■太陽帝国「楽屋裏」 その18 第一次世界大戦と日米の違い
日本帝国は、史実同様に日露戦争を契機として国際的にも列強として認識され、第一次世界大戦によって世界の強国へとのし上がっていきます。それまでの日本は、欧米諸国からは清のように国の規模は多少大きいが所詮は東洋の蛮族の国ぐらいの認識しかされません。非白人蔑視の価値観から白人全般が抜け出すには、日本を少しばかり先に発展させたところで難しいでしょう。正しく知るには、互いに距離も有りすぎます。何しろ、鉄道でも最低二週間、船で一ヶ月以上の彼方です。 しかし蛮族の国家と侮っていた日本が、世界一の陸軍国を完膚無きまでに破った事で、東洋の端っこに本拠を構える国は世界中から注目を集めるようになります。 完膚無きまでという史実より大きなファクターはともかく、表面的事象の多くは史実のオマージュに過ぎません。しかし、この世界の日本帝国は、ロシア帝国を正面から破れるほど強大化させました。 つまり、史実との類似点を探す方が難しいぐらいに発展しているという事です。 少しばかり前節の復習にもなりますが、順に見ていきましょう。
前節でも取り上げましたが、20世紀初頭の日本帝国全体の総人口は一億人を突破しています。国家予算も通常編成で50億円(史実の二十倍)に達します。国力相応の近代的な軍隊もあり、過去200年間の外からの蓄財によって国内の社会資本、資産も比較にならないぐらい豊富です。日露戦争の戦費も、極端な増税や外債発行を行う必要性もなかった筈です。特に、過去の蓄財が多い点は、国家としての基礎体力を桁違いに大きくしている筈です。それは、史実での欧州列強が証明しています。 故に日露戦争では、史実にあったアメリカ資本(正確にはユダヤ資本)を登場させませんでした。この世界の日本が、近代化から数十年の貧乏国ではないからです。数字上では、ドイツとロシアの中間ぐらいの大国になります。つまり、世界五指に入る金持ち国家です。高橋是清もしくは同じような人物がいても、辣腕財政家、財務官僚になるだけでしょう。 そして戦後に国の借金が少ないので、日露戦争後の経済低迷も小さくなります。ロシアに対する戦勝によって大きな領土・市場も獲得しているので、国内経済を海外開発に誘導して戦後不況を乗り切れば大きな問題は発生しないでしょう。足りないお金は、戦争終了と共に余った大量の兵器を諸外国に売り払えば多少は補完できます。それに軍隊はこの時点では国家に飼い慣らされているので、日露戦争が終わると軍神が徒党を組んでいようが相当軍縮されている筈です。 また、北東アジアからロシアを完全に追い出したので日本本土の安定度は増し、戦後の軍備削減も無理なく行えます。しかも負けたロシアは、負けたが故に史実同様安全保障条約も結ぶでしょう。ケンカが終わった以上、仲直りと縄張りの線引きを行うのが節度ある紳士というものです。国益にも適います。そしてそれこそが欧州的外交です。 いぅぽうロシア以外の列強は、いつもの内輪もめとチャイナの蚕食に忙しく、日本にまで手が出る国はありません。列強に集団レイプ状態の清国に、何もする力もありません。朝鮮半島は、中華地域を気持ちいいぐらいに見限って、日本追従が金科玉条となっています。太平洋を挟んだアメリカ連合が時折市場を寄越せと文句を言い立てきますが、史実と違って呂宋(フィリピン)や太平洋の島々は古くから日本領もしくは勢力圏です。ハワイ王国も日系勢力圏で独立維持しています。アメリカは、日系の犇めく太平洋に一歩も出られません。それどころか自国の周囲を陸続きで仮想敵に包囲され、南北戦争以後も北米大陸での深い軍事対立が続きます。そして1898年には南北戦争のリターン・マッチを行って白人の理想であったはずの「合衆国」は政治地図上消滅し、欧州的国家の「南部連合」がアメリカ統合を成し遂げたばかりで海外進出どころではありません。 日露戦争後から十年間の日本帝国は、新たに得た領土の安定化と開発を行いつつ、内政と国内産業の充実と拡大を行うだけで、十分な発展と安定が期待できるのです。 そして、日本にとって実によいタイミングで、史実同様に第一次世界大戦が勃発します。
