■太陽帝国「楽屋裏」 その19 偽りの平和から第二次世界大戦へ
「戦争を終わらせるための戦争」といわれた第一次世界大戦によって、世界の勢力図は大きく塗り替わりました。この点史実と同じです。この世界でも欧州列強が没落し、太平洋列強が隆盛したと表現できます。 違っているのは、ゲームプレイヤーの顔立ちや服装がいつもと少し違う事です。 しかし、大きな流れが史実と似ていますが、この世界では日本の隆盛が桁違いに大きくなります。すべては、あしかけ400年、アイヌの勃興から数えれば600年にも及ぶ変化の積み重ねがもたらした結果になります。
さて、第一次世界大戦後、日本帝国とアメリカ連合が大きく隆盛しました。反対に、戦争当事者だったフランス共和国、ドイツ帝国が大きく停滞します。他、ロシア帝国は共産主義を掲げたソヴィエト連邦というイデオロギーを大黒柱とした人工国家へと変貌し、イタリアでは戦後もう一つの異質なイデオロギーであるファッショ(全体主義)が台頭します。 当時の世界帝国にして世界のスタンダードであるイギリスは、域内の連邦化を促進したり日本との同盟関係を強くするなどして現状維持に躍起ですが、もはやパックス・ブリタニカの時代が過ぎ去ったのは明らかです。金融の中心がロンドンに有り、表面的な支配体制が維持されていたとしても、夕日の輝きを浴びているに過ぎません。 いっぽう環太平洋地域では、数百年におよぶ日系勢力の影響によって誕生した国々が、それぞれ隆盛しつつあります。この点が史実と大きく違い、アメリカ単独の隆盛とはなりません。 イギリスから独立し、領土と資源、相応の人口と経済力という順当な力によって列強の末席を占めつつあるオーストラリア連合王国。北米中原への回帰を金科玉条とする諸部族連合(T.U.K)。アステカの神秘に包まれた、南北アメリカ大陸の重心に位置する中立国家アズトラン連合王国。東南アジアの資源大国として、相応な発展を始めたインドネシア連合王国が代表たちです。また、まだ仮称ですが、中央アジアにある草原の白人国家キルギシアもロシアの崩壊と共に再興し、広大な領土と豊富な資源、高い民度によって中央アジア地域の中心となっていくでしょう。 そして全ての根元となる日本とアイヌによる統合国家「日本帝国」が、ファーイーストの最深部から世界を睥睨(へいげい)せんと緩やかに起きあがりつつあります。 いっぽうアメリカ連合は、大戦による好景気で国中が沸き上がり、世界一の工業大国、経済大国として一時の絶頂を迎えていきます。 以上が、オフィシャル上の概要です。 より大雑把に見れば、欧州だけが中心だった時代が終わり、アジア・環太平洋地域へ世界の重心が移動しつつあると要約できるでしょう。 もうこの辺りまで時代が進むと史実との状況が大きく食い違ってしまい、戦争の中身を語らないスタイルを取ってきた楽屋裏として語ることも少ない気もするのですが、第一次世界大戦以後の世界を日本帝国中心に時代を追ってみましょう。
第一次世界大戦の終わりを形作るべく、まずはフランスのベルサイユ宮殿にてパリ講和会議が開催されます。史実と違うのは、ドイツ帝国最後の攻勢「カイザー・シュラハト」の一部成功を原因とした停戦なのでドイツが名目上の勝者です。そして停戦と会議開催が史実より半年早くなり、アメリカがオブザーバー程度の席しか確保できない点も大きな違いです。 そして欧州的決着を付けるための話し合いが終わると、史実同様に国際連盟(LN)が誕生します。ウィルソンがでかい面しなくても、何百万人も死ぬ戦争をした以上、誕生すべき組織です。 また同様に日米の軍拡競争が、会議の数年後に海軍軍縮条約を呼び込みます。これも大戦が起きていれば必然です。 アメリカが躓き、日本が大きく隆盛していようが、欧州列強が総力を挙げた第一次世界大戦が発生している限り、上記二つの事件を否定するファクターはほとんどありません。大航海時代と産業革命をいち早く成功させた欧州こそが、富と力、情報、そして知性の上で世界のスタンダードです。20世紀に入り欧州文明が少しだけ大人になっているのは、シヴィラゼーション上確実性が高いと言えるでしょう。 人は、相応に成長してから一度自分自身が深く傷つかなければ一歩前へは進めないのでしょう。 なお、第一次世界大戦により学んだ人類が行った平和への働きかけを箇条書きにすると以下の項目に要約できます。
