■戦闘想定(コンバット・シュミレーション)
 (後編)

■次幕
 決戦は終了しました。お味方大勝利、敵軍壊滅です。
 さて、この後はどうしましょうか? もちろん、決戦に勝利したのですから、日本政府による停戦と銘打った堂々のアメリカに対する降伏勧告が行われます。
 しかし、植民地が軍門に下り、艦隊が潰されただけで本土は寸土も怪我されていない(!)政府が降伏するでしょうか? そして、太平洋艦隊の半数が永遠に失われ、お国は不景気のどん底です。果たしてこれがアメリカの望んだ結果なのでしょうか。
 そんなはずありません。正義を掲げるアメリカは必ず勝利しなければならないのです。・・・と言う訳で、ここでは連合艦隊に完全勝利していただくために、アメリカ軍には、今しばらく頑張っていただきましょう。

 マーシャルでの敗北後、アメリカ市民は日本への復讐を叫び、米政府も本土は寸土も奪われていないとして停戦を拒否、艦隊が再建するまではハワイを防衛線として徹底抗戦を唱えます。
 もちろん、これは不景気対策としての一種の大規模公共事業である、戦争経済がある程度うまく回るようになるまで、戦争を継続しないと勝っても負けても国内的には意味がなく、さらに、戦争に勝利しないと、市場の問題から合衆国の未来がお先真っ暗だからに他なりません。
 そして、白人のための理想国家たるアメリカが、有色人の国にこのまま負けっぱなしなのを許せないという、国民感情があるのは言うまでもありません。
 政府も市民も徹底抗戦を唱えると共に、今までいまいち気乗りしていなかったアメリカ国内の戦時生産が、市民感情の高ぶりと共に本格的に稼働を始めます。3年後には艦隊が元通りどころか戦前の二倍になり、再び決戦を挑む事もできるでしょう。
 しかも一年後には、失業者は兵営と工場に吸収されいなくなります。その過程で真っ赤っかになる財政は、勝利した後日本から取り立てればノー・プロブレムです。
 ただし、海軍の大敗北(いきなりご自慢の大海軍の三分の一が失われる)と膨大な数の戦死者(1〜3万のオーダーになる)は、市民の心の根底に厭戦気分を作り上げるには、十分すぎるぐらい過酷な数であり、また、戦争の正義がいまいちハッキリしていない事、日本を敵とする事は英国も潜在敵でありこれは世界を敵に回して長期戦をするにも等しい事もあり、一部ではさっそく停戦への機運も出てくる事になります。

 さて、一方日本政府は、困り果てます。短期決戦しか考えていない戦争で念願の艦隊決戦に大勝利し、長年の夢が叶って感涙でむせび泣いたと言うのに、戦争が終わっていないのです。
 まだまだ長期戦に耐えられる国力のない日本としては、何とかして戦争を短気で終わらせなければいけません。
 となると、アメリカの生産力が発揮される前にさらなる進撃を続け、合衆国軍にとどめを刺し、できるなら彼らの領土を一部でいいから奪い、戦争の勝利を決定ずける侵攻作戦をするしかありません。幸いにも敵艦隊は壊滅しており、こちらは主戦力たる八八艦隊には欠員はありません。
 かくして、その目的に最も合致した、ハワイ攻略作戦が発動されます。
 ただし、急な開戦だったため、陸軍の動員や後方面での支援体制が整っていない事から、いまだフィリピン上陸を果たしたばかりで、その攻略にはなお数ヶ月が必要となります。
 また、ハワイを攻略するのは、米艦隊が壊滅している以上制海権の面では特に問題はないかも知れませんが、ハワイに至るまでの中継地点としてウィーク島、ミッドウェー諸島の占領が必要となります。そして、まずこちらに戦力を割く必要が出てきます。
 艦隊決戦が終了したのが2月末です。フィリピンにはすでに上陸しているし制空権、制海権も獲得しているので、後二ヶ月もあれば制圧可能です。
 この間に、決戦に参加した艦艇を整備して、太平洋の島嶼攻略の準備を進めるとして、三ヶ月後の6月頭辺りに、史実で言う所の「MI作戦」が発動されます。
 その間、合衆国軍の艦隊は壊滅し全く動けない状態ですし、日本軍は決戦を終えてもまだ元気な艦艇は多数存在しますし、船舶の船腹的にも特に問題ないので(史実の二倍の国力があるのをお忘れなく)何とかなるでしょう。
 もちろん、満州でソ連が余計な事を考えないように、陸軍はその方面の警戒も怠りなく行います。

