第六節 王国の政治制度

 アイヌは国の成り立ちは少し特殊です。それは根幹となった組織が民族や国家でなく清廉な軍事組織を持った『集団』に過ぎなかったからです。これからは、その制度的な面に少し重点をおいて見ていきましょう。
 アイヌ国の最高権力者は勿論『国王』です。ですが、八王家やそれ以下の貴族には中央への政治的な権力は与えられていません。また、不用意に政治に介入すると厳罰に処されました。これは通常でしたら地方の反乱へと容易に発展するのですが、全ての貴族が自分たちの立場(地方領主)を一応了承していた事と、国王に非常に大きな軍事力が与えられていた事から大きな内乱などに発展することは一度もありませんでした。ですが、アイヌの各王族、貴族のモラルの高さがこれを助けた事は疑いないでしょう。
 また、アイヌと言う国が17世紀に入るまで殆ど一つのゆりかごのなかから誕生したという点もこの少し特殊な政治制度を助けたのは間違いないでしょう。
 では、だれが国王を補佐するのか、誰がそれを事務レベルで実行するのか。これが欧州なら大臣や役人が補佐する事となりますが、アイヌでは少ない国力(少なくともどの時代のアイヌはそう信じていた)を効率的に運用するために、当時として少し変わった制度が施行されました。
 まず国王を直接的に支援するのが『参議』。彼らは、国王のブレーンとして国王の補佐を行います。もちろん最終的な決断は全て国王が行いますが、ここで、国の政策の大元が決定する事となります。これが、『ライン』になります。
 そしてそれを実現する『スタッフ』が元帥(ケンシ)と官僚です。アイヌでは元帥とは大臣の事であり、それぞれの組織の長となり、国王が決定した政策を実務レベルで指揮する立場にあります。これは官僚がなる事は出来ず、優れた貴族のみがなれる役職でした(ここに唯一貴族が中央政治に入り込む余地がありました)。また、官僚はアイヌでは『官(カヌ)』と呼ばれます。官僚は他でも説明されていると思いますが、中国の科挙同様の厳しい選抜試験によって選ばれた者と、在野の優秀な商人や職人、または軍人などを官僚組織と元帥がスカウト、審査して採用する二種類あります。二種類の違った官僚をうまく配分する事で少しでも他の国(特に中国)が陥った官僚腐敗を防ごうとして整備された制度です。また、この官僚組織はそれぞれ『サーヴィス』機能も持っており、それぞれを監視、監督する機能も持たされていました。二種類の官僚の比率は、試験で任官される官僚の方が2対1と多くなります。ですが、元々アイヌは職業意識が高いこともあり、この制度を取り入れる事がなくても横領、汚職といった事件は少なく、ライン・スタッフ・サーヴィスの対立も非常に少なかったという記録が残っています。これは現在でも当てはまる事です。ですが、職業意識の高さからくる縄張り意識の深さは今も昔も変わず、この縄張り意識による国費の無駄遣いが後々一時期国を誤った方向に導き、革命へと発展する事となります。
 では地方はどうでしょうか? これは比較的簡単で、国王と貴族をつなげた可能な限り簡単な郡県制が施行されました。なるべく単純化することでシステムとしてスムーズに働くよう作られたのです。ただし、徴税の為に税吏と行政監督を行う官が中央から派遣されていました。この制度により、各王家と貴族は地方領主として安定した領土を約束されると同時に、国益に反しない限りでありますが政治的地位を得て、その統治の代償としていくつかの特権と富を享受する事ができました。
 また、下記の図では示しませんが、海外領土の多くの統治も飛び地として各王家に委ねられていました。これは、当然海外の貴族の権力増大を阻止するためのもので、今でも北海道を初めとする海外の影響圏ではその名残があります。
 では、最後に以上を元に少し下に図のような形として整理します。
 

国王−中央行政+−−参議
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 |      +−−元帥−−官僚
地方行政
 +−−−−+−−−−+−−−・・・
 |     |     |
各王家  各王家  各王家  (群)
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 +−−−−+−−−−+−−−・・・
 |     |     |
各貴族  各貴族  各貴族  (県)
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 +−−−−+−−−−+−−−・・・
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各市町村 各市町村 各市町村 


第五節 士族と衆民  第七節 アイヌ人の宗教