第三節 国王とその制度

 前節では各王家について見てきましたが、それでは国を統治する『アイヌ王』はどういったものだったのか? これを少し見ていきます。
 『太陽帝国概論』で既に述べられていますが、アイヌ王は他の国々とは少し違った形の絶対君主です。と言うより、国権と軍隊を全て託されるべく選抜された世襲による一種の『独裁者』と言っていいでしょう。
 強大な政治的権力と、王の政策を実現するべく組織された強固で清廉で職業意識の高い官僚組織、選抜された優秀な元帥という名を持った大臣達、そして亜細亜史上最強の海軍力。これら全てを国民全てと国家から託されるべくに選ばれた者、言うなれば世襲制の総統や大統領的な存在がアイヌ王です。特にチコモタイン王朝のアイヌ国は、国王というよりはむしろ『皇帝』と言ったしっくりくるかも知れません。
 国王は、各王室から血統的な優先順位でなく最も優れた者を様々な選抜試験を経て選出されます。アイヌが金権政治など裏工作を嫌う体質を反映し単なる血統順位や王家や貴族の勢力による選王会議など開かず、各王家それぞれ最も優れた者を送り出し様々な選抜が行われ、国王の崩御と共にその中の一人が新たな国王として選ばれます。また国王を選出するとその時のその他の皇太子(候補)は直ちに王位継承権を失い、さらに王を輩出した王家は次の王を出す権利を失う制度を持ち権力闘争問題も最小限にされていました。これらの権力の安全装置もアイヌ王の絶対性を支える事となります。この制度を見ても分かると思いますが、アイヌは技術や職業としての王権には賛同しても単なる血統と宮廷力学の世襲による王政と言うものにかなりの不審を抱いていた事が伺われます。これは国を作り上げた集団が、元々様々な地域から落ち延びた者達であった事が影響していると言われます。王制が施行されていたのは、それに変わりうる制度を見いだせなかったからです。その制度の中には共和制度も含まれていましたが、既に他民族と周辺地域への膨張を開始していたので、それが選択される事はありませんでした。
 また、新国王の選抜後は、ただちに王を出した王家以外の八王家から新たな皇太子(女)が複数選出され、ただちに次期国王としての選抜が開始されます。そして、次の国王が選出される時に備えます。最終的には元帥達が選ぶと言っても、皇太子(女)として選ばれた瞬間から、次期国王としての選抜が開始されます。この間に不適格と判断された皇太子(女)はその地位を剥奪され、代わりの者がその王家の中から新たに選出されます。これは特に政治的汚職を行った場合に厳しく規定されていました。
 ちなみに、この制度が具体化されてからは軍は国王が形式的に指揮するが、実質的な司令官にはその時の皇太子(女)達が立つ事とされました。もちろん、指揮する段階で高い階級にあるのが大前提です。このため皇太子(女)は皇太子(女)として選ばれると否応なく軍に入ることを義務づけられていました。
 また、アイヌ王となったものは、基本的に政治的な全ての裁量権を持ちますが、元帥、官僚を任命、罷免する事はできませんでした。元帥は様々な分野出身者から推薦、スカウトされ、他の元帥の半数以上の賛成により任命、同様に罷免されます。また自分から引退を表明しないか、10年の任期満了で再選出されない限り引退するまで元帥としての役を果たす義務を持ちます。官僚は選抜試験と元帥の推薦の二つの方法で選出されます。貴族は全くこれに意見を述べることは出来ません。意見を述べたければ、自らのその分野での優秀さを見せ、元帥か官僚になるしかありませんでした。これにより国の頭脳と肉体が完全に分け、内部腐敗を可能な限り排除していました。
 ですが国王は、元帥や官僚を選ぶ権利はありませんが、自分のブレーンとなる者を選ぶ事が出来ました。彼らは『参議』と呼ばれ、現代の補佐官のような立場にあり国王の私的ブレーンとしての役割を負います。この『参議』に選ばれる基準は、全く国王個人の裁量に任されまれ、『参議』に指名される事は、政治を家業と認識している全てのアイヌにとって最も名誉な事となっていました。ですが『参議』は、王の崩御と共に自動的に解任され、次の王が特に請わない限り(かなり厳しい制度がある)、『参議』となる事は二度とできませんでした。
 ちなみに、アイヌでの権力の序列ですが、当然国王が第一の序列となりますが、国王崩御や病などによる政務不能の事態が発生した時は、元帥府(元帥達による集まり)の判断で権力の委譲が行われます。
 これは、アイヌでは国王が世襲ながら政治システムとして存在している事の現れと言えるでしょう。ちなみに権力序列は、国王=(皇太子)=元帥府首長=惣官(官僚代表)となります。皇太子はあくまで国王が崩御するまでその政治的権力を行使する事はできませんでした。ただ、軍の指揮権を代行する事だけ相応しい地位の者が認められていました。


第二節 各王家の特徴  第四節 貴族