この世界でも、第一次世界大戦頃の欧州列強の相対的パワーバランスは史実に準じます。今までの歴史変遷があっても、特に欧州列強同士が似たような数字、状態、歴史変遷になるように歴史を調整してきました。唯一ロシア帝国の勢力が少し小さくなっていますが、どのみち当時のロシアに本当の意味での総力戦を行う力はないので、第一次世界大戦において少々弱くなっていても大きな問題はないと判断しました。むしろ、アジアでの失敗を取り戻そうと国力の低下を無視して戦争に傾き、史実と同じ結果をもたらすでしょう。 アメリカについては大きく事情が違いますが、北米大陸そのものを戦争に参加させなければ、影響を調整するのは容易くなります。史実でのアメリカの位置を日本に置き換えればよいだけです。しかもアメリカ連合は仮想敵に囲まれており、安易な参戦応じることは不可能です。 日本のあらゆる意味においての大幅な拡大も、ほとんどがアジア・環太平洋・北米西岸においてのみなので、欧州情勢は環太平洋や北米大陸以外ではほぼ史実通りのパワーバランスです。唯一オランダがどうしようなく縮小化していますが、第一次大戦では中立国で過ごすから問題ないでしょう。 そして(植民地・市場・資源を)持てる国英仏と持たざる国ドイツの対立、多民族国家オーストリア、ロシア、トルコでまき起こりつつあった民族自決が重なれば、第一次世界大戦が起きるのは必然です。否定する要因はほとんどありません。日米に関係なく、バルカン半島の火薬庫は景気よく爆発するのです。 しかし、第一次世界大戦そのものを見ると、やはり違いが発生します。 箇条書きにあげれば、強大な日本帝国、内戦の混乱から抜けきれないアメリカ連合、日本の積極参戦、アメリカの不参戦というファクターが史実との大きな相違点となります。 そして、近代史に極めて大きな影響を与えたアメリカの大幅な進路変更が、この戦争以後の世界史を史実とは違った状態で大きく揺り動かすことになります。
この世界の北米大陸は、16世紀初頭のアイヌによる北米西岸進出によって最初の大きな進路変更が行われています。 同時期からアメリカ進出を開始した白人達は、最初は他の高度文明と出会わないので世界史に大きな影響を与えないレベルでしたが、北米大陸中西部での黄色人種主導による褐色人種国家成立によって、巨大な壁が白人の前に立ちふさがります。日系勢力と諸部族連合、アズトランです。 結果北米大陸は、1824年の第一次北米動乱、1845年の第二次北米動乱と戦乱に明け暮れ、1861年からの南北戦争によって白人同士も分割されます。 成立した国家は順に、北西からアイヌ領レプンモショリ(アラスカ)、諸部族連合、英領カナダ、アメリカ合衆国、アメリカ連合、アズトラン連合王国です。中でも200年以上国土の開発に力を入れたアズトラン(メキシコ)が、史実とのバランスを大きく崩すほど発展しています。日本人で溢れかえっている西海岸の開発度合いも、史実とは比べものになりません。カリフォルニア湾一帯には、広大な水田が広がっている事でしょう。 以上が、東西双方から文明国が押し掛けた結果の偶然と必然が生み出した分裂と発展状況の変化の要約です。しかし、1898年の統合戦争でアメリカ連合がアメリカ合衆国を飲み込んで北米中原をようやく統一する事で大きな変化が訪れます。 もっともアメリカ連合(C.S.A)の国土(アラスカ、ハワイ除く)は、地図を見てお気付きかと思いますが史実アメリカ合衆国の約一割減となっています。アズトラン、諸部族連合共に北米西岸の重要都市を自分のテリトリーとして強く保持した結果です。ワシントン州全域とサンディエゴ一帯はアメリカ連合のものではありません。メキシコとの国境も100km程度北寄りです。 統合したアメリカも、1898年の戦争で主戦場となった北米東岸中部とミシシッピ川流域、五大湖沿岸の一部が戦災で荒廃しています。逆に日系が溢れかえった西海岸は、戦災もなく戦争特需の恩恵を受けているほどです。当然ですが、史実では東海岸北部中心だった経済地図も大きく塗り代わっています。南部の発展もずっと早まっているでしょう。 以上のように、一見史実とよく似た統一アメリカを作り上げましたが、20世紀に突入した頃のアメリカの姿は史実とは大きく異なるのです。 