Я[大塩の乱 資料館]Я
2000.4.8修正
1999.12.31

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「大塩平八郎の書店に寄せた書面」

『今日の書面 』(樋渡正一編著 富田文陽堂 1911) より


◇禁転載◇

大塩平八郎の書店に寄せた書面
(九十年前後の十二月三十日)

▽貴老も俗本屋と違ひ候人

歳晩御事多く存候。扨 先頃より毎々御紙面被下 拝見 早速 可及返書処、御存之通 貧人にて貴老行先の豪富と者雲泥之違ひ 夫故 毎事心切に被申呉 如何許り致大慶候。顔真卿一軸 代物 早々 可進 且 恩借之方も 埒明可申心底なれども、何分旧借等に被逼 甚迷惑 夫故 不存寄 払并返銀とも 延引真平御免。返銀 返済之仕方は出来候に付 来春早々 御出可成は 面上万々可申述候。左様御思召可被下候。顔魯公 望之方も一銭目も出来不申、紀見(きけん)へは御払の由。金子を不残御手に入候事に付 返上可申候処 小子雖貧人 雖志は与顔公同事 其人之石刻に而も日々拝覧いたし居候はゞ 貧も忘れ 忠義の心 油然と起り、大丈夫 磊落の心も聊慰申候。乍去 金子 当冬 出来不申 貴老へ損を懸け候に当り 甚気之毒 夫故 大小一腰典物にさし入 唯今黄金二両手に入候に付 乍後 為持 さし出候間 右にて春迄御延し可被下候。此度之御売口は 定て豪富権貴之人と存候。金子も早ゝ御手に入可申候へども 貴老も 俗本屋とも違ひ 気慨之御座候人と存 顔公も忠義士なれば忠義之ものゝ手へ 其手跡入り候はゞ御悦可被下候筈、俗本屋なれば黄金沢山方へ傾き候へども、貴老 右之通人物 且 顔真卿も一通り之書生陋儒にも無之に付 僕之赤心 御推察可被下候。

以上。

尚々。本文之通申候へ共、夫とも 金子不残御ほしく候はゞ 不及是非 一軸返完璧いたし可申候。悲哉。

    十二月三十日       平 八 郎

      吉 衛 様



【現代文読み下し】(試作) 2000.4.7

◇貴老も俗本屋と違う人◇

 歳末ご多忙のことと存じます。さて先頃よりたびたびお手紙をいただき、拝見いたしました。早速お返事を差し上げなければならないところですが、ご存じの通りの貧乏人で、貴老が行先の豪富とは雲泥の違いです。それだけに、たびたびご親切にお申し出いただき、たいへん喜んでおります。

 顔真卿の一軸の代金は早くお渡ししなければならず、また、拝借金の方もきりをつける心算ですが、何分古い借金等の返済に迫られ、たいへん困っております。

 そのため良い考えもなく、支払い・返済ともに延引の段お許しください。(ただし)借金返済の手当はメドがつきましたので、来春早々にお出でくだされば、お目にかかりすべてお話いたします。そのようにお考えおきください。

 顔魯公をお望みの方は、些少の金額のため、ものを見ることもせず、貴方へお支払いするとのこと。金子を残らず貴方が受け取られたら、(当方は)返上しなければならないところですが、小子は貧乏人とはいえ、志は顔公と同じで、その人の書の石刻を日々拝覧いたしているほどで、貧乏のことも忘れ、忠義の心が盛んに湧き上り、男子粗野ながら少々慰みとなっております。

 しかしながら、金子は当冬に準備できず、貴老に損をかけることになり、たいへん気の毒に思いますので、大小一腰質草に差し入れ、ただ今黄金二両を入手できたため、遅れましたが、持たせ参らせました。右(の事情)ですから、春まで返済を延期くださるようお願いいたします。

 このたびの売却先は、きっと豪富権貴の人と思います。その金子も早々にお手に入るとのことですが、貴老も(世に謂う)俗本屋とも違い、気慨のある人と存じております。顔公も忠義の士ですから、忠義の者の手にその墨跡が入れば、お喜びくださるでしょう。俗本屋であれば、黄金の多い方へ傾きますが、貴老は右の通りの人物で、かつ顔真卿も一流の書家であり、心狭い学者でもありませんから、(ご両者共)私の誠心をご推察いただけるものと思います。

以上。

 なお、本文の通り申しましたが、それでも金子を残らずご所望の場合は、やむをえません、一軸は返却することにいたします、悲しいことですが。

   十二月三十日          平 八 郎

         吉 衛 様


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