 そして三ヶ月後。1934年6月初頭ミッドウェー諸島攻略を目標に作戦が発動されます。お約束としてなら、日本の作戦開始は6月6日となるでしょうか。また、海軍記念日に大艦隊が横須賀の港を行進曲『軍艦』の吹奏の中、派手やかに出発する事でしょう。
 さて、この頃の日米双方の戦力はどうでしょうか? 主役となる戦艦で比べてみましょう。
 日本艦隊は、マーシャル諸島沖の大決戦で、24隻のうち3隻撃沈、その倍の6隻が損傷。うち3隻は高初速の16インチ砲のめった打ちにされ大破しています。つまり、3隻が修理で復帰して、差し引き18隻の戦艦が動員可能です。
 一方アメリカ艦隊は、大西洋からの回航が英国の圧力から今以上できないとして、太平洋の戦艦の数はそのまま12隻残存、うち6隻が大きく損傷、さらに3隻大破です。さすがのアメリカの工業力と言えど、46cm砲をしこたま食らった多数の戦艦を全て修復する事は難しいです。しかも、東海岸に回航している暇もありません。
 つまり、9隻の戦艦しか動員できません。
 しかし、侵攻してくるのは、日本艦隊です。今度は立場が逆なので、合衆国軍は索敵面では完全に優位にあり、戦力を迎撃にのみ集中すればよく、日本艦隊は、攻略部隊などに戦力を分散しなければならないので、それ程不利でないとアメリカ側は判断するでしょう。アメリカの常識ならそうなるはずです。
 ただし、日本側は二倍の戦力を投入してくるのは確実ですし、相手が攻略するのは合衆国領土とは言え小さな島であり、重要な拠点であるハワイではありません。戦力の回復に専念し、次の侵攻に備えるためにも、ここは我慢して屈辱に耐えるのがベストと言わないまでもベターの選択と言えるのではないでしょうか。
 日本側としても、このハワイへの準備攻撃を実に日本的な考えから、戦力が低下している米艦隊が迎撃してくれればと言う期待を込めて出撃するでしょうから、攻略艦隊こそ伴っているでしょうが、艦隊決戦をやる気満々と言った布陣でミッドウェーに殺到するでしょう。こうなると、合衆国軍としてはむざむざ殺られに行くようなものです。
 よって、ここでは大人な合衆国軍はハワイ迎撃に全てを賭けるために、大人しく庭先が日本人に蹂躙されるのを眺める事になります。
 しかし、このミッドウェーなどの陥落は、アメリカ市民に海軍と政府への不信とさらなる厭戦気分を大きくさせる事になり、海軍と政府共に次のハワイでは失敗が許されない事になります。

※いわゆる、史実の「MI作戦」と似た様な状況ですが、戦力差がありすぎて、合衆国には奇蹟を呼び込むだけの戦力はこの時点では存在しません。大戦力同士がぶつかり合えば、数の違いからまた各個撃破されるだけです。

