■戦闘想定(コンバット・シュミレーション)
 (前編)

 双方の脚本は大まかですが説明を終わりました。
 ここからは、配役と実際の舞台がどのように進展するかを見ていきたいと思います。

 ただし、日本艦の砲弾命中率がなぜか3倍あるとか、61cm魚雷がとても強力とか(残念ながら酸素魚雷もまだありません(笑))、米艦の防御がとんでもないとか、誰だかよく分からない鬼才が戦闘を事前に見てきたような指揮をしているとか、小説として以外の無茶な状況はないものとします。まあ、月月火水木金金と寸暇を惜しんで訓練に励んでいるであろう日本海軍に、一日の長があるかもしれませんが、同じ人間同士ですので程度問題です。
 また、純粋に戦力比較をするところから始めてみたいと思います。もちろん無粋な航空機(失礼)は、この時代大型艦艇に対して何の力もありません(索敵能力など支援効果は全く別です)。
 なお今回は、なるべく客観的に事象を追っていきたいので、今までの文調のまま続けます。ですから、「熱い戦い」をお望みの方には物足りないかと思いますが、その旨ご了承ください。(擬音などその片鱗もございません(苦笑))


■キャスティング
 さて、まずはキャスティングのおさらいですが、マーシャル沖に終結する戦力は、先の編成表にあるように日本側は戦艦12隻、巡洋戦艦(高速戦艦)12隻、重巡16隻、水雷戦隊5個戦隊(第四艦隊含む)、潜水戦隊7個戦隊(第四艦隊含む)、空母大小6隻、艦載機約180機、基地航空隊約100機となります。ただし、基本的に基地航空隊と第四艦隊の戦力は特殊な場合を除き除外されます。
 対する合衆国軍は、戦艦17隻、巡洋戦艦6隻、重巡10隻、水雷戦隊5個戦隊、潜水戦隊3個戦隊?、正規空母2隻、艦載機約170機です。ただし、戦艦2隻と水雷戦隊2個戦隊が船団護衛をしているので、打撃戦力としては除外されます。
 こうして見ると、全てのヒロインを中部太平洋に出演させることができる日本が若干有利となります。これはもちろん、英国の大西洋からの援護射撃により実現したもので、この時点で日本が外交的勝利を掴んでいる事に他なりません。ただ、ここでは外交は問わないので次にいきましょう。

■序幕
 次に戦争勃発時の初期配置と初戦の状況です。
 当面は迎撃しか考えていない日本軍は、アメリカ合衆国軍が戦力を集中して太平洋を押し渡ってくる前に第二艦隊の一部を東支那海に派遣、戦艦を派遣してきた米アジア艦隊への圧力をかけます。それ以外の第二艦隊は、内地で万が一米アジア艦隊が日本本土を目指した場合の抑えに沖縄辺りで待機しています。第二艦隊がこのような任務に使われるのは、本来フィリピン制圧をすべき第三艦隊の任務が変わってしまったのと、米海軍が少数とは言えすでに戦艦を送り込んでいる事、そして第二艦隊そのものの高度な機動性にあります。そして複数の高速給油艦を従え、西太平洋を縦横に機動します。また、圧倒的な戦力を持つ事から、自軍の損害を受けることなく敵を撃滅する事を期待されているからに他なりません。
 おそらく、フィリピン近在での戦闘開始が、実質的な開戦の号砲であり、太平洋戦争の序章となります。
 なお、それ以外の日本艦隊は、支援艦隊を引き連れて内南洋の大きな環礁(トラック、エニウェトク、クェゼリン、メジュロなどのどれか)に集中布陣します。そして、第二艦隊が合流するのを待って決戦を行おうとするでしょう。もし、第二艦隊との合流前に合衆国軍がマーシャル諸島に侵攻すれば、ここを放棄する可能性は高いと思われます。この場合は、トラックの門前にあたるエニウェトクとメジュロ辺りで両者が対陣する事になると思われます。