・パリ(ベルサイユ)講和会議 ・国際連盟の設立 ・民族自決の実施(限定的) ・中華地域での平和協定 ・海軍軍縮会議
史実ではこれに太平洋での安全保障に関する取り決めが加わりますが、この世界では国力的に日本帝国が圧倒的に優位にあり過ぎて、列強間の紳士協定以上のものは成立しないでしょう。だいいち、取り決めをする以前に太平洋の過半は日本の勢力圏内です。 もっとも、この辺りのことはオフィシャルでは軍縮条約とロシア革命以外さわり程度しか触れていないので、補完の意味も込めて少し見てみましょう。
さて、パリ講和会議での史実との大きな違いは、ドイツ第二帝国が勝者として生き残り、アメリカが不参戦で、積極参戦した日本がデカイ面をしている事です。 中でも存在感が大きいのは、大軍を派兵しながら戦争当事者でなかった日本です。なにしろ日本帝国は、戦争に積極的に参戦して欧州列強に恩を売り、戦争に参加する事で軍備を一気に近代化したうえに近代戦のノウハウを得て、しかも戦争特需で大もうけして国内経済が好調だからです。さらに日本軍の恐ろしさも、欧州列強の身に染み込ませました。後援してくれる国の数も一つや二つではありません。不利な要素は全くないのです。せいぜい、列強のやっかみがあるぐらいでしょう。 日本帝国は、講和会議そのものは外様なので外野に近くなるでしょうが、その後の戦後世界を話し合う段階になると俄然存在感を増します。史実ではアメリカのウィルソン大統領が提唱した色々な事も、民族自決も、有色人種の代表でもある日本帝国から提唱されるでしょう。そして欧州列強は、国力、軍事力を伴った「頼れる戦友」である日本の意見を聞き入れないわけにもいきません。たとえ相手が有色人種国家だとしても、パワーとモラルを持った相手を無視してはロクな事がないのは誰もが知っています。しかも日本は欧州で多くの血を流しており、この事実を無視できません。外交上はもちろんですが、心理面での信頼感も大きく向上しているでしょう。 いっぽう、戦争特需で大きく潤っただけのアメリカの意見は、欧州列強が聞き入れる理由がありません。成り上がりの植民地人な上に、血を流さなかった成金の戯れ言ほど反感を買うものはありません。それにアメリカも会議に出しゃばったりはしないでしょう。それほど子どもでもないはずです。 またアメリカには「モンロー主義」という手前勝手な外交方針が不要になってからも金科玉条としてあり、海外勢力と競い争うという事を自ら政策の上で否定しています。しかも20世紀に入るまで大陸内部で自身を原因とする戦乱と対立に明け暮れ、今も仮想敵に囲まれているのですから、アクティブに出る事は難しくなります。欧州列強も、影で失笑しているでしょう。成り上がり者が、それ見たことかと。 パリ講和会議でのアメリカが、オブザーバーとして呼ばれその地位に甘んじるのは当然でしょう。列強がお金の面以外でアメリカに用があるのは、欧州での決着が付いた後の事です。 何しろアメリカは欧州の市場を一時的であれ奪っており、戦中は国債を買いまわり、金融制度の根幹であった純金の蓄積も大きく進めているからです。
