GENOCIDER ANGEL

そろそろ日付が変わろうとする頃、
プロメウスの姿は同じ神官のアルカードの部屋の前にあった。
『まさか、再び兵器部分を稼動させる日が来ようとはな……。』
その言葉と共に彼の両手の手袋を突き破って強靭な爪が飛び出した。
それは前世界の文明がメカニカルアーマーに搭載した兵器の一つで
〈ハーケンネイル〉と言う。あらゆる物を切り裂く刃である。
壁に穴を穿ち、セキュリティを切ると静かに扉を開けて中に入る。
部屋の中にアルカードの気配は無かった。
『おかしい……まだ戻っていなかったのか?』
そのつぶやきとほぼ同時にプロメウスの背後から何かが体を貫いた。
『ぐふっ!なっ……?』
振り向こうとした彼の後頭部をそいつはわしづかみにした。
『ア……アルカードかっ?』
『そうだよ、よく来たな我が同胞よ。歓迎の爪の味はどうかな?』
貫かれた胸の下にアルカードの爪が見えていて液体が滴っている。
アルカードもまた、メカニカルアーマーだったのだ。
『動けまい?アーマー同士なら、互いの弱点はよくわかるものな。
俺は以前からお前の事を疑っていた。
そしてやっとお前を始末する証拠が揃ったという訳だ。』
『きっ……貴様、皇帝をどうした……?』
『さあな。そんな事はお前が知る必要は無い。』
土壇場で逆転をくったプロメウスの怒りが彼に最後の力を出させた。
彼の背中から勝ち誇るアルカードの体に向けて光がほとばしった!
『があっ……?ぐっ……貴様ぁ……!』
後方へつんのめるアルカードと爪が離れたプロメウスが
それぞれ床の上に倒れこんだ。
軋むような機械音をあげながらアルカードがゆっくりと立ち上がる。
対するプロメウスは力を使い果たしたのか
うつぶせになったまま微動だにしなかった。
ただ、背中のレーザー発射口から煙のようなものが立ち昇っていた。
アルカードは右腕に直撃をくらったらしく半分ちぎれかけていた。
『ふっ、そんな所にプラズマレーザー砲を装備していたとはな……
それが貴様の最後のあがき、か。たいしたものだ。』
吐き捨てるようにつぶやくと右腕をちぎって捨てて、プロメウスの骸を
左手で持ち上げた。

『……まだだ……。まだ死なせはしないぞ……。』
そう言うと彼はプロメウスを引きずりながら部屋の奥に姿を消した。
一方その頃、神官のモールは四番隊の下士官エスティーヌを
彼のオフィスへ呼び出していた。
『夜分にすまないな、エスティーヌ。新しい増強剤ができたのだが
何しろ私の二番隊は奴のせいで既に無いのでね。
代わりに試してみてくれないか?無論アルカードの許可はある。』
『……わかった。どうすればいい?』
モールは無言のまま彼女の腕に何かの薬を注射した。
と、その時四番隊の隊長ミスティが部屋に入って来た。
『何だ、ミスティ。お前など呼んでいないぞ?』
うろたえながら文句を言うモールをミスティは逆に怒鳴りつけた。
『黙れ!我々はたとえ神官と言えども管理官の許可無しにおかしな実験に
付き合う義務は無い!エスティーヌ、何をされた?』
『薬を注射されました。何でも新しい増強剤だそうで。
なるほど、全身に力がみなぎってきたような……うっ……ぐぐうっ?』
話の途中でエスティーヌは突然もがくように胸を押えひざをついた。
全身が小刻みにわなわなと震え、目は大きく見開かれた。
モールもミスティもかたずを飲んでその様子を見守っていた。
『くぐうっ……がっ!た、隊……長……あ…………。』

やがて彼女は教会で祈りを捧げる信者のような態勢で動きを止めた。
一瞬のようにも長い時間のようにも見えたが彼女はそのまま絶命し
体は空中に塵となって四散した。
『ふっ、ふはははっ!やった、やったぞ。成功だ!
これさえあればバイオアーマーも赤子同然と言う事だ。これで……。』
『きっ、貴様あ!!』
怒りに我を忘れたミスティの手刀がモールの体を両断した。
悲鳴を上げる間もなく吹っ飛んだ身体を、
いつの間に来ていたのかアルカードが踏み付けた。
『あっ、あの……アルカード、これはっ……。』
弁明しようとするミスティを制してかみしめるようにつぶやいた。
『モールのバカが。どうやら部下を失った腹いせに
つまらない事を考えたらしいな。まあ、これはこれで使えるが……。』
アルカードはモールの持っていた薬のアンプルを拾い上げ、
自分のポケットの中に放り込んだ。彼の顔が心なしか笑って見えた。