■転幕
 日本によるMI作戦が完了しました。
 日時的には1934年7月と言った所でしょうか。
 当然戦争はこの程度では終息していません。
 合衆国国内には、停戦と徹底抗戦を叫ぶ二つの声がどちらも高くなりますが、今のところは大きな変化はありません。
 そして、次の戦いこそが戦争の天王山、関ヶ原になります。
 戦場は先ほどの前置き通り「ハワイ諸島」です。日本側の思惑としては、アメリカ人が領土と認識する場所を奪うことで彼らの厭戦気分を誘い、アメリカ海軍そのものに壊滅的ダメージを与え、今度こそ戦争を決定付けたいところです。
 ただし日本側は、ここを攻撃、占領することで厭戦気分を強くさせるどころか、アメリカ市民を激昂させ、反対に泥沼の長期戦になる可能性がある事は全く考えられていません。
 一方のアメリカ側としては、ここで日本軍の侵攻を押しとどめなければ、次はアメリカ本土が戦場となります。自国の一方的勝利だけを念頭とし、経済覇権を目的とした戦争目的とは全く違う戦争になってしまいます。今のところ市民も政府の戦争をまだ支持していますが、それとて盤石とは言えません。ここでもし完敗し、大きな犠牲を出すような事があれば、内政的に戦争の継続は不可能となる可能性が高いという事です。
 ただし、アメリカ側にとっては、ミッドウェーの状況と同じく有利な条件があります。
 それは、迎撃戦だと言うことです。しかも、この戦場では相手を一度ですべて撃滅する必要性がどこにもありません。(それが出来るに越したことはありませんが。)日本人が何度来ようとも、それを撃退し続ければ数年後にはダニエル・プランに倍する新造戦艦を中心とした大艦隊が東海岸の造船所から出現し、その半年後には反対に日本本土を米戦艦の砲火で業火に覆い尽くすことができるのですから。
 そうなっては困る日本は、短期決戦の最後のチャンスを求めて、さらに二〜三ヶ月後いよいよハワイ諸島攻略作戦を発動させます。そろそろ短期戦を前提にして用意した財布の中身も気になり出す頃ですから、なおさら急ぎます。
 決戦の日時は、8月〜9月初頭。日米双方とも戦時計画艦の完成どころか、計画が動き出したばかりで、手持ちの戦力で戦うしかありません。

 では、ここで改めて両者のキャスティングを眺めてみましょう。なお、マーシャル沖の損傷艦艇は、大破したものを含めて両者全て復帰しているものとします。
 まずは、我らが八八艦隊を擁する連合艦隊ですが、動員されるのはマーシャルと同じように第一、第二、第三艦隊です。マーシャルでの損害の低かった日本海軍側に基本的な編成の変更はありません。その内訳も戦艦、巡洋戦艦21隻を中核とする堂々たる大艦隊です。
 対するアメリカ太平洋艦隊は、今回は迎撃のみなので、主力の第一任務部隊と偵察を担当する第二任務部隊からなります。
 ただし、その内訳は大西洋からの増援を受け取らないと戦艦12隻に空母1隻にしか過ぎません。巡洋艦や駆逐艦の数も相手の6割程度しかありません。
 ですから、主力戦力の一部だけでも大西洋より補充を受けます。この窮状にあってなお米海軍が、大西洋から艦隊の全てを持ってこれないのは、全てイギリスが大西洋、カリブ海で嫌がらせのプレゼンスを展開しているからです。また、大西洋に残している戦力が個艦レベルで低いと言うこともあります。
 そして、補充を受け取った太平洋艦隊の最終的オーダーは、戦艦14隻(全ての14インチ砲以上の主砲を搭載する戦艦を集めた数です。)他補助艦艇も日本の7割程度にまで復活します。
 そうです、この増援を受け取った事により防衛に最低限必要とされる戦力の70%がかろうじて揃えられた事になるのです。
 しかも、日本側は侵攻側なので、先ほどの合衆国軍の考え方から言えば、合衆国軍は索敵面では完全に優位にあり、戦力を迎撃にのみ集中すればよく、日本艦隊は、攻略部隊などに戦力を分散しなければならない筈です。
 しかし、天下の連合艦隊は、護衛艦隊などに戦艦を割り当てるなど考えたこともないに違いありません。
 敵迎撃艦隊を撃滅するために、全ての主要戦力を一カ所に集中、一種の一点突破を図る可能性が高いように思われます。
 しかも、史実のミッドウェーと違って、主力は全て戦艦です(空母は制空部隊のみなので打撃力として考えない)。主力や前衛に分散配置する必要性はありません、一丸となってハワイ諸島を目指し、必ず迎撃に出てくるであろう敵艦隊を潰したあとに、潜水艦だけを警戒しつつ輸送船団を呼べばいいのです。もし、出てこなければそのままハワイ諸島を攻略するなり、出てくるまでハワイ諸島のどこかを艦砲射撃してやればいいだけです。2万メートルの距離から砲撃してくる21隻の戦艦の群を阻む者など、戦艦以外どこにも存在しないのですから。
 そして、フィリピン救援を目的としたスピードを重視せざる得ない合衆国軍と違って、そこまで急ぐ必要はないのです。それに、どうせ日本の船腹量では、攻略船団を一度に全部運ぶ事などできないのですから、無理なものは無理、人間開き直りも肝心です。
 かくして、敵艦隊撃滅だけを目的とした、互いの艦隊が再びハワイ沖で相まみえることになります。
 両軍相対したとき、米艦隊にとっては「詐欺だ」と叫びたくなるような状況です。日本艦隊は輸送船団の護衛も強行偵察もほっぽりだして、全ての戦艦を主力艦隊のみに集中してぶつけてくるのですから。
(もちろん、巨大な水雷戦闘部隊である第三艦隊が偵察部隊も兼ねますが、彼らは夜間戦闘以外の単独対決する気はないので、出会う時は夜間でなければ、昼間なら主力艦隊の一部となっています。そして、電探もない時代に合衆国軍が、夜間戦闘を好むという事はまずありえません。)

