高野真遜編「実録彙編　初輯(抄)」7

Я［大塩の乱資料館］Я
2008.9.7

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大塩の乱関係史料集目次

『実録彙編　初輯』

その７
高野真遜編

忠愛社 1886 所収

◇禁転載◇

見出しは内容から、管理人がつけたものです。
本文には、適宜読点を入れています。

大塩平八郎大坂ニ於テ暴動ノ始末
庄司儀左衛門口上

　　　　　　　　　　　　　　　　　　跡部山城守組同心
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　庄司儀左衛門口上
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　酉四拾歳

私儀、同組与力大塩格之助同居養父大塩平八郎不容易企いたし候儀に荷担いたし、同人に附添、所々及乱妨候始末、御吟味御座候、

此段私儀、元来河州丹北郡東瓜破村百姓死亡助右衛門伜に有之候処、拾七歳以前巳年中、摂州住吉郡堀村百姓久右衛門事茂左衛門方江一旦養子に相成候上、同年九月同人方東組同心庄司百蔵養子に引越、同人病気ニ付、御奉公難相勤、御暇相願、私儀同年十月百蔵跡番代被　仰付、先代之通御切米拾石三人扶持被下之、其後同人病死仕、私儀当時川浚役定仮役相勤、祖父庄司佐次兵衛并伯母こと先妻娘ゆう、後妻すへ、下女まつ、都合六人相暮罷在候儀ニ而、拾四年以前申年より平八郎江鎗術入門いたし、拾年以前子年同組与力由比万之助亡父助太夫相頼、炮術指南請両術共致稽古候得共、御用多に相成、其後中絶勝に有之候処、平八郎兼々申聞候は、御奉公相勤候ものは、別而忠孝之心掛ケ忘却仕間敷、追々教示もいたし可遣間、何事に不寄同人申聞候趣意ハ、致違背間敷旨申論候付、七年以前猶又同人江随身儒学読書等いたし罷在候処、去申九月格之助儀、炮術稽古相初居候ニ付而ハ、当春に至り、泉州境七堂浜におゐて丁打為致度積ニ付、棒火矢細工、其外火薬之致手伝呉候様、平八郎儀も申聞、私以前同所ニ而丁打候も有之候付、頼之趣致承知、去秋以来、御用透には毎々罷越、右細工手伝いたし遣候儀に御座候処、猶又旧朧に至り、平八郎申聞候は、諸国異作ニ而、既に東国筋、西国辺にも百姓騒立候風聞有之、上方筋にもケ様之年柄故、油断難成、右体之節は其筋之御役所、又は領主地頭取鎮も可有之候得共、銘々にも其心掛無之候而は、臨時之御用に難相立、平八郎儀ハ当時隠居之身分とは乍申、門弟共引連、一方之防方可致所存ニ而、則備立心組いたし、大筒火薬等も致用意置候儀ニ付、先備中備後備と三段に門弟を引分ケ候列書相見セ候付、致御奉公候身分、御為に可相成候ハゝ、宜筋と何之無心付、承知之趣申答候処、平八郎儀、右体之致用意候ニ付而は、外々同人を嫉、又ハ異心有之様にも相疑如何様之難儀請可申も難計、其節は師弟之儀ニ付、見捨申間敷段申聞、及約諾候儀も有之、尤前書面備立列書文段は聢と不相覚、其後平八郎方江罷越候節、同組与力瀬田済之助、同同心渡辺艮左衛門も罷越居、格之助も列座ニ而、平八郎申聞候は、米価高直ニ而、弥諸民及難渋居候趣ニ付、所持之書籍売払、窮民壱万人江金壱朱ツゝ致施行可遣次第ハ、格之助外弐人共兼而相咄置候儀ニ候得共、其儀は格別窮民救候計略を企、大義を存立候ニ付而は、河泉播村々江は檄文相廻候積之旨、一同江及噂罷在、其後同二月八日、平八郎方江罷越候砌、竊申聞候は、最前存立候大義之儀ハ、近年大火又は地震洪水等度々之大変有之、其上去秋以来別而米穀高直ニ而饑餓之ものも不少哉に及承、世を憂候心難堪、右は全其筋御政道不正故之儀ニ而、此末如何可成行と致心配候ニ付而は、近々之内時日を定、
