●バッド・ドリーム(バッドエンド1)

 私は話し始めた。「ええい、どうにでもなれ」という気持ちだった。
 「国連軍にとっての至上命題とは、一日も早く人民解放軍を撃滅し、支那全土を民国の手で統一する事にあります。それに最も効果的なのは、核分裂反応兵器の使用だと思われます。なぜか。それは、戦術的には味方の犠牲を出さずに敵主力を撃滅できる事。これは先ほどから言われているように、言うまでもなく極めて大きな利点です。しかし、それ以上にニュークの使用は戦略的に非常に意味があると考えます。それは、人民解放軍の後ろにいる勢力に対する非常に強い政治的メッセージとなる可能性が高いからです。確かに彼らも我々と同様の兵器を有していますが、彼らにではなく人民解放軍にあえて使用する事で・・・」
 私はしゃべり続けた。
 話しだした以上、もうそうするしかなかったからだ。
 そして、私がいつの間にか話し終え着席してぼう然と眺めていると、喧々囂々の会議が再開され、今度は一つの結論に向けて会議がまとまろうとしていた。
 そして、「会合」とだけ呼ばれた会議は、一つの結論に達する。
 国連軍、もとい日本はニュークを使用するのだ。

 数日後、日本本土を飛び立った3機の「富嶽」は、華北平原の中ほどに達するとまるで急降下爆撃するような激しい機動を行ない腹の中に抱えた荷物を放り出し、降下する時以上の慌ただしさで遁走を開始した。
 数分後、地上では始原宇宙の混沌でよく見られる反応が発生し、それまでの人間の常識を超越した激しい閃光と熱を発生させた。
 歴史上初めてニュークが使用された瞬間だった。
 私はその事を新聞の朝刊で知ることになったが、何か他人事とはとても言い切れない気持ちだった。もちろん、「会合」と呼ばれた会議は公式には存在しないものだし、一組織の名もない人間の発言などどうでもよい事だったが、どうにも私には自分の発言が一つの引き金だったのではと自責の念を強くしていたからだ。
 国連軍のニュークの使用の翌日、義勇ロシア軍を派遣しているロシア政府とその後にいるドイツ第三帝国は、国連軍と実質的に使用した日本を激しく非難し、自分たちの有する同様の兵器を中華人民共和国に供与する事を発表、自分たちも戦時動員を開始することを明言していた。明らかに日本そのものを敵として意識した発表だった。
 しかも、悪いことは続くもので、国連軍として援軍を派遣しようとしていたアメリカ合衆国は、国連軍の非人道的な兵器の使用で世論が一瞬にして硬化してしまい、結局準備していた軍の派遣を取りやめる事態に発展する。守るべき市民すら吹き飛ばすような輩に、騎兵隊が救援に駆けつける必要はないという事だろう。おめでたい連中だ。そんな幼稚な正義で世界が動けば誰も苦労などしないのだ。
 しかも、1発や2発のニュークの使用で人の海であるあの大陸の戦況を一転させることなど端から無理な話だった事を思い知らされる事となり、軍は通常爆撃による阻止攻撃を今更強化する方針を打ち出すと共にさらなるニュークの使用に踏み切り、中華大陸での泥沼の戦いへと身を投じる事になった。

 最初の使用から一週間後、蘭州では地表爆発の形でニュークが使用され、毛沢東など人民解放軍の首脳部はその後永遠に行方不明となっていたが、もちろん根本的には何の解決にもならなかった。
 その数ヵ月後、中華大陸奥地から飛来した赤い星を描いたドイツ製ジェット戦略爆撃機が日本本土を目指していた。
 この爆撃機は海軍の決死の防戦によりからくも撃墜されたが、墜落時の崩壊の過程で爆撃機は太陽へと変化した。
 爆撃機は、ニュークにより日本本土を爆撃しようとしたのだ。
 幸い黄海の水面近くで炸裂したことで、被害は全くと言っていいほどなかったが、だからといって日本としては笑って済ませられる事態ではなかった。
 日本政府は兵器を供与したドイツを激しく非難し、ただちに軍事援助を停止するようにわめきたてた。ドイツは、兵器を供与したがそれを運用したのはあくまで人民解放軍であり、必要以上に日本がドイツを非難するのは間違っていると反対に非難した。
 さすがに事態の悪化を懸念した世界が、ここで国連での日独の調停に乗り出したが、すでにパンドラの箱が解き放たれた世界では何をしても無駄だった。

 今、日本放送協会のラジオニュースは、日本軍の本格的戦時動員とドイツに対する戦争準備を伝えており、ワシントンから放送される短波ラジオは欧州が戦時体制に入りつつあると早口の米語でがなり立てていた。
 世界はもうすぐ第三次世界大戦を迎えるだろう。
 しかも、銃後など存在しない兵器を投げ合っての戦争になるかもしれない。
 もしかしたら、私は悪夢のスイッチを入れる一助をなしたのだろうか? とにかく、この戦争に生き残れたのならこの事を調べてみたいと思う。それだけ価値のある世界が残っているのならの話しだが・・・

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 Bad End
 

 

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