そしてパリ講和会議後の次の議題は、種々の国際条約を決めることと国際連盟の設立についてです。 こちらも史実ではウィルソン大統領が提唱事ですが、考えそのものは彼個人の独創ではないので、戦争や紛争の調停機関として同様の組織が設立されるのはむしろ自明の理でしょう。欧州は戦争に飽き、平和に憧れているのです。 国際連盟設立時での史実との大きな違いは、有色人種に対する民族自決が理念として盛り込まれ、ドイツ帝国が最初から常任理事国として加わる点ぐらいです。 そして、イギリス、フランス、日本、ドイツ、イタリアが常任理事国を占め、これら5つの国々が次なる時代を牽引する最初のレールを引く事になります。 なお国連と講和会議が英日独枢軸の最初のフラグポイントとなりますが、三国の関係強化に不可欠な要素があります。 三国の経済問題と植民地問題です。 史実のドイツは、戦争で海外領土の全てを失い、戦後は主にアメリカからの投資を頼りにして経済回復をします。しかし、大恐慌によってアメリカからの投資が止まって最悪の状態となり、絶望的な不況の悪夢を温床としてナチス(ファシズム)と共産主義が台頭。短くも熾烈な政治闘争の結果ナチスが勝利を掴んで、ナチスはドイツと世界を奈落の底に突き落とします。誰だって、悪魔と契約を結びたくなるのは感情的に否定できないほどでした。 しかしこの世界のドイツは、第二帝政が宮廷改革によって立憲君主国家となっただけで残っています。王権(帝権)が健在なので、精神面での共産主義の浸透も低下します。ヒトラーが政治家を目指しても、普通の政治家を目指さざるをえません。連綿と続く皇帝陛下が至上の座に鎮座するのに、赤い皇帝や黒い皇帝など全く不要です。 またドイツは、日英に植民地を売却して元手を自ら作り出して国の再建を始めます。これもドイツ経済を、基礎体力の面で保たせるためには必要です。さらに売却時の関係を発展させ、日英も自らの安全保障のためにドイツとの関係を強めることで、互いに抜き差しならぬ間柄になります。何しろ産業国家ドイツの復興にはお金がかかるので、多少我が儘な相手でもスポンサーは不可欠です。ドイツもこの点膝を屈するしかないでしょう。戦いはつい先日行って懲りています。 いっぽう英国は、戦費返済のための経費節減を図り、いち早く自らの帝国の連邦化を推し進め、オーストラリアなど自立できる国の独立すら進めていきます。 もちろん独立と連邦化には理由があります。理由の一つは日本帝国です。 日本帝国は、近代国家成立時から今で言うところの連邦国家です。しかも各国の自治が強く、内包する国ごとに軍隊すら持ちます。これは我々の世界でのアメリカ合衆国というより、欧州連合に近い組織になります。この時代で言えば、プロイセンを中心にした諸侯による連合体だったドイツ帝国にも近いでしょう。と言うより、形態はドイツ帝国の変形国家、もしくはオーストリア・ハンガリー二重帝国に近いかもしれません。 連邦化の理由は言うまでもなく、国家の中核に日本とアイヌという大きな政治勢力が連立して存在しているからです。日本帝国が欧州連合と違う点は、全ての国(自治国)が「日本人」によって作られた国だという点です。逆に、日系人が多くても政体の違う周辺国は普通に独立国として存在しており、日本帝国という国家の姿勢を見せるようにしました。 オフィシャルでも書きましたが、「日本帝国」とは民族的に曖昧な存在に過ぎない「日本人」のためのシステムに過ぎないのです。私達の世界では、島国だからこそ日の丸と日本語を中心に、比較的簡単にアイデンティティーを形成できましたが、この世界での努力は、少なくとも私達の世界以上でしょう。 そして、少しばかり奇妙な巨大コミュニティーの影響を、日本以上に世界中に領土を広げてしまったイギリスが受けます。 なにしろイギリスの領土は、史実より若干少なくとも世界の二割以上の大地を有し、世界の海洋の半分以上も支配しています。域内には植民により成立した白人系のコミュニティーもあれば、インドのような人口数億を抱える有色人種地域もあります。史実でも、第一次大戦の頃には民族自決で色々な問題も噴き出していました。 もちろん、イギリスの統治は植民地帝国としては欧州世界では最も効率的で優れたものでしたが、環太平洋一帯に日本帝国などと言う奇妙な有色人種国家があれば大きな影響を受け、史実より強固で迅速な自治独立の動きが出るのも無理ないでしょう。 そこでイギリス自身に、自らの帝国存続の方便としていち早く「英連邦」を作らせました。制度は、日本帝国をモデルとしつつも史実の英連邦と植民地時代の中間ぐらいになるでしょう。 形としては、各地域をランク分けして一番高いランクが独立(豪州)、それ以外の多くが独自の軍すら持つ自治化(カナダ、南アなど)、民度が低くすぎる場所(アフリカ)と重要拠点(ジブラルタル、シンガポール、香港、カリブなど)は当面植民地のまま、というところでしょうか。最重要のインドも、若干地方自治を与える程度で、植民地に毛が生えた程度になるでしょうか。