御城を始、両御奉行所、御組屋敷其余、当表市中致放火、冨家之者共貯置候金銀銭、又は諸蔵屋敷に積置有之候米を、窮民共江配当可遣と存立、右ニ付而は、摂州武庫郡甲山は後に嶮岨之連山有之、前は野原田畑当ニ而、要害屈竟之場所抦ニ付、当表焼払候上ニ而は、一旦右場所江引退、時合を量、大義成就可致積之由ニ而、同志之儀申勧、不容易企、案外には存候得共、私風情之諫言聞請候気質にハ無之候付、同意之趣相答候処、左候ハゝ、誓書に致、調印候様申聞、檄文差出為読聞候上、裏に同意之次第を前文に認、同組与力小泉淵次郎、并前書済之助、良左衛門、同組同心河合善太夫伜河合郷左衛門、近藤梶五郎も致連判罷在候ニ付、私儀も自筆に姓名を相認、書判印形いたし、右書面并軍令書之由ニ而、右之者共名印有之書付にも、是又私自筆ニ而名前を認、書判印形等調印之上、平八郎江相渡、右檄文、軍令書とも文段碇と不相覚弁候儀ニ而、其後も日々被呼付、火矢火薬之拵而已に打掛罷在、尤放火に用候焔硝鉛等買次方之儀、平八郎申付に随、丁打修行又は外被頼候儀之由申偽、去申十月頃より当正月迄之内、南本町弐丁目高上基兵衛方ニ而、白焔硝五拾五斤、薩摩硫黄八斤半、棹鉛壱貫目、又同三斤、灰五百目、鉛三貫目、鵜目硫黄八斤、鷹目硫黄三斤、合薬五斤、松脂三斤、代銀三百九拾五匁弐分五厘に追々に買調、平八郎方江持参、代銀は同人請取、基兵衛江相渡、且又放火投火等之用意に候間　葭竹調参候様平八郎申付、折抦私居宅垣廻り、普請可仕と兼而買調置候葭有之候付、幸之儀と存、追々平八郎方江持運ひ、同人差図に随ひ弐尺程宛に切分ケ、いつれも格之助居間、又は平八郎隠居所、或庭向を仕切、容易に他見難出来様いたし、竊取拵候儀ニ而、同月日不覚、最前平八郎発意之通、町在困窮難渋人共江、追々施行相初候処、山城守より何角察度之筋も有之事之由ニ而、平八郎憤居候体及見候儀も有之、私愚案ニ而は、最前同人企之趣、間者ノ者も有之、平八郎儀、御吟味にも可相成、其期に至候而は異変可発、私儀も何れ平八郎に被引纏候儀は必定之儀と相心得、前顕之通、不容易誓書に調印いたし候上は、最早難遁と致決心、右ニ付而は、同居こと、ゆう儀は、老人幼少之者共ニ付、無心元存、前々之次第は不申、明居宅向、追々及破損候付不速致普請候積に候間、前書助右衛門跡相続人弟新次郎方江立越、暫致逗留居候様申含、同月十日頃、両人共差遣置、猶又同十六日、前書すへを竊呼寄、平八郎より施行金差出候儀ニ付而は、察度之筋ニ而御吟味有之品に寄、江戸表御伺にも可相成、いつれ近々之内、異変可発も難計、其節は門人之儀ニ付、平八郎申條に随ひ、罷出相働可申儀ニ付、すへ儀は、下女召連、兼而知ル人兵庫津冨屋町御影屋常七方江立退居候様、何となく申付置、又々翌十七日十八日両夜共同様火薬仕込之手伝に罷越候処、良左衛門、梶五郎、并玉造御定番組与力大井伝次兵衛久離伜正一郎、河州守口町幸右衛門、同州般若寺村忠兵衛、同村源右衛門、同村伝七、同州門真三番村郡次、同州尊延寺村次兵衛等、追々相集、平八郎父子諸共酒宴を催、平八郎申出候は、明十九日東西御奉行方天満辺御巡見有之、其節格之助向屋敷朝岡助之丞ハ、山城守御用使与力ニ而、東西御奉行方御立寄有之候、先格ニ付、両組之者も相添罷越、其外寄集居候儀にも候間、助之丞宅を目差、不意に大筒を打掛、一時に為及絶命置、追々企之通取計候ハゝ、事成就可致、同日早朝其用意に取掛可申間、無遅刻罷出候様平八郎申聞候付、十八日夜四ツ時頃致帰宅、酒給打臥、翌十九日朝六半時頃、平八郎方遽敷呼に参候付、早速罷越候処、裏切之もの有之、猶予も難相成、不取敢可及放火と存候間、致用意候様、猛々敷体ニ而申聞候付、直様罷帰候内、最早大筒之音相聞候付、家内之もの共江は早々立退候様申付置、火事装束を着、為用意金弐両、銭弐百文有合候儘致所持、格之助屋敷江駈集候処、平八郎父子は、着込野袴を着、白木綿ニ而、鉢巻を〆、済之助、良左衛門、梶五郎、正一郎も同様、其外徒党之ものも着込、或ハ火事羽織等を着、銘々帯刀ニ而、鎗長刀、銕炮を携、駈集候、人足共江は、兼而致用意有之候五七之桐之紋所、下に弐ツ引之印有之候一流、天照皇大神宮、湯武両聖王并
