適宜、読点をいれています。
松屋筆記 巻百九、 |
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大坂の大塩平八郎が乱を成せしをり、自分の蔵書を売て、金七百両許を得たり、これを、飢民の男子にのみ壱朱宛施し与ふ、婦女老人小児は、大勢群を成す時、あやまちあらんもはかりがたしとて禁じたり、さて一朝に一朱づゝ、男子に施す事一万人にあまれり、事を揚げんとする前夜、また一人に二朱づつ施すべければ、朝とく来つどへといふよし、刊刻して摺たる紙一枚を、曩のものどもに分与ふしかれども、事急に起りて発覚し、計合期せずして、来つどふもの少しとなん、これ史記淮陰伝に、駆市人而戦之、といヘる計を用たる也、