GENOCIDER ANGEL
ラビが砂地の中の手に触れた途端、それは逆にラビの手をつかみ
砂中に引きずり込んだ。声を出す間もなく砂煙と共に姿が消えた。
『ラビ―――――ッ!』
敵が潜んでいる気配に二人はとっさに身構えた。
と、その瞬間、まるで爆発でも起こしたような閃光が二人の前にほとばしった。
『なっ、何が一体!?』
ジャネリンが砂埃の中に目を凝らすと眼前に人影がよぎった。
『しまった……!』
身構えた時にはすでにジャネリンの胸を手刀が貫いていた。
『き……貴様は……?リリスか!』
『そうよ。あなた達は今の世に生まれてはならない者だったのよ。
あきらめて私の中にお帰り……。』
『なっ?何っ?それは一体どう言う事……。』
ジャネリンの言葉が終わらないうちにリリスの手からほとばしった強い光が
全身を貫くと、彼女の体はまるで穴の空いた風船のように
あっと言う間にしぼんで行き、そして塵となって四散した。
驚愕するエリスの前にラビとジャネリンの軍服の残骸が風に舞った。
『何だ、今のは?まるで……まるで体を吸い取ったような……?』
呆然自失のエリスが我にかえり身構えた時、
リリスは丘の上に集う一番隊の戦士を見つけて後へ飛びのいた。
『なめられたものだな……いや、余程の自信があるのか……。』
『ゲリラのように不意打ちならともかく……力がやや劣るとは言え
我ら五人をまとめて相手できる、とでも言うのか?』
一番隊副長アーリィと補佐官のミリアが揃ってせせら笑った。
後で五番隊の発した〈ビイ〉を持っているのが隊長のエルだろう。
体勢を立て直したエリスも加わり、数の上では優位に立った五人の戦士は
ゆっくりとリリスを包囲していく。
他の隊の戦士達より比較的戦闘力の低い彼女達の最も有効な攻撃は
特攻のごとき一斉突撃なのである。
と言うのも、たとえばバイオアーマーがエネルギー波を発射しても
一度に攻撃できる相手はどうやっても一人でしかないはずだから、
その間に残った者が攻撃をすればいい訳だ。
やられた者はみんなの攻撃中に自力で傷を治す。
その作戦は最初から打ち合わせたように全員が考えていた。
じわじわと距離がつまり、合図のように隊長のエルが叫んだ。
『疾風の一番隊、参る!』
声と同時に一番隊は一斉にリリスにとびかかっていった。
が、しかし次の瞬間、リリスは信じられない事をやって見せた。
一瞬身を沈めた彼女は胸の前で両腕を交差させると
エネルギー波をすべての指から発射して見せたのだ!それも、
普通のアーマー達が腕から発射するのにも匹敵するほどの威力を持って……。
とびかかった隊員達は一様に胸や腹を撃ち抜かれ、その場に倒れた。
『くっ……これしきの事で……。』
立ち上がろうとする副長アーリィの頭が次の瞬間ふっとんでいた。
『アーリィ!』
『すべての指からエネルギー波……?そしてとどめの一発とは!』
負傷した体を起こしながらも隊員達は一様に驚きを隠せない。
だが、彼女達が傷付いた体を修復するよりも早くリリスの第二波が
情け容赦無く襲いかかって来た。
エリスが、そしてロージィさえも瞬時に体の半分を削り取られていた。
『き……貴様は一体、何物だ!?』
自らも腹部に重傷を負いながら隊長・エルをかばうように
リリスの前に立ちはだかる補佐官ミリア。
しかし彼女はその答を聞く前にリリスに胸を貫かれて絶命した。
『代わって答を聞くがいい、エル。私は、あなた達……。』
『……………………?』
意味が分からない。しかしそれでもなお戦う事をやめようとしない
エルの首を力まかせに押えつけてリリスは続けた。
『教えてあげる、あなた達はね……私の子供……みたいな者よ。
でもね、子供がおいたしたら親としては責任がある、と言う訳なのね。』
『おっ、お前はまさか−−−−−?』
『生まれてきたのが過ちだった……今度は人間に生まれなさい。』
目を細めたリリスはそうつぶやきながらエネルギー波を発射した。
しかしよく見るとエルの体は大半がリリスの体の中に霧状のままで吸収されて行く。
その後彼女はまだ生きていたアーリィやエリスの体も吸収して行った。
これで一番隊は三番隊に続いて全滅した。
二つ目の部隊を殲滅したリリスの体内から、青白いエネルギー波が
まるでオーラのようにほとばしっている。
彼女は、間違いなく何度目かのパワーアップを果した。
同じ頃、中央政府〈シティ〉の神官室の会議室では今回の事件に対する