以上のように、イギリス、ドイツ、日本は、名前と表面上の見てくれこそ似ていますが、史実とは違う存在になり仰せています。 イギリスは早々に連邦化して自らを軸とする世界帝国の維持に務め、ドイツは立憲帝国になって日英との経済的つながりを強めてアメリカ、ロシアを知らんぷり。日本に至っては、環太平洋に広がる世界第一の大国にまで膨脹しています。 なお日本に関しては、経済的にはアメリカ(連合)と似たり寄ったりな力を持つに至っているのですが、世界大恐慌までは大きく出過ぎる事はありません。それは、日本の経済界が江戸時代からの伝統と流れを保持しており、アメリカのような本当の意味での新興勢力が国内にいないため、慎重な動きが内部において大きいからです。 そして、平和な時代の別れ際となる世界大恐慌によって、列強から一馬身以上のリードを奪っていた筈のアメリカが、つまずくどころか大回転で転んでしまい、第二次世界大戦への大きな一里塚を築いてしまいます。
さて、史実での第二次世界大戦の原因はなんでしょうか。 持つ者と持たざる者の対立。イデオロギーの対立。長期の経済不況による混乱。全体主義、軍国主義の台頭。共産主義の幻想と拡大。民族主義のさらなる台頭。教科書レベルが教えるところでは、大きくはこんなところでしょうか。 しかし表面上で目立つイデオロギーという異質な要素を排してしまうと、物理的な面では第一次世界大戦と第二次世界大戦に大きな違いはありません。違いを探すとするなら、第二次世界大戦が第一次世界大戦を教訓とした、相手国家を無条件降伏に追い込む殲滅戦争だった事ぐらいでしょう。中途半端に終わらせたから、次の大戦を呼び込んだんだという理屈ですね。 また、全体主義、共産主義、そして自由主義というイデオロギーのぶつかり合いだったからこそ、極端な結果を求めた戦争になったと言えるかもしれません。 ついでに言えば、アメリカ、ソ連というそれまでの世界から見た場合異質な国家が世界の覇を取ったことも、殲滅戦争となった大きな理由でしょう。 さて、この世界ではどうなっているのでしょうか。
この世界では、持てる国、持てる国が違っています。 当然ですが、持てる国の筆頭がイギリスである点は言うまでもありません。日本は、広大な領域と友好国を抱えた世界屈指の大国。つまり持てるの代表の一つになっています。何とか現状状態を維持しているドイツは、日英にぶら下がる事で資源問題と市場問題、経済問題をある程度クリアしていますし、立憲君主国として精神的安定も手にしています。我らが総統閣下は、史実通り妙な政党を率いてドイツ民族の明日のため立ち上がりますが、当人に今少し平穏な人生を与えた事とドイツ皇帝が健在なため、「総統」ではなく「宰相」になっていただきまいた。行った事も、史実の総統閣下の善行を集成させたドイツ版ニューディール政策と戦時での天才的戦時内閣の運営でしかありません。しかも二つは連続していません。この世界のヒトラーをあえて他の例であげるなら、アメリカのルーズベルトやイギリスのチャーチルが近いでしょうか(笑)。 そしてドイツは持てる国とは言いませんが、戦争するより現状維持が国益に適っています。何しろお得意さまの日英は現状維持派の最右翼です。ドイツ国民も、国内で極端な不景気がなくマイナス感情が低いので、全体主義的な言葉に耳を傾けないだろうから、順当な線だと思います。 しかし、持てる国が新たに現れているという事は、持たざる国も出てきます。 