第二節 各王家の特徴

 名前の由来についてはこれぐらいにして、次は現在ではあまり意味をなさなくなっていますが、17世紀頃の各王家の特徴について見ていきましょう。

・レプンクル家(シベリア・トナカイを紋章としている)
クイエ島に基盤を持つ王家。環オホーツク移民による膨大な金山の一部保有とアムール川交易で莫大な富みを築き上げる。また、建国時にギリヤーク族を併呑している。そして地理的要因から北海道(シベリア)移民に最も熱心でもある。アムール川流域問題から最も反中国的。

・チウプカンクル家(白熊を紋章としている)
チウプカ列島、コリャク半島を中心とした地域に勢力を持つ王家。漁業と狩猟が盛んで、それらの特産品で財を築いていた。また、北海道移民の先駆けともなっている。17世紀にはアレウト海を中心として最も大きな勢力圏を持つようになる。

・シュムンクル家(モショリ・トナカイを紋章としている)
イッカリ平野を中心とする肥沃な大地に持つ王家。首邑のオタルナイは農作物の供給の中心地として、またモショリの中心にある地理的条件を利用してモショリ域内の交易の中心地として発展した。
王家自体は交易や移民などには保守的な考えを持つ。

・メシナウンクル家(鯱を紋章としている)
コンセン大地と中心とした地域に勢力を持つ王家。首邑のクスリには早くから大きな港が開かれ、レプンモショリやアメリカ大陸への交易、移民を率先して行っていた。交易一族として良く知られている。現在でも非常に豊かな王家の一つ。大規模な遠洋捕鯨を行っていた事で知られる。この影響か海軍の出身者が多数この王家とその領域内から輩出されている。

・ホレバシュンクル家(縞梟を紋章としている)
アイヌ国の首邑のウソリケシを領土内に持ち、ムロランを中心とした地域に勢力を持つ王家。地理的要因と政治的要因からエミシュンクル王家との繋がりが強く、南方交易にも熱心。また、早くから手工業の発展に力を入れており、ムロラン産業、北海重工などが現在でも本社を置いている。

・メシナシュンクル家(羆を紋章としている)
トカチ平野を中心とした地域に勢力を持つ王家。カムイアイヌの擁護者としても知られ、このため保守的な考え方をしている。このため王家には多数の巫子(女)を輩出している。また、農業開発にも熱心。良馬の産地としても知られる。17世紀には祭祀を司る王家としての扱いを受けるようになる。

・ウショロンクル家(ウタリ狐を紋章としている)
ナヨロに首邑を持ち、モショリ北部地方全域に勢力を持つ王家。土地と近海があまり豊かとは言えないので、海外移民と開発に熱心に取り組む。このため、レプンモショリ家と共に北海道開発に専念し、一時期この地方出身の貴族が最も多くなった事もあった。今でもこの王家の名を持つ貴族が多数北海道にいる。

・エミシュンクル家(日本狼を紋章としている)
近代アイヌ発祥の地である本州島北部一帯に勢力を持つ王家。日本との対立が解消するまで国から強大な軍事力を預けられていた。また製鉄などの先進産業の担い手でもあり、国最大の穀倉地帯でもある。それら全ての要因もあり国最大の勢力を誇っていた。しかし、元がどちらかと言えばただの利益集団であったため、権力にはあまり興味ない。また、キタカミヌプリは良馬の産地としても知られる。

以上がだいたいの16世紀から17世紀の各王家の特徴です。軍隊の事について殆ど触れていませんが、これは海軍の全てが国王の所有物とされている事と、陸軍の主力が日本との国境線か海外にいた事から紹介しませんでした。本来各陸軍は、国王直属の軍以外は各王家が所有します(維持資金は国から、他は各王家の責任となる。)。
 また、各王家は制度上では、その地域を統治するという事にされていますが、これは対外的に対してそうする必要があったからそうされているだけで、地域政治的な権力こそ与えられていますが、実際直接統治している地域は天爵とそう変わらない程度の領地しか持ちません。
 基本的にアイヌの制度では、各王家は地域よりも国家を運営するための組織であり、各王家は通常はそれぞれの地域を統治する代官や管領のような立場にあるが、次期国王を選出する為に日々政治的、軍事的鍛錬に努めています。
 つまりアイヌの根元八王家は、支配者でなく政治的統治者としての役割を国家から与えられているだけで、『家業』として王様という名の国と地方の統治者をしているだけなのです。
 実質的に土地を管理するのは高位の貴族に委ねられています。この辺りの棲み分けの明確さもアイヌの職業意識に起因するのでしょう。


第一節 王家の名前   第三節 国王とその制度