■解説もしくは補修授業「其の伍の壱」

 さて、こちらでは布哇作戦を選択した場合をもう少し見てみましょう。
 米海軍の正面戦力が完全に枯渇しているこの時期、日本海軍にとっては千載一遇の好機に見えます。しかし、果たして日本軍に布哇攻略は可能でしょうか?
 少しだけ数字を見て見ましょう。
 まずは正面戦力ですが、日本海軍は修理と再編成の完了する一九四二年十月ぐらいには、南雲の六隻の空母部隊の他に数隻の軽空母を含めて、約十隻の航空母艦と約五五〇機の艦載機、約一〇〇〜一五〇機の基地機が投入可能です。戦艦《大和》を中心とする十一隻の戦艦を投入できます。場合によっては《武蔵》乱入もオーケーでしょう。実際今回の想定では、《武蔵》を含めた最大戦力を用意してみました。
 一方アメリカ軍は、ここでの想定を加味したソロモンの状況から判断すると、母艦数は二隻と少なく戦艦は新鋭戦艦三隻を含めないと半ダース程度と、聯合艦隊に対して著しく劣勢です。ただし基地航空隊は、形振り構わず布哇に集中すれば五〇〇機程度の集中は可能であり、ごく普通に考えても三〇〇機程度は揃えられるでしょう。
 つまり基地部隊を含めると、航空戦力は数の上では互角に近くなります。
 また、この時期日本が布哇攻略船団を運ぶだけの船舶を用意できるかが鍵になります。
 第一派に三個師団程度が必要と考えると、一気に運ぶには約一〇〇隻の船団を揃えなくてはなりません。これは、東南アジア攻略で使用した大船団の多くを再び集める必要がありますが、数字の上では「何とか可能」となります。
 ただ、恒常的な補給態勢を考えると、これらの船舶の多くが布哇方面にずっと拘束される事を意味しています。長期的に日本がこの負担に耐えられるかというと、難しいだろうとしか答える事ができません。
 というか、ごく普通に考えれば、ぶっちゃけ無理です。戦争が一九四二年内に終了するという根拠のない前提でもない限り、まともに占領維持はできなという答えしか見えてきません。なにしろハワイには、現地住民だけで四〇万人もいます。日本軍がハワイ諸島を握ったりしたら、ハワイ諸島全体が「餓島」となるでしょう。

 さて、戦闘そのものは、聯合艦隊の大活躍と幸運に見舞われ、日本海海戦並のパーフェクトゲームが布哇近海で行われたとしましょう。当然ですが、米艦隊全滅、お味方大勝利となって、布哇守備隊も零戦と《大和》と帝国陸軍の大活躍で粉砕され、攻略されたと仮定しましょう。
 まあ、戦力差から日本軍が布哇を攻略できる可能性は、ひいき目に見ても半々と言ったところですが、海戦そのものは南雲艦隊が先制にさえ成功すれば米太平洋艦隊に勝ち目はないでしょうし、幸運の女神様が味方についているのですから、ここでの異論はない事として反論はスルーします。
 さて、一九四二年十一月頃には布哇全域は日本軍の軍門に下り、日本海軍を撃滅すべき太平洋艦隊は、それこそ水く屍となっています。再建には、如何なアメリカ様と言えど、何とか立ち直るには最低半年はかかるほどの大ダメージです。日本に対する反撃や侵攻まで考えれば二年は回復にかかるでしょう。
 という大前提で、アメリカは日本との停戦に傾くでしょうか? また、ドイツが日米単独停戦に何も言ってこないでしょうか?

 ごく普通に考えれば、単独停戦はないでしょう。
 ハワイ諸島が陥落し、西海岸が聯合艦隊に焼き払われる事は、確かに大きなダメージになるでしょう。しかし、アメリカが停戦に同意するには説得力として不足します。日本で言えば、北海道あたりが少し攻撃を受けたようなもんです。中途半端に都市が破壊されたりしたら、かえって怒り狂うだけです。日本列島を更地にかえるまで、戦争を続けることでしょう。
 また、枢軸国全てを含めた日米停戦でなければ、アメリカに宣戦布告しているドイツがこれを受け入れる事は到底あり得ません。ついでに、日本の国際的信義も損なわれてしまいます。
 まあ、不意打ち上等のナチのブタ野郎なんて別にどうなってもいいじゃねえか、という方もいるでしょう。布哇攻略が完了した以上、日米停戦は架空戦記界ではお約束なんだから、これで手打ちでいいじゃん、と思われる方も多いことでしょう。
 だいいち、ここで日米停戦して支那からも撤兵しないと日本が破産しちまうよ、と考える方も多い筈です。何しろ全ての意味において、ここで「勝負で勝って戦で負けて」おかないと、大日本帝国そのものに明るい未来はありませんからね。
 また、日米停戦の可能性として、ハワイ占領を単なる政治的ショックとして、これを契機としてアメリカが日本との一時的な休戦に同意し、その他の連合国もならってもらい、その対案として日本には三国軍事同盟を破棄させという筋道は如何でしょうか。
 これならアメリカ様も納得しそうです。
 これにより、全連合国軍の戦力はナチス打倒に向かい、日本はその間支那での泥沼の内戦をネチネチと続け、ナチを叩きつぶした後に日本にもう一度脅しをかけて支那から撤兵させ市場を開放させれば、アメリカ側としては安上がりに日本を屈服できる筈です。
 反対に、日本は日支事変と短期間の太平洋戦争でさらに財政が悪化し、ナチをぶち倒した全連合国軍相手の戦争など思いもよりません。臥薪嘗胆をもう一度せざるを得なくなってます。まあ、神州不滅とかのたまう野郎も多々いますが、史実以上に必敗確実な戦争に乗り出したりしないでしょう。

 とまあ、考え出したらキリがないので、ここではごくありきたりに、日本海軍の大活躍で米太平洋艦隊は全滅し布哇諸島も陥落。大敗北に衝撃を受けた合衆国国民の突き上げを食らったルーズベルト大統領は辞任を余儀なくされ、年内に日米停戦が実現し、以後半年ほどの講和会議を経た後、何とか落ち着きを取り戻す、としておきましょう。
 もっとも、この後を普通に考えたら、失地挽回を行うアメリカの行動によって、ナチスドイツの滅亡も確定したようなもんですから、日本に与えられた穏便な未来は、日本が意固地にならない限り、結局のところ英米主導の社会での共産主義に対する極東防衛、という史実とあんまり変わりない世界なんでしょうけどね。
 でないとアメ公ともう一度戦争になって、今度は間違いなく滅ぼされてしまう事でしょう。日本に都合のいいお話なんて、それこそお話の中でしか無理なんですよね。

 アメリカって、ファンタジーが通用しないから嫌いです(笑)

GOOD END 1

 

 

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■フェイズ〇五-3「第一次ソロモン海戦」