスが内通していたと言う事実を
上層部から知らされていなかったらしい。
フルメタルアーマーを後続部隊にまかせて
リリスはシティ中心部を目指して駆け出した。
途中、何十箇所かに仕掛けられたトラップを次々に撃破し
順調に奥へ奥へと突き進んで行く。
だが、中庭風の広場に到達したリリスは急に足を止めた。
外から流れ込んだ風の中、砂埃にまみれて転がっているのは
紛れも無くプロメウスの顔の半分を覆っていた仮面であった。
膝をついてそれを拾い上げた彼女の細い肩が小刻みに震えた。
『プ……プロメウス……。プロメウスぅ−−−−−−っ!』
沸き上がる不安を消し去れず、彼女の叫びが周囲に響いたが
そこに答える者は誰一人無く代わりに新たなメタルアーマーが出現した。
仮面を抱きしめたままうずくまるリリスめがけて襲いかかる
メタルアーマー達の攻撃はしかし同士討ちに終わった。
リリスは跳躍一閃、空中へ逃れて無事だった。
なおも数体のアーマーが残っていたが、背後にかけつけた仲間達が
次々にそれを破壊して行く。
頑強なはずのメタルアーマーを破壊するための特殊な銃器の開発が
ようやく実をむすんだ結果だった。
リリスは仲間にあとを任せると仮面を抱えて再び奥へと走り始めた。
この奥にきっとプロメウスがいるはずだ。
生きている。きっと、生きている。そう感じるのだ。
神殿へ続く長い通路を自動追尾のレーザーでさえ追いかけきれない
猛スピードで駆けて行くと前方にやたら明るい光が見えた。
『もしかして、神殿っ!?』
光のむこうには敵が待ち構えているかもしれない。罠かも?
だがもはや彼女にはそんな心配をするつもりは無かった。
『このまま、一気に皇帝の所まで……!』
ところが、そこに思わぬ伏兵がいようとは考えていなかった。
走り抜けようとするリリスの前に突然そいつは立ちはだかった。
『よく来たな。待っていたよ、リリス……!』
『あ、あなたはっ!?』
リリスは愕然とした。ひとまわり体が大きくなっているが、
それはまぎれもなく五番隊隊長シオンの姿だった。