GENOCIDER ANGEL

砂埃がおさまった後に手傷を負ったリリスが姿を現した。
膝をつき脇腹をえぐられ、左腕を失った様は斬新で痛々しかった。
彼女にとっても立ち上がれない程負傷したのは随分久しぶりだろう。
『どうやら最期の時が近いようだねえ?
まあ、今までが不思議な位幸運だっただけだろうが。
言い残す事があれば聞いてもいいが?』
負傷したリリスを見て勝利を確信したのかフレイヤがほほ笑んだ。
『せっかくだけど……私はこんな事で死ぬ訳にはいかない……。
たとえどんな状況に置かれても私は……私は……勝ってみせる!』
『この期に及んで世迷い言か!死ね−−−−っ!』
フレイヤのエネルギー弾がリリスの体を打ち砕いたかに見えたが、
塵となって四散したのは二番隊の下士官、メイの体だった。
傍らで左半身の再生を始めていたが悲鳴を上げる間もなく消滅した。
『しまった……!今のは?』
ほんの一瞬気を抜いたフレイヤの胸をリリスの手が貫いた。
そして身構えたマリスをそのままフレイヤの体ごと薙ぎ倒したが、
パメラのエネルギー弾が孤軍奮闘するリリスの左足をえぐった。
もんどりうって倒れ込むリリスの頭上から第二波を撃とうとした時
周囲に大きな銃声が鳴り響いた。
パメラの頭が吹き飛び、リリスの足元に崩れ落ちた。

『あ……アッシュ?何故?』
いつの間に来たのだろうか、残骸となったワーカーの陰に
大口径の拳銃を持ったアッシュが立っていた。
『き、貴様−−−っ!』
思わぬ伏兵に怒るマリスはアッシュに向けてエネルギー弾を放つが
同時に撃たれたリリスのエネルギー弾に逆に体を貫かれてしまった。
狙いが外れたエネルギー弾はアッシュの足元に炸裂し、
爆風で彼は後方に吹き飛ばされ負傷してしまった。
だが、リリスには今アッシュを助けている余裕は無い。
マリスが再生する前に完全なる決着をつけなければならないのだ。
えぐられた足を引きずりながら倒れたマリスの上に馬乗りになると
首の辺りにエネルギーを放った。
『ぐわあああ−−−−−っ……!』
断末魔の叫びとエネルギーの光の粒を残してマリスの体は消滅した。
息を切らしながら振り向くと既にパメラの体は再生を始めていた。
『これで……さよなら、ね!』
パメラとフレイヤに手刀を打ち込み、リリスは二人を「吸収」した。
少しだけだが彼女の顔に赤みが戻ったかに見えた。と、その時、
ドーン!と再び銃声が響きリリスの斜め後方に〈ビイ〉が落ちた。
撃ち落としたのはアッシュの銃だった。リリスがゆっくりと近付く。
『アッシュ!大丈夫?』
『……君のほうが重症じゃないか。僕は足をやられたが……。』
リリスが傷を負ったアッシュの足に手をかざして淡いエネルギーを照射すると、
その傷口は見る間にふさがっていった。
『へえ……すごいな。こんな事ができるんだ?』
『まあね。どんな物も使い方、と言う事なのね。』
と、そこまで言った時リリスはアッシュの膝の上に倒れこんだ。
『リリス?リリスっ!?しっかりしろ!』
『少し、力を……使い過ぎた……みたい……。でも大丈夫……。』
確かに、全身の傷口は既にふさがり失った左腕は再生を始めていた。
だが、もし今敵に襲われたら二人ともおだぶつだろう。
『行こう。僕が運ぶよ。』

アッシュはリリスの体を抱きかかえるとゲリラの基地のある方へと歩き出した。
その顔を眩しそうに見上げてリリスは問い正してみた。
『ねえ……?どうして助けに来てくれたの?
あなたは、私の行動を支持してくれてないと思ってた。』
『そうだね。支持はしかねるよ、確かに。
でもそれが君の宿命なら僕はできる限り助ける事にしたんだ。
考えてみれば僕はそのために君について来た訳だしね。』
『……ありがとう、ごめんね。私……。』
リリスの大きな瞳が涙で潤んでいる。
『どうしたの?どこか痛い?』
リリスは自分を支えるアッシュの手を握り、首を小さく横に振った。
『私達は……痛みはほとんど感じないの。
だから、他人の痛みさえわからないままに行動してしまうのよ。
人間じゃないよね、とても人間とは言えないよね、こんなの。
私は元は人間だから一層辛いの……姿形で例えたら私はもう永久に
この身体のまま暮らさなければならない……成長も止まったまま、
生きる事の意味さえも……。』
リリスの閉じられたまぶたを割って涙が頬へと滴り落ちた。
アッシュは彼女の苦悩にどう答えたら良いのかわからずに困惑した。