 キャスティングが決まった所で、まずは主力艦から戦力比較をしてみましょう。
 戦艦数は、日本側:米側=21:14、つまり10:6.7です。これが排水量比較になると、日本側:米側=88:49で、10:5.6に差が広がります。そして一斉射あたりの弾薬投射量は、日本側:米側=46cm×64+41cm×78+35.6cm×48:40.6cm×60+35.6cm×90=210頓:132頓で、トータル10:6.3となります。
 つまり、真っ向から殴り合えば、日本側が36%の損害、単純に言えば7隻の撃沈を出せば、米太平洋艦隊は1隻残らずうち沈められてしまう訳です。
 しかし、個々の数値差を見ていて分かると思いますが、真っ向勝負の場合、合衆国軍が総合数値以上に不利となります。それは、16インチ以上の主砲と搭載した八八艦隊が大半を占める日本艦隊(全体の76%にも上る)に対して、既に半減以下になっているダニエル・シスターズ(前線にあるのは最大で6〜7隻、戦力の4割程度)では、実戦力比は10:5以下とすら言えるでしょう。しかも、艦隊速力の問題から一度組み合ったら、米艦隊に逃げることは許されません。もし主力が逃げれても、それは膨大な数の補助艦艇を犠牲にした上でないと不可能です。それに、ここで逃げては海軍は国民から支持を失い、その信頼すら裏切ることになります。
 かと言って、この時代航空機と言った伏兵にも期待できません。その上、決戦場がハワイから離れていたら、この当時の航空機の航続距離を考えると基地機をアテにできない場合が多くなります。さらに、艦載機数では贔屓目に見て互角、客観的に見れば日本側が優位となります。
 双方膨大な数の駆逐艦を投入している以上潜水艦も嫌がらせ以上考えるのは論外、夜間戦闘は先だってのマーシャルで痛い目にあったばかりです。その上、半年では既存艦艇の徹底した近代化などを行う時間もありません。
 さらに、補助艦艇でも数の上ですら不利な上に、この半年実戦経験を積み続けている日本側と大西洋からの新規部隊では、数字の上に見えないハンデもあります。
 ついでに言ってしまえば、日本の特型以降の強力な駆逐艦と合衆国軍の主力のフラッシュ・デッカーでは、実戦力差は個艦でも2倍近くあり、新型駆逐艦ですら個艦性能では劣っており、個人的な力量によってしかこの差を覆す事は不可能です。
 つまり、戦力比は補助艦艇などの要素を加えておおよそ10:5、ランチェスター・モデルで考えれば100:25。
 戦艦数21:14ですから、日本艦隊は6隻分の犠牲を払えばアメリカの14隻の戦艦を葬り去れる事になります。
 ですが、先ほどと同様と言うか、常識的に一隻残らず全滅と言うことはあり得ないので、砲撃戦中に戦力が半減した段階でアメリカが撤退開始、以後は掃討戦となります。
 結果として損害比率は、日本15%、米70%程度、日本側は多数が損傷後退、米側は半数が撃沈、残り半数が損傷後退となります。
 なぜ、日本側が損傷後退のみかと言うと、日本艦隊の先頭を突っ走り、敵弾の洗礼を最も受ける戦艦は全て46cm砲搭載の大型戦艦なので、これを50口径40.6cm砲で完全に打ち抜くことが難しいからです。それ以下の威力しかない主砲については何を言わんやという状況です(ここでは、双方ラッキーヒットと一発爆沈というケースはないものとします。)。
 反対に日本側は、その大半が主砲口径で勝っているので、アメリカ戦艦の装甲を打ち抜くこと大抵可能です。ただし、米戦艦は重防御艦ばかりなので、戦闘能力が低下して後退を始めても、撃沈に至るには多数の砲弾が必要となるので、戦闘が著しく不利になった時点で、米戦艦は補助艦に援護してもらいつつ、よろばいながら撤退していくことになります。