代表格は言うまでもなくイタリアです。史実と何ら変化のないイタリアは、早々にファッショ化する持たざる国の一番手です。もっとも、史実同様に世界を牽引する力はありません。全ての史実と同じファクターが積み重なった結果です。 そして新たに持たざる国に加わるのが、日英独の敵となった国々です。 フランスは第一次世界大戦がドローになったので賠償金が得られず、国土が荒れて国庫が干上がったままです。アルザス・ロレーヌも「奪回」できていません。政治形態も、経済不安に比例して共産主義、社会主義が台頭して、国家全体は左翼寄りの全体主義傾向を強めます。植民地は広大ですが、経済的混乱は史実の比ではありません。結果として、ドイツに対する恨みは強いままでしょう。 ロシア改めソヴィエト連邦は、ロシアのままなら広大な国土を持つ持てる国ですが、革命の混乱で状況が変化しました。 旧帝国時代の領土の多くを失ったうえに、旧伝統階級の資産逃亡も許して五カ年計画を推進するお金が足りません。しかもかつての属領に独立されたため、周辺国のほとんど全てが険悪なまでの敵対国です。しかも殆どの国が大国の後ろ盾を持っています。当然ながら共産国を貿易相手にしようという国も少なく、旧帝国派の多くに逃亡を許した事も重なって国際的に孤立しています。ドイツとの密約や経済関係もないので、国内開発のための技術移入はアメリカ一国しか頼れません。当然アメリカの足下を見られるでしょう。しかも、周辺部の多くに独立されてしまい、周りは全て仮想敵で、国防負担も史実より増します。粛正と強制労働だけではどうにもならないのです。 そして意外に思われると思いますが、持たざる国の代表の一つとしてアメリカ連合が加わります。 確かにアメリカ連合自体は、史実より少しばかり領土が狭いだけです。産油量はこの当時世界一、他の資源も豊富で工業生産高も高く、大戦のおかげで純金を始め国富も豊富になりました。 しかし、海外市場がありません。植民地もほとんどゼロです。 しかも周辺国は敵対国ばかりな上に、友好関係にある国もほとんどありません。 本来なら、多少大人の考えを持ってアメリカ自身が融和外交や100%の成果を求めない行動をするべきですが、国家としての若さと国の成り立ちと経緯から独善的行動しかとれません。 分裂時代の南部連合なら英仏が友好国ですが、近隣での対立や日本との政治的対立などもあって第一次世界大戦に参戦しなかったため英仏からも見限られています。すべての国が、余計な経済力と工業力を持ったアメリカをモンロー主義とやらの孤立外交のまま引きこもっていてくれれば良いぐらいにしか考えていません。何にせよ、アメリカの巨大な工業力は、世界の他の列強にとって邪魔でしかないのです。 しかし、巨大な産業、経済こそがアメリカの孤立を国内事情で許してくれません。 全世界の3割の生産力を捌くためには、豊かになった筈の国内市場だけでは足りません。どうしても大人口を要する市場が必要です。 そしてアメリカの都合に合致する場所は、残るは中華地域だけ。しかしここもイギリス、日本などが牛耳っており、もはや入り込む隙間はなし。だいいち中国自身がアイデンティティーを上昇させつつあり、商品を強引に売りつける一方的な市場として相応しくなくなりつつあります。 本来なら、対列強融和外交以外に打つ手なしでしょう。 しかしアメリカには、独善的に外交を進められる突破口があります。大債権国だという点です。 大戦で発行された欧州列強の債権の半分は、アメリカの手にあります(もう半分は日本)。圧倒的生産力、金融力を元手に国内経済を発展させ、国際社会でデカイ面する事は十分可能です。我が儘な経済大国として列強の不興を買うでしょうが、図体がデカイ故に損得勘定から手を結ぶ国は出てくるし、誰かが邪魔をしても自国の存続と発展がかかっている以上アメリカも譲るわけにはいきません。 そして国際経済の力関係から国際金融をイギリス、日本と共に牽引するようになると、戦後低迷する欧州諸国の幾つかもアメリカを頼らざるを得なくなるります。