加えて、分裂と動乱を繰り返していれば、史実でこの時期多数あった北米移民の数も大きく減じている筈です。オフィシャルでは特に記載しませんでしたが、白人移民のいくらかは北米大陸ではなく豪州大陸やカナダ、日本帝国領内に流れていると想定しています。特に豪州は日系により古くから大きく開発されており、政治的安定度の高さは世界随一で、近くに外敵もありません。経済も開発により好調ですし、バックには当時世界一の金融帝国であるイギリスがいます。それでいて、土地は有り余っています(まあ、砂漠が多いのは玉に瑕ですが)。 ちなみに、この世界の豪州(豪連合王国)は史実の五倍(20世紀前半で3000万人以上)の人口を抱えており、第一次世界大戦でも英連邦の一員としてインドに次ぐ兵力をフランスの平原に派遣・活躍しています。単一での単純な国力は、人口以外の点で史実の日本に近似値を求めることが出来るでしょう。 いっぽうのアメリカ連合は、1898年の統合戦争(一年戦争)の後遺症によって経済の停滞状態が続きます。史実の南北戦争(1861〜1865年)後では、南部の復興、中西部の開発により東海岸北部と五大湖沿岸の産業が大きく発展し、後のアメリカの隆盛を作り上げる大きな要因となりました。しかし、ここではアメリカ東部の発展は成立しません。先ほどから言っている通り、西部はすでに開発されていて東部の経済上のライバルでしかありません。南部もミシシッピ川西岸一帯は、アズトランが領土化していた頃から開発されています。 しかも、諸部族連合というアメリカの原罪を象徴化したような敵を常に北部国境一帯に抱えているので、国内の軍備を疎かにできません。南のアズトラン(メキシコ)だってアイヌ系国家の先住民を中心にした国です。武装中立状態とはいえ、油断ならない対抗者といえるでしょう。 国内にも経済力を持った日系、諸部族系が中西部に溢れかえっていて、人種差別問題から白人中心の統一した国家意志を形成しにくいでしょう。そして「連合」という曖昧な国家の集合体としての国家形態が、多数の民族をテリトリーごとに内包する事を許容するので尚更です。 アメリカ連合にとってのイギリス、フランスは、統合戦争から向こう四半世紀は間違いなく友好国ですが、国内状況が混乱している以上第一次世界大戦の参戦には踏み切れないでしょう。戦乱の後遺症と、現状の北米大陸での冷戦状態が許してくれないのです。ですから、アメリカは戦時特需で沸き返るも不参戦としました。 対する日本は、アメリカと全く逆の状況です。 1904年の日露戦争によって国民国家として団結が強固になっています。20世紀に入る頃には、経済・産業も世界のトップレベルに達しています。全般状況としては、史実のアメリカ合衆国の3分の2程度に近似値を求められるのではと想定しています。 しかも日英同盟は史実同様に継続されており、世界帝国化しつつある日本帝国にとっての中華地域は、列強とのゲームプレーの場ではあっても生命線ではなく、ゲームのルール違反をしてまで進出する必要性はありません。満州で清やロシアと戦ったのも、純粋に国防のためです。 日英同盟に従い相応の軍を欧州に派兵する方が、はるかに自然な政治状況といえます。
さて、以上のような環太平洋圏の存在する第一次世界大戦ですが、欧州のゲームプレイヤーは、欧州においては史実とほとんど同じとなっています。 領土も欧州大陸と近在では全く同じです。環太平洋圏の植民地や辺境領土での勢力縮小はありますが、欧州列強横並びで日系勢力によってテリトリーと利益が得られていないので、相対的な変化を与えるほどではありません。変化があるのは、総人口が3000万人となった豪州を抱え、カナダの西半分とニュージーランドを持たない大英帝国だけです。しかも史実より大きな国力を持つ豪州を抱えた事で総合的な動員数や工業力は、史実よりもむしろ上昇しています。 また、早期参戦する日本がやたらと強大化(工業力は既にドイツ以上)していますが、アジア・太平洋のドイツ軍(同盟軍)以外に変化はないでしょう。 以上の条件から史実との変化が発生する時期は、何度かあります。 まずは日本が積極参戦して、日本から最初の兵力が欧州に送られてくるのが1915年初頭。