二番隊の潰滅は、数時間の後に探査兵からシティに伝えられた。
半壊したままのワーカー、砕けた〈ビイ〉等、無残な映像が
本部のモニターに映し出されている。戦闘時の映像は、もちろん無い。
『何と言う事だ!これだけの数がいながら、全滅だと?
何故だっ?我々のバイオアーマーはたった一人のバイオアーマーを
倒す事さえできないというのか!このまま、手をこまねいて待つだけなのか?』
自分の部隊を失ったモールが心の動揺を示すようにわめいた。
神官室の中の会議場はいつも以上に重苦しい空気が満ちていた。

『残り十四人か。グラック、アルカード、アーマーを全員シティに呼び戻せ。
奴のペースになる前にここで態勢を整えるのだ。』
大神官の言葉に二人は席を立った。

シティの内部がかつて無い敵に対応するために慌ただしい動きを見せ始めた頃
ゲリラのアジトに帰りついたリリスは負傷した手足の再生が終わった体を
癒すようにベッドに横たわっていた。
『驚いた?実際に体が再生するのを見るのは初めてと思うけど。』
リリスの問いに対して、アッシュは腕組みをしながら答えた。
『確かに……ね。大体いつもこの位で直ってしまうものなの?』
『ううん、実はね、私は修復速度は彼女達より遅いの。
シオン達は多分今の私の倍の速さで傷付いた体を修復できるはずだと思うわ。
人間をベースにした私と違って彼女達には活性化細胞が多くあって
おまけにパワーが尋常ではないから。それが唯一、私の弱点ね。』

話している途中にプロメウスが基地に戻って来た。
そしてゲリラの戦士達を前に、経過報告を始めた。当然、シティ内部の情報だ。
『奴らは篭城の構えだ。しばらくはゲリラに対する摘発もできなくなるだろう。
他のコロニーに伝令を出せ!絶好の機会だ!』
『おお−−−−−っ!』
ゲリラ達はそれぞれに戦闘の準備を始めた。無論、アッシュも。
リリスはもうしばらく休むと言ってそのまま眠りについた。

しばらくして、アッシュはプロメウスが座っている傍らに席を取り、
今までの疑問を問い掛けた。
『聞いてもいいですか?わからない事だらけで……。』
『何だ?何でも聞くがいい。私に答えられる範囲の事ならば、な。』
『まず……あなたは何故シティの情報にそんなに詳しいのですか?
何故、リリスの事を支援しているのですか?
シティを倒してその先どうするのですか?僕には今一つ何が何だか……。』
プロメウスは小さくうなずきながら言葉を選ぶように話し出した。

『私がシティの情報を伝えられるのは私がシティの中枢部にいて、
しかもかなり重要な地位にいるからだ。シティの神官なのだよ。』
アッシュは少なからず驚愕の表情を見せた。
『み……みんなは、それを?』
『無論、知っているさ。そして私がゲリラを率いてる訳もな。』
プロメウスは椅子に深く腰掛けたまま、腕を組みながら続けた。
『アッシュ、君は私を人間だと思うかね?』
質問の意味を一瞬理解できずにアッシュは言葉を失った。

『私は旧世界の遺物……メカニカルアーマーなのだ。
体の一部分が人間で大部分が機械……平たく言えばほとんどロボットに近いのだ。
まあ、厳密に言えばサイボーグなのだが。
かつての旧世界の戦争は我々を使った国同士の代理戦争だった。
しかしいつか我々の発展版、フルメタルアーマーが増え始めて
あげくの果てにコンピューターの暴走で狂ったそいつらと我々の戦いが始まり、
世界は破滅した。』
聞いていたアッシュは愕然としてしまった。それが真相なのか?
『私を始めいくらかのメカニカルアーマーが生き残ったが、やがて
人間の部分の細胞の劣化が始まった。人類の愚かさに絶望した私は
このまま死ぬのも良いのではないかとさえ思っていた。
そんな私を救ってくれたのがフランツ博士、リリスの父だ。』
『だから、あなたはリリスの支援を?』
『博士は私の生身の部分を、強化細胞に変えてくれた。
その博士はやがてシティ中央との確執のうえ、研究資料を奪われて殺された。
私は……その時彼を救ってやれなかった。今もそれが辛い……。』
プロメウスの回顧録はまだ続く。

『その後私は復活したメカニカルアーマーとしてシティに入りこみ
今の地位に昇りつめた。リリスの支援をするには絶好の事だった。
最後の質問だが……まず一つは、同じあやまちを繰り返そうとする
シティを潰してしまう事、そしてもう一つは前回の戦争で死滅した
すべての動物たちを復活させる事だ。
君達の世代では多分、自分達以外の動物など見た事はあるまい?
だがシティの管理室には殆どの生命体の遺伝子が保管されている。
それが……二百年もの歳月を生きてきた私の最後の願いであり
我々メカニカルアーマーが犯した罪の償いだと思っている。』


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