特に日英が気に入らない国では顕著です。 主にアメリカ経済を頼る国はフランス、イタリア、ソ連など日英から相手にされにくい国、もしくは日英から一歩離れたい国々です。 そして、第一次世界大戦→大戦景気→債券購入→戦後不況→国際的な対米依存の高まり→国内好況→株式バブルと連鎖的に発生する可能性は十分あります。違うのは規模ぐらいでしょう。 同様の事は、大きく発展した日本帝国でも起きる可能性がありますが、日本には国内開発すべき多くの場所を与え、関東大震災の復興と国内インフラの近代化にかまけさせ、さらに大恐慌前に史実同様に金融危機を訪れさせることで経済、金融の増長を最小限にさせておきました。 そして互いに大きく台頭した筈の日本が一見躓いているように見えれば、さらにアメリカが増長する可能性は高くなり、その挙げ句に大恐慌が待っているのも必然でしょう。1927年の日本の金融恐慌は、アメリカの経済バブルの最後の引き金を引く劇薬になるに違いありません。 そして大恐慌は史実同様にニューヨーク、ウォール街を震源にして発生し、世界は闇に向かっていきます。 後の多くは、史実に対するオマージュを今まで組み上げた世界情勢に組み込んでいっただけです。 日本、イギリス、ドイツの三国枢軸、フランス、イタリア、ソ連の三国協商、そして協商寄りながら勝手気ままなアメリカ、日本列島の影響で中規模な国家に育ってしまった諸々の国々。 それらが適度な熱心さでゲームをした結果が、結局中途半端に終わる第二次世界大戦です。 中途半端に終わったのは、大きく二つの勢力の総合体力が似たようなレベルなのと、負けた側の大国二つを殲滅するには極めて難しい国土と位置にあるからです。しかも二つの大国は、真面目に総力戦をしていません。 おかげで、途中から回れ右したイタリア以外の多くの国々の問題は先送りされるか、より悪化します。 フランスに至っては、枢軸に降伏したフランス本国と、跳ねっ返りによりアメリカの傀儡となった勢力に分裂します。 ロシア(ソ連)も、中途半端な戦争をしかけて中途半端に負けているので、革命時から続いている民族分断状態に拍車がかかってしまい、問題を悪化もしくは表面化させてしまいます。 そしてアメリカは、一方的理由で仕掛けた戦争で待ちかまえていた日本に完膚無きまでに出鼻を挫かれ、敗戦の反動で北米大陸で数百年かけて育ってきた民族問題が派手に燃え上がってしまいます。
要するに第二次世界大戦は、勝ち組、伝統的勢力、持てる列強といった連中が自分たちが足場を固め直す場であり、彼らに突っかかった国々が問題を噴出させただけに過ぎません。 だから、各所で激烈な「戦闘」はしていますが、本当の意味での総力戦、「戦争」をしている国はほとんどありません。史実との一番の違いは、どの国も根こそぎ動員を行っていない点です。ついでに、だれも戦略爆撃していません。だから、みんな中途半端に体力を残しています。欧州諸国など無制限通商破壊戦も行っていません。国によっては、準備体操しただけ、と言える国もあるほどです。そして実のところ、一番第二次世界大戦を真面目に戦争しているのが日本という事になります。何しろ、米ソ二つの大国と限定的とは言え、数百万人単位の動員を行う戦争を行っています。 そして、誰もが余力を残しているので、見た目に頼りがいのある戦略兵器である巨大戦艦なんかを浮かべて安堵しています。(ここまで状況を持ってくるのに苦労した(笑)) そして、問題が噴き出し体力が余っている以上、次なる戦争のステージは今まで以上の規模で用意されてしまい、誰もが舞台に上がらざるを得なくなります。
なお、もしこの世界の第二次世界大戦で勝者を求めるのなら、独裁者を追い払い、世界の主流経済に入り込んむ事に成功したイタリア民衆でしょう。 何しろ、この世界の「一つの指輪」たるイデオロギー対立を噴出させた者こそが、苦労の末に元の生活を取り戻すのは物語上でのお約束です(笑)