 対するアメリカ太平洋艦隊は、戦艦2隻を含むアジア艦隊以外は、ハワイに集結を完了しています。しかし、1940年頃と違いまだこの当時は真珠湾の泊地能力はあまり高くなく、実際は日本の内南洋とあまり状況は変わりません。なお、アメリカは太平洋艦隊以外にも大西洋艦隊もあり、そちらには大英帝国と言う強大な海軍国があるので、ダニエル・シスターズの半数は、通常大西洋艦隊に配備されています。
 また、全ての艦隊を最前線に配備すると言うのは、当時のアメリカという国を考えるとその政策を実行するのは難しく、さらに英国の圧力を無視して、東海岸の主要戦力を短期間以外で太平洋に配備するのは難しいでしょう。
 しかし、ダニエル・シスターズを全て揃えねば八八艦隊には対抗できません。そしてマーシャル、マリアナ諸島制圧とフィリピン救援に必要となる数個師団の陸兵と、それを載せる輸送船も手配しないといけません。短期決戦を前提とした電撃戦を行いたいので、出来るならマリアナまでは最初の侵攻の時点で揃えておく必要があります。
 ですから、大西洋に配備された艦隊のハワイ集結まで、最低でも一ヶ月、最大三カ月の期間がかかります。それに、ハワイ自体の泊地能力もこの当時は低い事から、これを支援すべきサーヴィス部隊も大量に準備して送り込まないといけないので、この負担も侵攻を大きく遅らせる要因になります。この時間は、アメリカが予算の関係から艦隊を即時対応体制にあまりおいていない事も影響しています。
 また、アメリカは戦争が始まり、日本が近海の安全保障のためにフィリピンの制圧に取りかかれば、フィリピン救援という大目的が発生するので、必然的に攻める側になり、彼らの行動開始が、実際の決戦の舞台の幕をあげることになります。
 つまり、双方の理由により開戦から二〜三カ月後ぐらいに決戦がマーシャル沖で発生する事になります。
 この間、合衆国アジア艦隊と日本第二艦隊による中規模の戦闘が発生しますが、ランチェスター・モデルに従った純然たる砲撃戦が発生すればアメリカ側にまず勝ち目はありません。しかも一旦組み合えば、艦隊速力の圧倒的な差から逃げることも適わず、一方的に撃破される事になります。
 運が良ければ、日本軍に見つからずにハワイに向けて長躯逃げる事ができるかも知れませんが、常識的に見て撃沈までいかなくても、発見され撃破されるのは確実です。

■本幕1
 さて、開戦二ヶ月が経過しました。
 グァムは陥落、フィリピンは青息吐息、米アジア艦隊は壊滅です。そして両艦隊はそれぞれハワイとマーシャルに集結完了し、にらみ合いを始めます。
 舞台の準備は全て整いました。あとは開幕のベルを鳴らすだけです。「ニーベルンゲンの指輪」で言えば、第二幕の「ワルキューレ」と言ったところでしょう。果たしてどちらがブリュンヒルトとなるのでしょうか。
 最初に舞台に登場するのは、開幕ベルを鳴らす合衆国軍です。アメリカ太平洋艦隊全艦出撃が、本幕の第一章となります。
 戦艦、巡洋戦艦23隻を中核とし、輸送船団を含めれば総艦艇数200隻に達する史上最大規模の大渡洋侵攻艦隊です。出撃する様は、観艦式もかくやというような、さぞ壮観な事でしょう。しかし、この中の内確実に何隻かは、ここには帰ってこれないのです。
 これを、ハワイに張り付いていた日本潜水艦複数が発見、本国に緊急電を打電します。
 この知らせを受けて、集結を終えていた連合艦隊、第一〜第四艦隊が動き出します。特に偵察・哨戒を担当する第四艦隊と前衛を仰せつかっている第三艦隊が足早にマーシャル沖へと向かいます。潜水艦も所定の位置につくため、一足先に出発しています。
 また、基地航空隊も長距離活動ができる飛行艇や水上機を中心に偵察活動をより活発化させます。この濃密な対応が取れる点が防衛側の優位の一つと言えるでしょう。
 日本艦隊は、数珠つなぎに配置されている潜水艦より、逐次報告される偵察情報に基づいて艦隊を動かし、その迎撃位置を決めていきます。
 一方、ハワイより長躯フィリピンを目指す米艦隊は、第一目標のマーシャル諸島制圧と連合艦隊撃滅のため、偵察活動を活発にしつつ威風堂々進撃します。ですが、偵察活動は敵地での活動になるので、どうしても日本軍に対してハンデがつきます。
 合衆国軍としては、日本軍が迎撃してくるのか、それとも別の戦術を考えているのか不明なうちは、迂闊に主力艦隊を動かす事もできません。
 もっとも、日本軍が迎撃してこなければ、これ幸いに盤石の体勢でマーシャル諸島に足がかりを作ればいいのですが。
 ですが、日本側も巨大な艦隊がいくつも行動しているので、それが米側に知られない訳がありません。

