GENOCIDER ANGEL

プロローグ

宇宙が誕生してどの位の時が流れていったのだろう。
混沌とした時代がこの世界を覆っていた。しかし星々の輝きは不変だ。
大宇宙の辺境にあるその惑星は赤く焼けた土と岩に覆われていて、
遠目には生物の棲息する星には見えなかった。
しかし荒涼とした風が吹きすさぶ砂漠の中には旧世界文明の名残が
瓦礫となって今も醜い姿をさらし続けている。

緑は少ないが住民がコロニーと呼ぶ小さな街が森や湖の傍にある。
そんな中でも比較的小さな街の一つ、ロックウェルの酒場の片隅で
中央政府直轄戦闘部隊、五番隊隊長シオンは部下のシャルルと共に
葡萄酒を飲んでいた。挑戦的な赤い髪を胸までたらしている。
半袖の軍服に包まれた体は、女性としてはかなり大柄で筋肉質だが
均整が取れていてなかなかの美人だ。

テーブルをはさんで対座するシャルルは、長い亜麻色の髪を後側で束ねている。
時折細い指で前髪をかきあげる仕草は大人の色香をも漂わせていたが
童顔のためか少女の雰囲気も合わせ持っていた。

酒場の客達は二人を気にしていたが誰も話し掛ける者はなかった。
小さな街に軍の、それも若い女が来る事など今までは無かった事で
みんなかかわりあいを恐れている。
何故なら中央都市〈エデン〉を統轄する政府軍の力は今や絶対で、
それに逆らう者は殆どいなかったからだ。
エデンに反逆している一部のゲリラ共を狩る事、それがシオン達が
この街にやって来た本来の目的だった。

「おほっ、何でぇ、女がいるじゃねえか?」
突然辺りの静寂は破られた。酔っているらしい。
「よしなって。相手が悪いよ、ゴメスさん。」
どこへ行っても盗っ人とチンピラは必ずいるものだ。
酒場のマスターにたしなめられたこの男もその例に漏れない。
二メートルを越した無数の傷に飾られた岩山のような体をゆらして
シオン達のテーブルに歩み寄ると彼女の肩に手をかけた。

「他所者、それも軍人の若い女とは珍しいや。なあ、ねえちゃん、
一緒に飲もうぜ。いいだろう?」
だがシオンの返事は冷たかった。
「肩の手をどけろ、でくのぼう!」

ハスキーな声だった。
ゴメスの顔色が変わり、他の客も皆シオンの方を注目した。
街の人なら誰もがゴメスの腕力を知っている。
しかしシオンは尚も続けた。
「聞こえなかったのか?うどの大木野郎!お前の薄汚ないその手を
今すぐどけろって言ったんだよ!」
ここで初めてシオンは伏せていた目を上げた。
紺碧の瞳が美しく、しかし鋭い眼光を放っていた。
「て、てめえ!言わせておきゃあ……!」
一瞬ゴメスは躊躇したが今さら引っ込みがつかず
シオンの胸ぐらをつかもうと手を伸ばした。

ところが次の瞬間、客達はおよそ信じられない光景を目撃した。
まるで丸太のようなゴメスの腕をかいくぐったシオンは、
さしずめ二百キロは在ろうかというゴメスの体を片手で頭上高く持ち上げ、
放り投げてしまったのだ。呻き声と共にゴメスは床に昏倒した。
その時シャルルの胸元で緊急呼び出しのベルが鳴った。
二人は酒代を払うと愕然とする店の客達に軽く会釈し外へ出た。
「な、何が始まるんだ……?」
マスターは青ざめた顔で後ろ姿を見送った。

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