東照宮御神号をも認載候二流、救民と認候四半壱本、庭上に押立、大筒四挺を車に載、格之助屋敷塀を壊、火矢を以助之丞屋敷を焼払候内、格之助屋敷江も火を掛、百姓共之内には、掛矢を持、私儀ハ以前平八郎貰請、同人方に預置候鎗を持、其場に有合候着込を着、先手人数に加、同人差図に随、御組屋敷其外、所々江放火又ハ人家江火を付、及乱妨候途中ニ而は、立替、私儀も銕炮を打、今橋辺ニ而大筒之手江も加り候処、火口はせ、右之手首焼爛、其外怪我致し候付、同勢に漸附纏、淡路町、堺筋辺迄罷越候処、御捕之御人数銕炮被打掛、追々人夫致離散候様子ニ而、迚も難敵対候間一先迯去候様、平八郎申聞、迯出候付、武器并荷物共、其所に捨置、思々に迯去、私儀も平八郎跡を慕、同日七ツ時頃、八軒屋辺ニ而、同人に追附候節、格之助、済之助、良左衛門、幸右衛門、忠兵衛、源右衛門、九右衛門、郡次、天満木幡町大和屋作兵衛、河州西弓削村利三郎、当時無宿三平、済之助若党植松周次等、追々罷越、幸浜先に小舩壱艘繋有之候付、平八郎右舩頭を頼乗セ貰、川面江漕出し、天神橋辺所々江漕寄、忍罷在候内、平八郎及差図、九右衛門金弐両、舩頭江差遣、暮過に至、忠兵衛、源右衛門、九右衛門、郡次、利三郎、作兵衛、周次等追々致上陸候後、平八郎其余之者共、東横堀川上之口、新築地上陸いたし、往来無之場所江寄集、竊行先相談およひ候処、平八郎儀は存命可致所存無之、自滅之覚悟いたし候段申聞候を、良左衛門、済之助等より、言葉を尽、及諫言西横堀川浜通を四ツ橋迄罷越候砌、平八郎申聞候は、此姿ニ而は何れ江も難立越候間、先刀を捨、一刀に可相成段申聞川中江刀を投捨候付、銘々同様刀を投込、行先之心当は無之候得共、下寺町迄罷越候節、平八郎申聞候は、再三致勘弁候処、行先々捕方手当可有之は必定之儀ニ而、迚も落行候儀ハ出来申間敷間、同人父子、済之助、良左衛門ハ、火中に入可致自滅、幸右衛門、三平ハ百姓之儀ニ付、如何様にも身を忍ひ、一命を保可申旨申聞候付、私儀ハ平八郎に同心いたし、死を極る積ニ而、幸右衛門、三平とハ立別、私外四人連ニ而、寺町筋北或西方角江罷越、火事場近く相成候得共、何分多人数混雑之中ニ而、一同可致火中場合無之、彼是立廻り罷在候内、平八郎外三人見失ひ、私壱人に罷成、所詮難迯身分とは存候得共、悪逆之次第怖敷相成、何方江成共、一旦可迯去と存、其儘摂州天王寺村迄罷越候処、夜明ケ候付、手拭ニ而面体を包、同州平野郷郷河州路国分峠を越、和州勢州路江立越候得共、知音之者も無之、残党之ものにも出会不申候付、一旦当表江立帰、様子を見計、猶又行先之勘弁可仕と存、和州路迄立戻候、往返之途中は名所不存、旅籠屋ニ而致寝泊候儀ニ而、和州路所々立廻罷在候処、於同所被召捕御吟味　相成奉恐入候事、

右の通相違不申上候、猶御尋之儀き追々有体可申上候、以上
　　酉三月　　　　　　　　　　　　　義左衛門

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その７ 高野真遜編

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