第十一節 産業革命

 革命による様々な施策によりアイヌ勢力圏の経済は活性化し、産業はさらなる発展を見せ、国は内面的に大きく発展します。そして、その革命を象徴するかのように経済、産業においても大きな変化が訪れようとしていました。
 それは、重商主義により発展していた工場制手工業の機械化、蒸気を動力として利用した機械の発明。そう「産業革命」が始まったことです。
 この当時既に欧州、特にイギリスでは既に始まっていた産業革命でしたが、アイヌでのそれは欧州のものとは全く独立した形でスタートします。
 産業革命そのものは、イギリスに続く1750年頃に始まりましたが、そのスピードはゆっくりしたものでした。これは、ひとつには欧州各国のような競争相手がアイヌよりやや産業基盤の遅れた豊臣王朝各国ぐらいしかなかった事と、もうひとつは、ここでもアイヌの職人気質的な精神風土が顔を出し、非常に凝った形で色々な発明が独自におこなわれたからでした。このため、時折革新的な発明が出現する事もありましたが、あまりマスプロ的な発明や開発にならなかった事がさらなるスピードの鈍化をもたらします。
 しかし、産業革命そのものがストップする事はなく、国内の工場制手工業の発展などに後押しされる形で、1809年には実用的な蒸気機関が開発され、他国と同様まず紡績工業へと活用されるようになります。イギリスに遅れること半世紀の産業革命の達成でした。それはさらに1830年代から始まった日本の急速な近代化政策に影響され加速し、欧州との接触もありその速度をさらに上げ鐵鋼、造船などの分野へと波及し、1843年にはアジア初の外洋蒸気船の建造へとつながっていきます。

 アイヌの産業革命は、イギリスのそれとほぼ同じ形で起こり発展しました。
 その原動力となったのは、モショリ本土とクイエ島にある炭坑、大東洋各地から集積する各種工業原料と、それまでに蓄積されていた膨大な資本力、それを支えている強大な商船団と海軍、そしてなにより、農業の近代化により発生した多数の工場労働者と、工場の発達により力と発言力を持つようになった都市部市民、いわゆる「中産階級」などの労働力でした。
 それらに後押しされる形で、近代的な製鉄方法の開発や綿工業など軽工業の機械化などの技術革命が起こり、それらを後押しすべく蒸気機関が発明され、さらに蒸気による交通機関(蒸気機関車、蒸気船)と続いていきました。
 ですが、イギリスなどと違っていたのは、植民地からの搾取による社会資本整備の為の予算の創出と、植民地の市場化があまりなかったことです。これは、イギリスなどに対して大きなハンデとなりましたが、アイヌは持ち前の職人気質をもって地道な経済活動により資本の獲得を達成し、市場については広大な自国領土と日系国家全てをその市場とする事で補われました。また、当時大和大陸(現オーストラリア)の大開拓がアイヌ市場を大いに助けることとなりました。さらにその後は豊臣王朝、日本帝国各国との相互貿易によりさらに規模を大きくして発展していき、欧米列強との競争に十分対抗できる工業立国として19世紀半ばに発展する事となります。
 それ以外にも、近隣特に今まで半ば無視していた清朝政府に対して門戸開放を要求しましたが、折からの北海道を巡る対立もあり交易拡大の交渉はうまくいきませんでした。その事もあり、大英帝国がアヘン戦争を起こした時は、明に暗にこれを支援しその利権に食いつきます。

 その後、アイヌは順調な産業の近代化を推進し、他の日系国家と共に資本主義社会を成立させますが、市場規模の小ささ、競争相手の少なさなどから、その速度はやはり欧米各国に比べて少し遅れるものとなりました。
 しかし、ただ一点だけ欧米よりも早く発展した者があります。それは労働者を保護する各種法令が、問題が噴出するよりも早くアイヌ本国で施行され、それが日系各国へと波及したことです。
 これは、アイヌが伝統的に職業分化を重視した社会構造をしていた事が影響しています。
 労働者は自分たちの権利を早くから主張し、それを聞いた官僚団が新たに誕生しつつあった資本家階級が横やりを入れる前にそれらを入念に調査し、早々に法案として議会に提出、法案化してしまいます。まさに、上から下まで仕事熱心を信条とする、いかにもアイヌ人らしいと言える早業と言えるでしょう。
 また、もう一つの特徴として、これは主にアイヌ国とその影響にある日系国家だけでしたが、独自の自然感により、早々に公害防止に関する様々な法案が作られ、世界で最も早く環境に対する政策が施行された事があげられます。これに関しては、この各種法律が産業革命の推進を阻害したという意見もありますが、特に地球環境に関して関心が持たれるようになった現代においては、高い評価を得ており、現在においてもアイヌ王国やニタインクル公国は、世界の環境保全をリードする存在として認知されている事は皆さんよくご存じと思います。


第十節 宮廷革命   第十二節 新大陸動乱