GENOCIDER ANGEL

荒廃した大地にそびえ立つシティの彼方に赤茶けた太陽が静かに沈んで行く。
五番隊のワーカーは小高い丘の上にあった。
司令室で物思いにふけるシオンのモニターが突如作動した。
『やあ、シオン。』
『……マリスか、行くのか?』
『うむ。それが我ら二番隊の努めならば、な。』
『恥だと思うな、全員でやれ。それ程に奴は強い。……すまんが、
今はそれしか言えない。本来なら我々が行くべきなのだが……。』
シオンの言葉にマリスは首を振った。
『我々もその辺はわかっている。シオン、お前は我ら五人の中でも
最強のバイオアーマーだ。真打は最後に出るものさ。』
『マリス、お前、リリスをどう見る?』
『どう……とは?』
『我ら第一世代は人間の細胞から作られたと説明されている。
当然、思考の仕方も人間に近い……と私は考えている。
我が隊のマチスやカーシャ等は第三世代だけに……人間の思考のそれとは
少々ずれがあるように思う。二番隊ではどうだ?』

世代……それは、バイオアーマーの作られた時期に由来する。
現在の五人の各隊長は第一世代、つまり最初のアーマーなのである。
そしてこの五人の個体から二人づつのアーマーが作られ、
それからまたそれぞれのアーマーが……。第二、第三世代の誕生である。

『うちも似たようなものだ。それが?』
『これは私の私見だが……リリスは我らよりも人間に近い。』
『……すると?奴はまさか、基本形……いやさ、試作品か?』
『わからん。大神官は知らないと言った。だから、今はまだ不明だ。
だが、力量にそれ程の差があるとは思えない。ただ……。』
『ただ?』
『先程、〈ビイ〉が帰りついた。他でもない、一番隊の戦いぶりを
記録したものだ。……マリス、奴はパワーアップしたぞ。』

『何故それが?』
聞き返すマリスにシオンは重い口調で話し始めた。
『リリスは……エル達を喰ったのだ。
細胞を分子レベルに分解して自分の体内に取り込む……と言うやり方でな。』
『そ、そんな事ができるのか?』
『基本が同じなら我らにもできる筈だ。
我々が外界のエネルギーを吸収するのと同じ事だと思う。』
窓の外に二番隊のワーカーを見送りながらシオンは続けた。
『もしもの時には私も……キャリーやシャルルを……。』
『よせ、シオン。私がそうはさせん。まあ、見ていてくれ。
我々も〈ビイ〉を放しておく。万一の時には、後を頼む。』
『分かった、行ってこい。』
やがて二番隊のワーカーはシオンの視界から消え、周辺はいつしか
夕暮れの静寂に包まれ始めていた。

 漆黒の夜空にいくつかの星が瞬き始めた頃、眠っていたリリスが目を覚ました。
体に掛けられたコートはアッシュの物だった。
『大丈夫か、リリス?』
『アッシュ……私?』
『あの後、熱を出して寝込んだんだ。覚えてない?』
ゆっくりと体を起こしながらリリスは少しだけ戸惑って見せた。
『そっか……また……。パワーを上げ過ぎると、時々あるのよね。
でも、もう大丈夫。心配かけて、ごめんね。』
訝しげに見つめるアッシュを気遣いながら元気を繕って見せた。

『なあ……リリス?やっぱり、やめられないのか?』
『えっ?なにが?』
『なにって……』
そのアッシュの声を遮るようにプロメウスがやって来た。
『もういいようだな、リリス?』
『ウン。いつまでも寝てなんかいられないもの。で、奴らどう?』
『それだが……良い知らせかどうか何とも言えん。夕刻に二番隊が出動したぞ。
ただしこれは罠だ。行けばお前が待ち伏せされる。』
リリスの口元が少しだけ微笑んだような気がした。
『それでも……行かなけりゃ。せっかくの御招待なのだもの。』
『だろうと思った。場所はこの図面に示している。』
プロメウスの差し出した紙を受け取ると彼女は再び戦場を目指して立ち上がった。
不安の色を隠せないアッシュ。
『ごめんね、でも……わかって……。今は、これが私の……。』
言いかけたリリスの腕をつかむとアッシュはもう一度問い正した。
『どうしても、やめられないのか?』