■本幕2
 日本艦隊がマーシャルから迎撃に出撃した段階で、双方動きが活発化します。
 そして合衆国軍は、上陸作戦のためにも自らの望む位置で戦闘を開始するため、強力な偵察艦隊の進路を日本艦隊がいる方向に向け、強引に舞台に引きずり出すべく行動を開始します。もちろん、偵察艦隊の後ろから主力艦隊が追いかけます。
 つまり、レキシントン級を含むTF2が囮となって、八八艦隊をダニエル・シスターズの前に引きずり出すのです。
 ただし、さすがの合衆国軍も相手の正確な布陣が分からない以上、主力艦隊を囮にするようなマネはしません。それは、艦隊規模が大きすぎて動きが取りづらいところを、奇襲でも受けたら目も当てられないからに他なりません。
 この合衆国軍の挑戦状に対して、見敵必殺を旨とする連合艦隊は、濃密な索敵情報からこれを察知したら、各個撃破の好機として脚の速い第二、第三艦隊に迎撃を指令。事前の想定に従い夜間砲雷撃戦による敵前衛戦力の撃滅を目論みます。もちろん、後から第一艦隊も追いかけます。
 この戦闘は、もし米偵察艦隊が情報不足のまま勇み足で、主力の援護の受けられない状態で進撃を続行すれば、まず勝ち目はありません。
 昼間に会敵すれば、第二艦隊の遠距離から飛来する46cm砲弾にアウトレンジされてしまい、夜戦に突入すれば無数の魚雷により蜂の巣になってしまうからです。まともに激突すれば、戦力差が2〜3倍になるので、TF2の敗北はまず間違いありません。ご自慢の健脚も、この数に夜間異方向同時襲撃という日本艦隊のダブル必殺技を受けようものなら、逃げる手段に使わなければ、有効活用するいとますらありません。
 単純にこの時点での戦力差を2.5倍として、ランチェスター・モデルから考えれば、合衆国軍が全滅した時、日本艦隊は16%の戦力しか消耗していない事になります。しかも、合衆国軍主力のレキシントン級は、45口径の14インチ砲にすら容易く打ち抜かれるほど直接防御力に劣りますから、残存性と言う点でこの数字はさらに低くなります。もちろん、合衆国軍が1隻残らず撃沈もしくは損傷するとは考えられないし、夜間戦闘と言うのはただでさえ混乱しやすいのに、それが双方大規模な戦力を投入したらどうなるかは明白でしょう。
 そこで、この夜の大混戦により合衆国軍壊滅後後退、日本軍1割程度の戦力消耗と(後退含む)、混乱の収拾のための再編成の後、再び戦場へと再び赴く事になります。
 なお、レキシントン級の16インチ砲では、富士級(13号艦級)の装甲を打ち抜くことはかなり難しいと言えるので、真っ正面からの殴り合いとなっても、余程近距離から殴り合わねば脱落させる事すら難しいかも知れません。
 とにかく、この激突が発生するかどうかが、この海戦での第二章となります。
 なお、八八艦隊を擁するこの時期の連合艦隊に、潜水艦による漸減や航空機の漸減はありません。全て主力艦隊同士の決着がついた後の残敵掃討戦に使用される部隊であり、戦術になります。この当時はあくまで水上艦による砲、雷撃によってこそのみ決戦が行われるという最後の時代だと言う事を頭の隅においていてください。
 これは、本来の追撃戦力である水雷戦隊主力を初戦で使用するため、消耗している主力に代わりこれらの兵力による追撃を重視せざる得ない事も影響しています。

