Я[大塩の乱 資料館]Я
2014.6.11

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「大塩の乱関係論文集」目次


「大塩平八郎」

西郷哲人 編著

『青年修養偉人の言行』堀徳次郎 1913 所収

◇禁転載◇

大塩平八郎
 (慧眼)賊の手段を看破して 同船の人を救ふ

管理人註
   

        け う  大塩平八郎、京洛よりの帰途、夜舟に乗じて淀川を下りたるに、突然 つゝみ 堤防の上に声あり 『其舟、急いで之れへ着けよ。』                      み そ ぢ  顧みれば、若党に提灯持たせて召連れたる三十路許りの屈竟の武士な         おそ りければ、船頭は畏れて舟を岸に寄せんとするにぞ、平八郎、声を励ま し、    よふけ 『この夜更に船を着けよとは、無法千万、我等は先を急ぐ者なれば、 然ようの頼みを容るゝことは無用にせよ。』   しつ  と叱したるに、船頭も好んで船を戻すにあらねば、遠き岸上の士の命 を用ひんより、近き船中の士の説に従はんとて、其儘流れに添うて漕ぎ 下れり  よくてう     あた  翌朝、守口辺りにて、夜は名残りなく明放れ、今一ト息にて大阪八軒              にわか 家に達せんとする時、平八郎遽に乗合ひの人々に向ひ 『船中に怪しき者あり、方々紛失物は無きや。』         いづ    た    あたり  と云ひけるに、何れも起つて四辺を探し、我は懐中物を盗まれたり、 我れは何々を紛失したりと、果せる哉、被害者続々現けれるにぞ、平八 郎は扨こそと許り、予て目星を着けたる怪しき男を 『御用ツ。』 の声諸共に召捕へて、忽ち其場に被害品を吐出させたり。  斯くて平八郎は船頭を呼寄せ                さむらひ           なかま 『昨夜岸頭に立ちて船を呼びたる侍士は、この賊の伴侶にて、船の着く           かは を待つて被害品を外に転す手段なりしなり、以後もある例なれば充分に 注意せよ。』  と諭されけるが、船中の人々は、皆平八郎の慧眼を嘆服したりといふ。

    
 


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