突然の問い掛けにリリスは怪訝そうな顔をした。
わかっているつもりではある。彼の言いたい事が何なのか、は。
『もう無理よ……今となっては引き返せない。』
『でも……君はそれで本当に良いと思っているの?違うだろう?』
顔をそむけたリリスの体が小刻みに震えた。
『わかってるわよ、そんな事!だけど、今更どうしろと言うのよ!
アーマーになった自分の力を完全に制御できるまで訓練を重ねて、
父さんの敵を討つために私は待ったわ!
私のコピー達の能力を私が完全に越えていると自分で実感できるまで
まる4年も待ったのよ!?……復讐なんて空しい事だと言うのなら、
そのとうりよ!でもね、それを認めてしまったら私は一体何のために
今まで戦って来たの?私のこのやるせない想いをどこに持って行けばいいのよ!』

溢れ出た涙を振りはらうように背を向けてリリスは長い通路を
外へ向かって走り去った。残されたアッシュも涙ぐんでいた。
『君の気持ちも理解できるが……人の心には踏み込んではならない部分があるものさ。いつか君にもきっとわかる日が来るだろう。』
プロメウスは後ろでそう諭した。
夜半−−−星空の元、二番隊のワーカーはコロニー・パゴダの
南西約八qの砂漠に停泊していた。
一面の砂の海が広がり、ワーカーの後には風化して脆くなったような
巨岩が聳えている。
『奴は来ますかね?こんなあからさまな罠を敷いて普通……。』
戦地用の簡易食糧で腹ごしらえをしながら下士官レミイが
司令席のマリスに尋ねた。副官のパメラが代わって口を開いた。
『……来る!あれはそういう奴だ。自分に絶対の自信を持ってる。
目的のためなら罠だと知っていても来るさ。』
傍らでマリスが大きく頷いた。
『そのとうりだ。しかし、正面からとは思えない。
準備ができたら総員直ちに迎撃態勢に入れ。
フレイヤとレミイはワーカーの両側、パメラはメイとキサラを連れて
後方の岩の上で哨戒に立て。最後にミーシャ、お前はここで居残り
地中レーダーを降ろしておけ。』
各員はそれぞれに持場へと散って行った。

一息ついて、マリスは正面パネルの時計を睨んだ。
『夜明けまであと少し……本当に来るのだろうか?
来たとしたら、やはりモールの言う様に司令部にスパイがいると……?』
周囲には静かな、しかし緊張した空気が次第に張り詰めて行った。
だが一向に標的の現れる気配がない。
やがて東の空が白みはじめた。マリスは上部のハッチを開けて身を乗り出した。
『やっぱり、来ないのでは?』
上方でつぶやいたパメラの言葉に頷いてしまいそうな自分が哀しい。

が、次の瞬間、朝日に紛れて何かが光ったのをマリスが本能的に察知した。
何かが来る!真下の操縦席からミーシャが声を上げた。
『ぜ、前方から、強大なエネルギー弾!!』
『跳べーーーっ!』
マリスの指示で全員が跳躍したのとほぼ同時に巨大なエネルギーの塊が
ワーカーを直撃し轟音と共にワーカーの前部が噴き飛んだ。
『ミ、ミーシャ!』
黒煙を上げて大きく傾いたワーカー内にはミーシャの姿はなかった。
どうやら、今の攻撃で塵となったらしい……。
『ミーシャ……!逃げ切れなかったか……。
それにしても何という凄まじいパワーだ!しかし奴は、奴は一体どこから?』
少し焦りながらもキサラが朝日の方向を見た瞬間、
第二波が彼女の頭と右腕を直撃した。
声を上げる間もなく彼女は岩の下へ落ちた。
『我らの狙う標的は東の方だ。今度の攻撃で居場所を特定できたら
総攻撃をかけるぞ。総員、攻撃準備!』
残った五人は岩の上で身構え、その手にエネルギーをため始めた。
重苦しい時間が過ぎて行く。敵は、確かに近くにいるのだが。

この時、誰かが下を見ていたら砂に横たわるキサラの体が
砂の中に消えて行くのを確認する事ができただろう。

長い時間が過ぎたような気がする。あるいは一瞬の様でもある。
緊張の末、汗がパメラの頬を滴り落ちた。
と、その刹那、二番隊の足元の岩が轟音を立てて崩れ落ち巨大な火柱が上がった。
『わあああ−−−−−−っ・・・・』
中心付近にいたレミイが飲み込まれた。メイも左半身を削られた。
『なめるなっ!食らえ!』
マリスとフレイヤはそのエネルギーの柱の中を光に紛れて跳躍する
リリスの姿を見付け態勢を崩しながらも合計三発のエネルギー弾を
瞬時に撃ち込んでいた。
双方のエネルギー弾の相乗効果で周囲は閃光に包まれた。
『やったか?手ごたえはあったが……。』


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