■本幕3
 次の章はいよいよ、主力艦隊同士の戦いです。
 この場合日本艦隊は、その艦隊速度の優位を発揮して、なるべく太陽を後背におけるような布陣を取れるよう努力します。これは、日本海海戦でも取られた戦術運動で、太陽を見ながら射撃を強いられる敵の砲撃能力の低下を狙うものです。光学照準しかないこの時代なら、時間によれば極めて有効な戦術運動と言えるでしょう。そして、艦隊速度28ノットの優速を誇る日本艦隊なら、この状態を作り出せる可能性は、かなり高いと言えます。
 また、一戦で敵を撃滅しようとするなら、敵の後背に回り込む運動を行う可能性も高いでしょう。
 そして、前日夜間戦闘から引き続いて、翌朝からの主力艦隊同士のぶつかり合いとなります。
 なお、この日の早朝から行われるであろう、制空権奪取を目的とした双方の航空攻撃は、戦力の集中度合いの強い日本側に軍配があがる可能性が高くなります。

 これまでの経過は、アメリカTF2(レキシントン級6隻主力)壊滅、日本第二、第三艦隊は戦力の10%を消耗、決戦参加の遅延となります。
 アメリカはTF1、日本は第一、第四艦隊が投入可能です。これだけだと戦力はアメリカが20%程度有利となり、合衆国軍に各個撃破の好機を与えてしまうことになります。
 日本艦隊の戦力がこの時点で集まりきっていないのは、夜間戦闘の混乱を予想しきれなかった事に起因しています。そして、明らかに日本連合艦隊の誤算です。
 そして合衆国軍は、すでにTF2が壊滅している以上、日本艦隊が集結していない今こそ、反対に各個撃破すべく執拗に日本艦隊に食いついてくる事になります。でなければ、撤退すらままならないからです。もちろん、これ以外に逆転勝利の可能性がないのが最大の理由です。双方とも勝つためにここに来ているのですから。
 対する日本第一艦隊は、機動性がここでものを言ってきます。日本海海戦のように、機動力で戦術的ミスを補ってしまうのです。つまり砲撃戦が始まれば、速力的優位にあるのを利用して間合いをとってアウトレンジに徹し(この世界の紀伊級も18インチ砲艦です。)、米艦隊に逃げられないように、そして消耗を強いつつ、第二、第三艦隊との合流を待てばよく、合流後は全艦隊あげての包囲殲滅を行えば結果オーライです。もし合衆国艦隊が逃げ出してもそれはそれで問題ありません。艦隊を合流した後、優速を活かして追撃すればよいだけです。
 こうなると、攻略艦隊に護衛戦力を割かれ、前衛艦隊の壊滅した合衆国軍に勝ち目はありません。勝つ可能性があるとすれば、当初から主力と補助艦艇を分けて、その補助艦艇による機動戦術で日本艦隊の動きを拘束し無理矢理戦艦同士による接近戦を挑み、強力な砲力で日本第一艦隊を増援が現れる前に後退に追い込むしかありません。これが成功する可能性は、補助艦においても数の多くなる日本艦隊相手ですので、高く見ても五分と言ったところでしょう。ヘタをすれば、反対に各個撃破の好機を日本に与える事になるかもしれません。
 となると、合衆国軍が取る戦術行動は、砲撃力と防御力に勝る利点を利用して、砲撃を継続するかだけとなってしまいます。しかし、一旦不利になれば、その速力的に逃れる事は難しく、制空権も奪われていたら(ここではその可能性が高い)、初戦の殴り合いに勝利しない限り、ハワイに連なる道筋に米艦艇の墓標の列を作り出す事になるでしょう。