 さて、まともに組み合えば以上のような結果に終わりますが、合衆国軍に逆転のチャンスはあるのでしょうか。
 一つの可能性として、先ほども少し採り上げた潜水艦の有効活用ですが、潜水艦を使って敵艦艇を攻撃しようとするのは日本海軍も同様ですし、お互い対潜水艦戦は熱心に行うでしょうから、やはりあまり有効とは言えません。次に、基地航空隊との連携攻撃はどうでしょうか? ちまたに溢れる「良心的」火葬戦記や「奇抜」な火葬戦記なら、ここで新型航空機や爆撃機が「前倒しで」登場して、日本艦隊に大打撃を与えたりして長期戦に突入でしょうが、1934年程度ではそれも望むべくもありません(あのB-17の初期型すら完成はまだ先です。戦争で開発が急がれても間に合うタイムスケールにはありません。同じく96式中攻も同様です。その為の年代設定なのですから(笑))。
 それに八八艦隊の上空には、日本の空母たちも航空機の傘をかけています。圧倒はせずとも、遅れを取ることはありえません。また、当時の航空機の航続距離と爆弾積載量、攻撃方法などを考えれば、基地航空隊による洋上はるかでの迎撃など夢物語とすら言えます。
 では最後に、正規空母複数による攻撃はどうでしょうか? こちらも、基地航空隊同様せいぜい五分の戦いしか望めないでしょう。それどころか、日本艦隊が防空と索敵しか考えていない部隊編成を取っていれば、目も当てられない結果にすらなりかねません。
 そして、真っ正面以外での艦隊決戦の可能性ですが、レーダーなどない時代ですので、大規模夜間戦闘など合衆国軍には御法度、第一、第二、第三と分散している日本艦隊を、綿密な索敵情報を元に横から各個撃破を狙う戦術も、機動性において劣る米艦隊にとってむしろ不利です。また、残存のレキシントン級を中核とする艦隊をこの奇襲任務に使えば、日本艦隊にかなりのダメージと混乱を与える事は十分可能ですが、防御力に劣る艦隊にそんな事をさせれば、自殺突撃させるようなものです。
 結局、米側の戦術は高速偵察艦隊と重厚な打撃艦隊を連携させたオーソドックスな迎撃戦以外、ハード面的に不可能と言えるでしょう。もともとそれしか考えていない主力艦隊育成しか行っていないのですから、自明の理です。
 対する日本艦隊の方をもう一度見てみると、高度なレベルでの機動力、攻撃力、防御力を与えられた第一、第二艦隊、そして水雷戦術以外あまり考えられていない、変則的な編成をしている第三艦隊により構成されています。これで言える事は、全ての艦隊は有機的に運用する事ができ、戦場を征すると言われる「機動力」と言う点で、日本側がアメリカ側に圧倒的に優位にあると言うことです。
 つまり、ミスを犯してもそれを取り返しやすいと言う事を意味しています。これは勝つためには非常に重要な要素と言え、艦隊そのものの規格化を目指して作られた「八八艦隊」と言うシステムの勝利と言えるでしょう。
 ハッキリ言って、一度劣勢に立ってしまい、戦術的にも古い戦術思想の元建設された米艦隊に、神様や幸運にすがる以外勝ち目などないのです。
 よって、この戦いもこれ以上の詮索はしません。
 海戦が双方の思惑の合致からハワイ沖で、真っ昼間に真っ正面から発生し、二時間程度の戦闘の結果、日本海軍の圧倒的勝利によって幕を閉じます。

