Я[大塩の乱 資料館]Я
2001.10.16修正

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大 塩 平 八 郎 小 伝


近世文武英雄伝 初号
和田定節編集 大蘇芳年画 船津忠次郎(出版人)
明治11年版権免許 明治12年出版 より

大塩平八郎後素


      招  隠       セウイン

  無功漁釣亦応非   コウ ナクシテ キヨチヤウ マタ マサニ ヒナルベシ
  湖上烟波好正帰   コシヤウノ エンハ ヨシ マサニ カヘルニ 
  頼倚吾公済時效   サイハヒニ ワガコウ セイジノ カウニ ヨツテ
  今秋共製荷衣   コンシウ トモニ セイス キ カノイヲ 

       【大塩平八郎像  大蘇芳年画 】


大塩平八郎小伝

名ハ後素 通称を平八郎といふ。大坂府の士なり。常に王陽明の風を慕ひ 其学を治む。文政十年 耶蘇宗の邪党を京摂の間に捕えて功あり。同十二年 猾吏の豪富となれあい 政事(まつりごと)に因りて人を陥いるゝ者あれども 権貴の人に及ぶすことこと有るを以て皆懼れ その罪を問ふ者無きを 高井氏と謀り 秘策を施して見顕ハし 尽く是を刑に処し 其贓(おさ)むるところを挙げ三千余金を得て府下の貧民を賑はせり。

天保元年 令を出して 破戒の僧を喩し 其用ひざるもの数十人を捕え ことごとく流罪に処す。時に年三十七。高井氏老病を以て職を辞す。

平八 慨然として曰ふ。余 本微賤たり。公の教えを得て 民の害を鋤き 僧の風俗を規(ただ)し 以て 功績(いさをし)を立てたり。今 公職を辞す。我 又共に職を棄てざれバ 平常 聖賢の書を読ミ 良知の教えに従事して 独 心に愧(はじ)ざらんやと。

(すなわち)前に出せり招隠の詩を賦す。

平八 致仕(つとめをひき)陽明の学を以て生徒に教授し 戒めて曰ふ。

世を海と為し 身を船になし 心を舵となす。

身の船 終日 世の海に浮き沈ミす。如(も)し 心の舵無れば 利の雨 名の風欲の瀾(さざなみ)情の波に覆り 溺らせられざる者 稀なり。此故に性の宝を喪ハざることを要する者ハ 堅く心の舵を執て 涯(かぎり)無く底無き世の海を渡るべし。縦(たと)へ 雨風波瀾(なミ)に逢も覆り 溺るゝの害を免れん。心の舵とハ 即 良知なりと。

天保八年 米価騰貴 貧民 餓死(うゑしな)んとす。

平八 これを憂へ 一策を設け 府下の富商に金を出させ 救はんと欲し 其子格之助をして 跡部山城守に説しむ。
山城守 唖然として笑つて曰ふ。
平八狂を発するか。
格之助 帰つて父に告ぐ。平八 怒りに堪えず 且 嘆じて曰ふ。

四海困窮 天禄永終。又曰ふ。
小人之使為国家災害並至と。
(まこと)たるかな。
此言(このこと)や 近年 天災地変あげて算(かぞ)ふべからず。
有司酒色に没(おぼ)れ 賄賂 公に行ハる。
吾 豈(あに)座して 之を視るに忍びんやとて 貧民一人に金一銖を施すこと凡そ一万人。
喩して曰く
若し我が四辺(あたり)に火の起るを見ば 疾くはせ集るべしと。
又 檄文を摂州河州泉州播州に移し 窮民を煽動するの文意 天に代つて民を救ふに在り。

二月十八日 変心の者あつて 此事 発覚(あらわれ) 十九日 町奉行跡部山城守 兵を伏せて 其党瀬田済之助 小泉淵次郎を召す。
二人 謀計(はかりごと)の露れたるを知つて走る。伏勢起り 淵次郎を斬る。
済之助 逃れ帰りて平八に告ぐ。平八ハ 急に党を集め 纔(ただち)に 五六二月十八日 変心の者あつて 此事 発覚(あらわれ) 十九日 町奉行跡部山城守 兵を伏せて 其党瀬田済之助 小泉淵次郎を召す。
二人 謀計(はかりごと)の露れたるを知つて走る。伏勢起り 淵次郎を斬る。
済之助 逃れ帰りて平八に告ぐ。平八ハ 急に党を集め 纔(ただち)に 五六十人を得たり。
(ここ)に於て砲を発し 火を先(まず)其家に放ち 二流(ふたながれ)の旗を樹(たて)たり。 一にハ 天照皇太神宮と書し 一にハ 南無妙法蓮華経と書す。蓋(けだし) 天に代つて民を救ふの意を表せしなり。
跡部山城守 兵を出し 遠藤但馬守ら また之を援け 天満の所々に戦かひ 衆寡敵しがたく一味の壮士 此処かしこに討れ 平八郎 格之助 ハ其往くところを知らず。

或ハ 焚死(やけし)せりとも言ひ 或ハ 薩州に走るともいふ。


【参考】 『大塩平八郎伝 −天満水滸伝−』石原干城 1885
  湖上烟波帰未帰  こじやう えんば かへり いまだかえらず
  無功漁釣亦応非  こうなくして ぎよてう また まさに ひなるべし 
  頼佐地方済時效  さいはいに ちはう さいじの こうを たすけて 
  今秋共載芥荷衣  こんしう ともに する かい かのい 

○ 『近世文武英雄伝 初号』に収録されている人物 15名

島津久光公、武田耕雲斎、平野国臣、佐久間象山、大塩平八郎、安島帯刀、 鵜飼吉左衛門、頼三樹三郎、三條実美公、有栖川熾仁親王、清水寺月照、 岩倉具視公、中山忠能朝臣、中山忠光、山田顕義朝臣


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