 しかし、TF2(レキシントン級6隻主力)が敵との接触後、うまく待避、主力との合流に成功すればどうでしょうか?
 表面的な戦力はほぼ互角。戦力集中を心がけた日本艦隊が15%程度有利な状況となります。
 ランチェスター的な計算でいくと、合衆国軍が全滅してなお連合艦隊は20%程度の戦力を保持している事になります。
 合衆国軍としてなら、短期戦ではともかく長期戦で見るなら十分採算の取れる勝負と言えるかもしれません。もちろん、戦闘の経緯如何では、米海軍が勝利できる可能性もかなりあります。
 なお、速力重視と防御力重視など用兵思想に差はありますが、最終的に割り出される戦力比較は、ここまで大兵力を用いた大規模正面戦闘となるとあまり差はなく、結局ランチェスター・モデルを証明するものとなってしまいます。これは、46cm砲戦艦を多数擁していようと、61cm魚雷があろうともそれ程変化はないと思われます。
 もちろん、東郷平八郎元帥のような超ラッキーボーイ(笑)がいれば話は全く変わってしまいますが、古今東西あれ程幸運に恵まれた提督は稀ですので、最後は数字がものを言う事でしょう。

 そして、ここでは圧倒的勝利を連合艦隊にして欲しいのが人情ですので、この幕ではTF2が突出により壊滅というフラグが成立し、TF1が袋叩きにあうというシナリオ分岐に進むのを採用しましょう。
 その想定で、最大の砲雷撃戦の戦闘の経過を数字の上で見てみると、主力艦だけだと、戦闘開始当初は日対米で8(12隻)対10(15隻)の戦力比が、後半は10(22隻程度)対6(14隻程度)以上に戦力差が開いている事になります。
 しかも、レキシントン級なき合衆国軍と、八八艦隊揃い踏みの日本艦隊だと、個艦性能が数の暴力と共に響いてきます。
 これについては、後半の状況を弾薬投射量と、ついでに排水量でも考えてみましょう。
 弾薬投射量は、無傷の状態で数えると日本艦隊が46cm×64+41cm×78+35.6cm×80で、米艦隊が40.6cm96+35.6cm×84で概算で一斉射あたり235頓対163頓となり、これを双方それまでの消耗で一割減として、概算で211頓対146頓で、どちらにせよ比率は10対7。10対6だった数の差が、10対7となっているのは、米艦が基本的に重武装だからです。(砲弾発射速度はこの当時は同等です。)
 ちなみに、20000メートルでの実際の砲弾命中率を双方1%程度と仮定すると、1分の間に日本側は3発、米側は2発程度の命中弾を相手に与えている事になります。しかも、日本側は46cmを多数装備している上に、コロラド級の特に垂直防御は、実質は14インチ砲にしか対応していませんので、バイタル・パートを打ち抜かれる可能性から見ると、米側の方が圧倒的に不利です。その上お約束で制空権を日本側が握っていれば、命中する砲弾の数はさらに差が開いている事になります。
 また、排水量比だと、艦艇数の比率そのままに、日本艦隊:米艦隊=96.5万頓:61.5万頓で10対6程度にまでなります。つまり、日本艦の方が単純な浮力と言う点で圧倒的に生存性が高いと言う事になります。これに補助艦艇の多さ(駆逐艦に至っては、もはや3倍近い差となっている。)や制空権の有無(合衆国軍は船団護衛や偵察に分散配置しすぎて、各個撃破される可能性が極めて高い。)などの戦力倍増要素が日本側に加算されます。
 米艦隊の有利な点は、砲力と直接防御の高さとダメコンの優秀さだけとなります。しかも、合衆国軍のこの頃の戦艦には致命的な欠点が一つあり、垂直防御が総じて日本戦艦よりも低いと言う事です。これは、サウスダコタ級ですら例外とは言えず、大落下角度で落ちる41cm砲、46cm砲を十二分に貫通してしまう防御力しかありません。
 また米艦隊は、たとえ不利になっても輸送船団を逃がすまで主力艦隊は撤退もできません。しかも、少なくとも初戦において有利な位置を日本に占められ、出会い頭と言う重要な時期を命中率でも不利を強いられる可能性は極めて高いものとなります。
 この最終的な実戦力比較を10:5として、合衆国軍が全滅した時の日本の損害は25%となります。
 もちろん、大艦隊がまるまる一つ消えてなくなるまでの完全な戦闘、追撃が出来るわけありません。ごく常識的に判断すれば、相手が全力発揮可能で自軍の戦力の二割を失えば指揮官は撤退を考えるでしょう。この場合先に撤退を開始するのは米太平洋艦隊です。その後日本側が優速を利用しての追撃戦に入ります。