『アルカード、その腕は?』
『裏切り者を始末する時にちょっと、な。』
『裏切り者っ?やはり誰か……?』
『神官のプロメウスだ。ゲリラ達と密通していた。
三番隊が最初にやられたのは奴の手引があったからだ。
しかし私を倒そうとしたと言う事は……ゲリラめ、攻撃に転じるつもりだな?』
『なっ……ならば早速厳戒態勢を?』
『案ずるな。既に手は打った。それにこの薬もあるし、な。』
そう言い残してアルカードは再び通路の奥に消えた。

それからおよそ十分後、ミスティは五番隊のもとへ足を運んだ。
出迎えたマチスが奥の部屋に案内してくれた。
『やあ、ミスティ。一緒にどうだ?』
コーヒーをたてて飲んでいる彼女達の姿は人間のそれと遜色は無い。
ミスティは首を振るとシオンの前の椅子に腰をおろした。
『シオン……エスティーヌが沈んだ。』
『何だと?まだ奴らは来ていないはずだ。誰に?』
『モールだ。あいつバイオアーマーの細胞破壊薬を開発したんだ。
で、何を思ったかエスティーヌで実験した訳だ。』
『何て事を……ただでさえ戦力が少ないのに……。』
『それで……ついかっとなって奴を殺してしまった。
まあ、それはかまわんとアルカードは言ったが実は他の下士官もいないんだ。』
『何?それでは……。』
横で聞いていたキャリーも驚嘆の声をあげた。
『四番隊には今、三人だけ?』
『そうだ。五番隊は大丈夫だろうな?』
キャリーは後方を見わたした。マチスとシャルルが座っている。
『他の三人は?』
シャルルは読んでいた本を置いて向き直った。
『先程より姿を見ませんが。』
キャリーは隊員の呼び出しボタンを押した。が、応答は無かった。
指揮官であるグラックにも連絡したが彼も知らなかった。

『……やはりモールが?』
『かもしれん。どちらにしても最悪の状況だ。残り七人か……。』
向き直ったシオンにミスティが問いただした。
『シオン。ずばり聞くが……我々はリリスに勝てると思うか?』
腕を組んだいつものポーズでシオンは考えこんだ。
『はっきり言って、五分五分だな。総合力では勝っていても
個人の能力は今や向こうの方が高いと思える。』
『だろうな。で、提案だがシオン、お前、一人で戦ってみないか?
つまり、残る六人はお前の−−−−−。』
『やめろ!そんな事ができるか!みんな私の身内だぞ。』
『気持ちはわかる。だが、このまま奴に負けるのを待ってる訳にはいかない。
勝てる可能性があるのなら私はシオンに賭けたい。』
シオンは横を向いてキャリーに目をやった。
『いつか私が言ったようになりましたね、隊長。
同じ食われるなら我々はあなたの一部でいたい。』
シャルルとマチスも後でうなづいた。目前のミスティも。

『うちのケイとジュリアも私に同調してくれた。想いは同じだ。
シオン、勝ってくれ。そして我らのぶんまで生きてくれ。』
『そのとうりです、隊長。もはやこれはシティの戦いとは無縁です。
これは我々とリリスとの生存権を賭けた戦いなのです!』
少し考えて、その後シオンは手をさしだした。
『みんなの事は忘れない。いくら感謝しても足りないように思う。
そしてまた迷惑をかけてしまうが……みんなの力を私に与えてくれ。
そうすれば私は今よりも何倍もパワーアップして戦えるだろう。
リリスに勝利してみんなの期待に答えたい。』
一同はシオンの手の上に自分の手を重ねて行った。
表で待っていた四番隊のケイとジュリアも中に入って来た。
ここに今、史上最強のアーマーが誕生しようとしていた。

それと同じ頃シティの入り口付近にプロメウスの顔を覆っていた仮面が
乾いた風の中にさらされていた。
それは無論ゲリラ達の動揺を誘おうというアルカードの考えだった。
当のプロメウスはシティの奥深く、神殿の入り口付近に立てた柱に
下半身と両腕をちぎられたままぶら下げられていた。
彼の下のほうからアルカードが薄笑いを浮かべながら声をかけた。
『気分はどうだ、プロメウス?貴様の右腕は結構できがいいぞ。』
ちぎられた自分の腕の代わりにプロメウスの腕を取り付けたらしい。
『リ……リリスぅ……すまん……。』
プロメウスのつぶやきは風の中に消えた。


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