会議が行われていた。中央席に白い仮面と虚飾な服装をした
「大神官」と呼ばれるシティのナンバー2・法王が座っている。
シティを統括する「皇帝」は誰も見た事が無いとまで言われている。
法王の両隣に神官が二名ずつ座っている。
右側にモール、グラック、そして左にアルカード、プロメウス。
そう、ゲリラ側のリーダーのプロメウスが何故かこの場にいるのだった。
最も、他のメンバーがそれを知っているとはとうてい思えなかったが。
あともう一人、ブラスコフと言う神官がいるのだが、病気のためにこの場にはいない。各神官はバイオアーマー各隊の責任者だ。
『既に我々は三番隊を失った。それも、聞けばたった一人の相手にやられたとか……。奴は、一体何物なのだ?』
少々いらつきぎみにアルカードが吐き捨てた。
『我が五番隊は一度敵に遭遇している。それでわかったのだが奴はバイオアーマーだ。それも、各隊長に匹敵する能力を持っている。』
言葉を選ぶように、グラックが訴えた。全員の目が大神官に向いた。
仮面の下の目がゆっくりと開き、トーンの高い声が室内に響いた。
どうやら「大神官」は女性らしかった。
『確かにバイオアーマーは私がおまえ達に与えたものだ。
しかし、この研究所以外で作られたという話は聞いていないし、
我々以外にこれができるものがいるとも思えない。……間違いではないのか?』
『残念ながら大神官、間違いではありません。いや、それどころか
能力的には我々のバイオアーマーよりも数段上なのです。
奴にはバイオアーマーの常識は通用しません。まさしく怪物です。』
大神官とグラックの会話に一同は息を飲んだ。
その時、大神官の手元のモニターが呼出音を鳴らした。
緊急扱いの赤ランプがついていた。何かあったようだ。
『諸君、たいへん残念な報告だ。コロニー・ラゴラ付近で
一番隊が潰滅したそうだ。敵はそのまま姿を消したらしい。』
一同がざわめきたった。三番隊に続いて一番隊までも?
『何という事だ!我々にはなす術が無いのか?』
『ブラスコフの奴……気落ちするだろうなぁ……。
エル達の事を、すごく大事にしていたものなあ。』
ぽつりとつぶやいたプロメウスの言葉に大神官が答えた。
『……その心配は無い。ブラスコフも先程息を引き取ったそうだ。』
沈黙と共に、重苦しい空気が静かに部屋の中に広がって行った。
やがて、ゆっくりとした口調でモールが全員に問い掛けた。
『……それにしても、行動が読まれすぎていないか?
ラゴラ付近でゲリラを鎮圧したのはいつもの事とは言え、
偶然に止まったはずのあの地点で待ち伏せされた事や、
極秘裏に出動した一番隊がまるで待っていたかのように
奴にしてやられている事と言い……。』
『待てよ、モール。それでは我々の組織の中に
ゲリラと通じている者がいるとでも言うつもりか?』
『まあ、怒るなグラック。一つの可能性だ。しかし、
仮に裏切者がいるとしたら……それはこの中にいる事になる訳だ。どうだ?』
『それがお前、と言う可能性もあるんだが?』
『何だと!?』
『よさんか!』
いらだちから険悪な空気が漂い出した時に大神官が全員を一喝した。
『仲間内で争ってどうする?それこそ、奴の思うツボだ!』
五人の神官はそれぞれに自分の席に戻った。
『とりあえず……事実だけを見るのだ。信じたくはないが
相手は屈強のバイオアーマーだ。そして我々は二つの部隊を失った。
だが、まだ三つの部隊が残っている。これをどう使う?』
大神官の問い掛けにモールが答えた。
『一度……一度だけやらせてもらえませんか?一人ずつでだめなら
全員でかかってでも。』
『……いいだろう。それでだめなら残りすべてのバイオアーマーを
大至急シティに呼び戻せ。奴を……ここで迎え撃つ!』
モールを先頭に全員がそれぞれの部署へ戻った後、
大神官は窓辺でシティの城壁を囲む荒涼とした大地を見ていた。
時折吹きすさぶ砂嵐を見据えながら誰かに語るようにつぶやいた。
『誰なのだ、リリスとは……。リリス……?どこかで聞いたような気がする。
何者が、何の目的で奴を…………?』
同じ頃、リリスはいつもの入口からゲリラの基地へ帰還していた。
無事を喜ぶアッシュの肩を軽くたたいて彼女はこうつぶやいた。
『あと三つ、21人。もうすぐ、もうすぐなのよ……。』
復讐のために生きるだけのリリスの姿に、アッシュの心は違和感を拭えなかった。
果して、このままでいいのだろうか…………と。