次に、豪州の動員戦力が送られてくるのが1915年中頃になります。 そしてアメリカが不参戦なままの1917年以降です。 しかし、日本は自力では史実のアメリカほど兵力を欧州に送り込めませんし、送り込む気もありません。兵站負担増が距離の二乗に比例するという法則から考えると、国庫を傾かせることなく済まそうと思えば、丼勘定で50万人を送り込むのが自力での限界となります。なにしろ欧州は、一万キロの彼方です。英仏が現地での兵站の面倒をある程度見てくれるとしても、史実のアメリカと同じく200万人の大軍を送り込む事は経済的にしたくありません。日本の戦争ではないからです。 しかし英国は、日本からの大軍がなくても豪州からの大量派兵(最大で100万人規模)で、ある程度兵力不足を補完します。1916年では史実よりむしろ多く、1917年以降でも連合国が持つ戦力は史実より50万人から100万人ほど少ないだけで済みます。 しかも史実のアメリカ軍は、200万人送り込んだ割に実際戦ったのは100万人程度です。しかも1918年に入らないと前線で戦っていません。単純に数字の上でカイザー・シュラハトまでドイツ軍を押し止めるだけなら、兵力が少なくても問題ないでしょう。 もっとも逆に、数十万の兵力が余分にあっても、攻勢に転じることは不可能です。機関銃と重砲の弾幕の前に、死山血河を史実より多く作り出すだけです。連合国にドイツのような浸透突破戦術はないし、戦車は言うほど役には立ちません。大攻勢しても大損害を出しただけで元に戻るのがオチです。
いっぽう、日露戦争で史実以上に負けているロシアの減退も見逃せない要素になります。 ロシアの領土を割譲した日本など、ロシアとの関係はむしろ深くなり、象徴的意味合いを持たせるために若干の兵力派遣すら行わせました。 また、16世紀にアイヌが暴れ回った遺産として、ロシアが取り込んだ中央アジア地域が史実より発展している可能性が高く、本来ならロシアの国力は史実とさほど変わらないのですが、逆に民度が高くなるので完全に利用できなくなります。 そして日露戦争での大敗、完全に服属しきれていない征服地域、低下した国力という要素がロシアの敗北と革命を早めます。 だからこそ、ロシア革命後のドイツの攻勢(とすら言えないただの平押し前進)でサンクトペテルブルグを呆気なく陥落させました。そして、ドイツ帝国最後の大博打となったカイザー・シュラハトで激突する双方の軍団のうち、連合軍側が史実より50万〜100万人ほど少ない状態で激突します。 結果、総力を挙げたドイツ軍のごり押しによって、ドイツはパリ前面まで迫って連合国(特にフランス)が真っ青になり、かくして欧州的結末によって「戦争を終わらせるための戦争」は手打ちになります。 そしてこの世界の第一次世界大戦は史実より半年ほど早く終わるので、ドイツでの革命も起きません。 終戦(停戦)は1918年11月ではなく4月か5月頃でしょうか。 数年間にもわたる総力戦に耐えきれず自壊したロシア、オーストリア、トルコ以外にとっては、欧州的停戦という形で戦争は終わり、結果として何とか戦争を耐え抜いたドイツ第二帝国が生き残ります。終末から結末にかけてが、戦争での大きな変化になります。 ドイツ側から見れば、勝負で勝って戦で負けてという結末になるでしょうか(もしくは逆か)。ドイツ国内での軍に対する信頼はさらに大きくなること間違いありません。何しろ国力差で押し切られつつも、忠勇勇猛なるドイツ兵は数倍する敵を前にして勝ったのですから。 しかもロシアの革命政府と交わした法外な約束は、ドイツ帝国の継続的な存続により残ってしまい、共産主義も史実ほどはびこれません。ドイツ国内の不満分子(+共産主義者)も戦争が終われば多少は沈静化し、それでも暴れる者はドイツ帝国の官憲に捕らわれてしまう事でしょう。何しろ帝国は継続せず、国民は政府と軍を支持したままです。 そして、戦争全般にわたって良いところがないのがロシア帝国です。しかも、良いところがないどころではありません。 史実でも初戦でヒンデンブルグ将軍にボロ負けして、総力戦にも耐えきれず革命が起こってます。成立したばかりの革命政権も、ドイツに対して圧倒的に不利な講和条約を無理矢理結ばされています。