 さて、邪魔な米艦隊は壊滅しました。あとはハワイ上空の制空権獲得競争をちまちまと行ったあと、圧倒的な艦砲射撃で、まだまだ貧弱な要塞や施設しか持たない在ハワイ合衆国軍を吹き飛ばし(言うまでもありませんが、46cm砲の釣瓶打ちに対抗できる近代要塞は存在しません。)、ミッドウェー辺りで待機しているであろう、上陸部隊を上陸させれば一ヶ月ほどでハワイ攻略は完了です。
 これで、日本海軍は、太平洋の制海権はほぼ全て握ったと言える状況です。
 何しろハワイ諸島は、北中部太平洋最大にして唯一の要衝、日米をつなぐ架け橋、ここなくして互いに相手領土に侵攻するには不可能なイゼルローン要塞のようなものですからね(笑)

■終幕
 日本軍によるハワイ攻略達成。ここでもう一度日本政府は、勝者としてアメリカに講和を打診します。
 タイムスケール的には、8〜9月にハワイ攻略を開始したので、占領はその一ヶ月後の9〜10月と言うことになります。
 日本としては、アメリカ領土であり、アメリカ本土の喉元とすら言える場所を占領したのだから、もう十分「やっつけた」と思うことでしょう。日本で言えば沖縄か小笠原を失ったようなものです。今度こそ講和を受け入れると考えるのが、勝者の側から見れば常識的判断と言えるでしょう。
 さて、ここでアメリカ合衆国は降伏するでしょうか。
 今度こそ、海軍は本当に壊滅してしまいました。一からとは言いませんが、本気で3年待たなければ戦力倍増どころか、現状維持はおろか日本に対する防衛すらままなりません。来年初頭にでも、日本軍が上陸船団を伴って西海岸に襲来したら、これを止める手だては、純軍事的には海軍は無意味な戦闘をしかけて玉砕する以外、全くと言っていいほどありません。
 ただ、別の意見もあるかも知れません。艦隊はガタガタにされたましたが、全滅した訳ではありません。戦力としては低いとは言え、太平洋艦隊も大西洋艦隊も健在です。残存艦艇を全力で修理して、新しい戦力として認識されつつある航空機や潜水艦を本土近海で有機的に運用すれば、撃退も夢ではないかも知れません。そう、ここまで来ればハワイ以上に日本艦隊の撃滅の必要はないのです。彼らが何度西海岸に来ようとも、それを撃退し続ければ東海岸で数年後には、ダニエル・プランに倍する新造戦艦を中心とした大艦隊が出現し、その半年後には反対に日本本土を米戦艦の砲火で業火に覆い尽くす事が可能なのです。
 それに、その前に西海岸全域が火の海になるぐらいは、アメリカ合衆国という巨大な国家全体の大戦略的な見解からすれば許容可能な損害です。
 この借りは、100倍にして日本に勝った後で取り立てればいいのです。

 ここで少し違う視点から見てみましょう。意外に忘れられがちなのですが、航空母艦が海軍の主力と認識させる以前の時代(ついでに言えば反応弾という下品な爆弾が登場する以前)において、「戦艦」と言う存在は国家が総力を挙げて建設する必要性があった極めて重要な「戦略兵器」です。
 なればこそ、日本、アメリカ、イギリスが、ありとあらゆる列強が血相を変えて巨大戦艦の建造に邁進したのです。
 そして、アメリカはその最重要の「戦略兵器」を用いた戦いにおいて日本に破れ、その戦力差は連続した敗退により、すでに二倍以上に開いています。つまり軍事的には抵抗するだけ無意味な差です。
 この差は、アメリカが形振り構わず艦隊再建に没頭したとしても、3年間は絶対に埋めることはできません。
 つまり、アメリカ政府がそしてアメリカ市民が、本土を焦土にしても構わないと、この戦争にはそれだけの価値があると判断しない限り、戦争の継続は無意味と言う事です。
 ですから、ここでアメリカという社会の良識が大きく首をもたげてくれば、厭戦機運と停戦を叫ぶ声が一気に広がり、特に明日にでも沖合に日本艦隊が現れるのではないかと怯える西海岸市民の運動により議会が動くのは、アメリカ合衆国というシステムの上なら必然とすら言えるでしょう。
 それに、この時代にかのルーズベルトと言えど、第一期目ですからそれ程強い力は持っていませんし、ステイツに今から予想される惨禍を受けさせてまで、戦争を継続する意味を市民レベルでは持ち得ないでしょう。