 そして、この大砲撃戦の最終総決算は、合衆国軍7割の戦力喪失、日本軍2割の喪失とします。
 しかし、勿論双方のこの比率と同数の数の艦艇が沈む訳はないので、双方この三分の二の比率の主力艦を失い倍の数の損傷艦を出すとします。
 この損傷率は、不利な側(この場合合衆国軍)の艦艇の損害が酷い場合、指揮官がどの時点で撤退を指示するかですが、貴下の主力艦の半数が大破した段階とここでは判定します。
 その結果は、米側は7隻撃沈、日本側は2隻撃沈です。
 そして、夜間の第一ラウンドを足した最終的な結果を主力艦で見てみると、日本側24隻中3隻撃沈、アメリカ側23隻中11隻の撃沈となります。そしてこれとほぼ同数の艦が大破か中破しており、この数値は米太平洋艦隊は文字通り消滅と言う結果になり、日本側はまだ6割の戦力が、簡単な修理ですぐに出てこれるわけです。補助艦の損害比率も似たり寄ったりです。
 アメリカ太平洋艦隊は、自らの艦隊育成計画と戦術選択、そして日本側の徹底した艦隊決戦ドクトリンにより、同等の戦力でぶつかった筈が、ものの見事に各個撃破されてしまった訳です。
 実に日本に都合のいい、火葬戦記らしい結末と言えるでしょう(爆)

 ここで一つ問題となるのが、本題のヒロインたち八八艦隊に欠員が出るかどうかと言う事です(笑)。
 総数的には、米対日で2対3の戦艦数の差で殴り合う事になります。つまり、日本艦隊が数にまかせて3発以上の命中弾を浴びせている間に、米戦艦が2発の命中弾を与えている事になります。
 ただし、米艦隊から集中的に攻撃を受けるのは、最初に組み合っている第一艦隊です。この場合立場は5対4以上に逆転します。46cm砲装備の紀伊級はともかく、同様にサウスダコタ級と真っ正面から殴り合う事になる加賀級は、純戦術的に不利と言えます。なにしろ、50口径16インチ砲の攻撃を防ぎきる事は、このクラスには設計上ほぼ不可能なのですから。また、長門級は4隻のコロラド級が相手で、伊勢、扶桑級も相手は自らよりも有力な14インチ砲戦艦5隻が相手です。
 単純に確率論から言えば、戦闘が終了していれば、加賀級、長門級から2〜3隻、伊勢、扶桑級からも1〜2隻撃沈が出ている事になります。ただし、途中から第二、第三艦隊が砲撃に参加して、有力艦を目標に一方的に相手を激しく打ち据えますし、基本的にこの海戦で沈む日本戦艦は、戦力比較的に3隻だけです。しかも、第一ラウンドの戦闘で、レキシントン級により金剛級あたりから撃沈が出ていれば、ここでオーダーをあげるわけにはいきません。
 と言うことで、お約束として鬼籍には扶桑級2隻に入っていただき、八八艦隊の彼女たちの欠員はないものとします(笑)


File09 :日連合艦隊・米太平洋艦隊編成表  File11 :太平洋戦争・戦闘想定(後編)