史実では、幸いドイツ帝国が崩壊したので領土の多くは奪い返せましたが、この世界ではもっとひどくなります。 まずもって、第一次世界大戦がドローとなったのでドイツ第二帝国が崩壊しません。その上、アイヌの数百年の悪行と日露戦争敗戦の影響によって、ロシアの弱体が史実よりひどくなっています。結果、第一次大戦では帝都(首都)サンクトペテルブルグすらドイツに奪われてしまいます。 しかもドイツ軍の占領地域には、一度革命で倒されたロシア帝国(ロマノフ王朝)がドイツ主導で復活し、シベリア鉄道経由でロシア軍を支援しに来ていた日本軍は、火事場泥棒よろしく革命の大事な時期にロシア中枢部で勝手に動き回って革命側に不利な事ばかり行います。 最終局面の大きな変化は、帝都であるサンクトペテルブルグをドイツに奪われたからこそですが、泣きっ面に蜂とはまさにこの事でしょう。 まあ、史実だってドイツ側がロシアに対してだけ今少し強硬なら、サンクトペテルブルグは落とせたでしょうしね。
さて、今回も戦闘の詳細についてここでは触れませんが、結果的にドローに終わった第一次世界大戦によって、史実とは違う形で世界情勢が大きく変化していきます。 史実と似たような歴史を歩むのは、日本の影響がほとんど存在しないなんとイタリアと、ドイツ以外の同盟国側ぐらいです。 フランス、ベルギーは祖国が戦場になった上に、ドイツから賠償金を取れなかったため戦後が大きく低迷します。フランスについては後述するとして、ベルギーが今後列強として世界史上に浮上する事はなくなります。史実においてすら、壮絶な祖国復興計画を行っていますからね(強者への配給を増やして弱者への配給を減らして復興を加速させるというアレです。)。ベルギーは、ドイツもしくはイギリスの経済的従属に甘んじる他ないでしょう。もしくは持てる国日本に頼るという、史実ではあり得なかった動きを取るかもしれません。 イギリスも、ドイツからの賠償金は得られませんでしたから、どこかで戦費(借金)をなんとかしなければならりません。おそらくは植民地からの搾取を増やそうとするでしょうが、反発を招くだけなのは火を見るより明らか。そこで再び自治独立を餌に各地から取り立て、今度こそ本当に自治を与えていきます。いわゆる英連邦の成立です。 大英帝国の連邦化へのレールも、日本帝国の状況を参考に第一次世界大戦前から進められているし、豪州に対する自治の影響もあって動きを加速させます。植民地に対する締め付けを可能な限りゆるめないと、宗主国としての地位を維持できなくなるからです。おかげで一足早く勢力圏内の連邦化が進められ、結果として大英帝国の存続は長引きます。 また英国は、戦争の負債をアメリカではなく日本に多く肩代わりしてもらう可能性が高く、既存利権のいくらかもアメリカではなく、同盟国でもある日本に譲り渡しているでしょう。 ドイツは、同盟国側で唯一戦術的勝利を戦略的辛勝に持ち込んだので、本土の領土は1871年の時のままです。この世界ではアルザス・ロレーヌ地方は、フランス領ではなくドイツ領のままです(フランスの軍艦名(アルザス、ストラスブールなど)を変更しなければいけないかも(汗))。ダンツィヒ一帯もドイツ領のままです。ポーランドは海への出口を得ることなく、史実より小さな領土での独立となります。さらにドイツは賠償金を支払いませんが、総力戦で自分自身が疲弊したので余力のある日英に領土を切り売りします。ドイツならアメリカに売ってもいいのですが、それはイギリスが許さないでしょう。 なおドイツの政体は、戦後の1922年の宮廷改革で帝政から立憲君主制に移行しました。しかし、世界中の立憲君主国を見る限り、国家としての安定度はむしろ増すでしょう。何しろヴィルヘルム二世での評判と評価は、好意的に見ても芳しくありません。ヴィルヘルム三世、四世(二世の子孫)によって君臨すれど統治せずの立憲君主制が作られれば、中欧・東欧全体の安定化にも大きく貢献するはずです。なにより、国家が精神面で安定し、共産主義、全体主義出現阻止の大きなフラグとなります。 しかも史実では、バルト三国が独立回復する際、当初はドイツ(帝国)より君主を迎える予定だったそうです。なにしろバルト三国の祖の一部は東方警備で設立されたドイツ騎士団になります。