 そして、この合衆国国内の世相を、恐らくそれ程詳しく掴んでいない日本海軍は、降伏しない米政府に対し焦りを抱き、最後の停戦のチャンスを求めて、距離的には半ば無謀とすら言える西海岸侵攻を企てる事になります。丸一年も大海軍を使った贅沢な戦争をしているので、そろそろ財布の中身も気になり出す頃ですから、なおさら停戦を急ぎたいところでしょう。
 日本側の目的は、米残存艦隊を本当に全て撃滅し、さらにアメリカ本土たるカリフォルニアに八八艦隊による艦砲射撃をあびせかけ、アメリカ国民に自分たちは負けたのだと勝利宣言をしに行くためです。大統領に降伏を勧告してもムダなので、市民を巻き込むことをよしとしない日本軍としても致し方ないところです。
 ですが、日本軍に米本土上陸はさすがに考慮されていません。それは、そこまでの国力がどこをどうひっくり返しても、日本には存在しないからです。
 そして、八八艦隊により制海権を獲得した日本艦隊を阻むものなど、太平洋上には最早存在しません。日本軍にすれば、これで降伏してくれればという希望的な作戦でありますが、これに西海岸市民が敏感に反応します。
 なお、この時代の航空機や潜水艦に、多数の護衛艦に囲まれた大戦艦の群を阻止するだけの力はありません。
 ただし、注意すべきは、潜水艦による通商破壊ですが、史実の合衆国軍の主に装備面でのお粗末さ(1942年中まで)と、この世界の日本が第一次大戦でドイツと対戦している事から、合衆国軍が本気で通商破壊に取り組んでも、この段階で脅威になる可能性は極めて少ないでしょう。反対に、ハワイを拠点として降伏を促すためにも、西海岸の交通線を締め上げる行動に日本が出る事も十二分にあり、アメリカ市民を震撼させるかも知れません。

 なお、日本軍の米本土攻撃は、10月ハワイ完全占領となるので、1934年12月〜翌年1月が米本土侵攻となります。占領したハワイに全連合艦隊の稼働艦結が集結して最後の決戦に赴きます。なぜ、勝利を重ねている日本軍にとって最後かと言うのは、何度か言っているように、これで勝利を決定づけないと停戦のチャンスを逃してしまい、いかに西海岸を業火で焼き尽くそうとも、後はアメリカの巨大な生産力の前にズルズルと敗北が待っているからです。
 連合艦隊は、この最後の決戦に完全勝利して、彼らを講和テーブルの隻に着かせなくてはならないのです。

 そして、日本軍の次の侵攻準備の間に、米議会は紛糾します。順当な流れとしては、無謀で正義のないな戦争を始めた大統領に議会が罷免を通達し、これに大統領が抵抗し日本に対する抗戦を継続しなければ、アメリカの未来はないと説きます。
 ですが、この色々な意味での利己主義的な大統領の行動は、アメリカの良識と常識に否定され、ハワイに再びアメリカにとって今や恐怖の的となっている八八艦隊が、西海岸攻撃のための集結を終えたという情報がもたらされると、大統領はついに議会を抑えることができなくなり、議会から米大統領罷免が強く要求され、辞任に追い込まれます。
 そして、副大統領から大統領に昇格した者により、日本政府にただちに停戦が打診されます。

 終戦をかけて、いよいよ敵地の本当の懐である西海岸侵攻と半ば悲壮な決意をしていた日本海軍にとっては、いささか拍子抜けした結末となりますが、かくして太平洋戦争はカーテンコールを迎えます。
 いつの時代も戦争の幕切れなど、案外呆気ないものです。
(第二次世界大戦が劇的するぎるだけでしょう。)

 そして、八八艦隊はハワイにて凱歌をあげ、全太平洋の覇者が誰であるかを世界にしらしめ、アメリカ合衆国をその主砲の前にひれ伏させ、日本近代史上最高の栄光と掴むことになります。
 もちろん、お約束として、八八艦隊には1隻の欠損もありません(笑)

 この年の秋の戦勝を記念しての特別大観艦式には、八八艦隊の艦船たちが満艦飾で飾ってもらい、誇らしげな姿を水平線のかなたまで並べた鋼鉄の戦乙女達が堂々たる艦列を組んでいる光景が見られる事でしょう。

第一章 完

次週より巻末として年表を紹介したのち、「あなたが望む未来(仮題)」開始予定


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