エストニアだって「東の国」といった意味です。おそらくこの世界では、バルト三国はドイツから王族を迎えてそれぞれ公国や王国として成立しているでしょう。 なお、ドイツの賠償金支払いがありませんから、賠償金に関連するドイツ国内での未曾有のインフレ発生という事件もありません。当然ながら、戦後の経済依存もアメリカ一辺倒ではなく、日本、イギリスなどと繋がっています。よって、共産主義や全体主義(ナチス)出現の温床は形成されなくなります(もちろん皆無ではないが)。 いっぽうロシアは大変です。オフィシャルで触れた通り、2月革命→ドイツとの屈辱的講和→ロシアの一時的復活→10月革命→外国の干渉→大戦終了→ドイツの内政混乱→ポ・ソ戦争→赤軍の反撃→ロシア帝国完全滅亡→帝国派の大量亡命→ソヴィエト連邦成立、という流れになります。 そしてソ連成立までの混乱の数年間の間に、皇族、貴族、教会、ブルジョワの亡命によって失われる資産の総額は、数十億ドルに達するとみています。何しろロシアの富は、王様以下特権階級が過半を握っていたから大変です。ロマノフ王家も世界一の富豪王家と呼ばれていました。そして、事の功罪はともかく、おかげで国富と自由になる資金(余剰資金)の少なくなったソ連の長期低迷へとつながっていきます。国内開発したくても、カネが無ければ何もできません。 またロシアは、ドイツ帝国が健在のままなのでブレスト条約を簡単には反故にできず、多数の地域がそのまま独立します。史実同様、フィンランドとバルト三国が完全独立します。モルドバもルーマニアに帰属します。中央アジアはいまだ仮設定ですが、アイヌの影響で誕生した草原の白人国家キルギシア王国が独立復帰するでしょう。他の中央アジア諸国についても同様に独立します。さらにドイツに分捕られた格好のベラルーシの多くもポーランドに割譲され、踏んだり蹴ったりな状態からソヴィエト連邦はスタートしなければなりません。だからこそ次の第二次世界大戦では、ソ連を欧州に押し出させませんでした。出ていきたくても、出ていく力がないのです。ドイツがイギリスと結んでいる影響から、ポーランドも十分な仮想敵となってしまいます。火事場泥棒程度が限界だったのです。
いっぽう、欧州の低迷とは正反対に隆盛しているのが、戦場から遠く離れて戦争特需に湧いた日本帝国とアメリカ連合です。この点は、史実と同じです。 史実においても、日本の工業力、国力(国家予算)は第一次世界大戦の間に約二倍に成長しました。20世紀初頭から世界一の工業力に達していたアメリカの工業力は世界の4割にも達します。 しかしこの世界では、北米大陸の混乱が19世紀末まで続きます。第一次世界大戦開始時点でアメリカは、史実ほどの大きな国力の建設に至っていません。アジア・太平洋を中心に、勢力圏をかなりも日本(日本人勢力)に奪われています。アメリカ国内の日系勢力の事を加味すれば、日本人の手による工業力指数は、世界の三割以上に達するでしょう。その分だけアメリカは停滞します。この時点でのアメリカのパワーは、史実のせいぜい7割程度になります。 しかもアメリカが完全に統一されても、近隣には諸部族連合という天敵がいて、アズトラン、カナダも油断できません。ほとんど全ての国境線には多数の軍隊を張り付けて置かねばならず、アメリカが参戦するのを妨げます。しかも国境に張り付けられた大量の軍隊は金食い虫でです。アメリカの国庫を日々無為に食いつぶします。統合後のアメリカの復興から発展に向けての動きは、かなり遅いものになるでしょう。 いっぽうアメリカの力を奪い取った形の日本帝国は、近隣の脅威の減少による国防費削減と、折からの内需拡大もあって巨大な産業国家へと成長しつつあります。日本の領土、領域の広さも、仏露に匹敵する規模です。要するに史実のアメリカと似たような状況です。 そしてこの二つの巨大産業国家が戦時特需で沸き返り、日米僅差で世界のNo. 1、No. 2として世界の工業力のそれぞれ四分の一前後を占めることになります。 ビッグ・デュオによる新たな時代の幕開けです。 そして太平洋に面する二つの大国が、どちらが世界の太陽であるかを争って世界を主導していくようになります。