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■ 人を憎んだり 恨んだり 或は中傷したりする人は

人を憎んだり 恨んだり 或は中傷したりする人は、
自分も又 必ず他人からそうされるということを
忘れてはならない。
 

この章句は、人生に存在する、行為の結果は必ず自分に還ってくるという厳粛なる因果関係の大事実を、端的に表したまことに省察に値する言葉なのである。

ところがこのわかりきっている事柄を、多くの人々はとかく不用意に忘れがちで、ややともすると人を憎んだり、怨んだり、はては平然と悪口や中傷を敢えて為す。そして、それを格別悪いことと思わない。

否、寧ろ、それは人間の誰でもが行う当然の行為のごとくに思っている人が少なくない。中には、そうすることに一種の快味を感じるという人すらある。

そして、その種の人に限り、他の人から憎まれたり、怨まれたり、あるいは中傷されたりすることを極度に嫌忌する。すなわち、極端に毀誉褒貶を気にするという笑うべき矛盾を、その心にもっている。

しかし、他人を遠慮なく悪しざまに評したり、憎悪したりして、自分だけは悪くいわれたくない、誉められていたいということくらい、およそ虫のよい話はない。

自然というものはそんな不公平な法則は作っていないのである。必ずや、因果応報の当然の帰結で、自分も又、他の人々から自らする以上の憎悪や中傷を受けるにきまっている。この犯すべくもあらぬ事実は、洋の東西を問わず千古不変のものである。

その証拠には、現にバイブルのマタイ伝に、「汝ら人を裁くなかれ、そは裁かれざらんためなり」と明記して戒めていることでも分かる。

第一慎重に考えねばならぬことは、他人を悪く批評したり、または中傷して快味を感ずるというのは、その人格の格調の中に少なからず「善」なるものを欠如していることに原因すると言うてよい。

およそ、人間の生活が善の起動から外れて行われるとき、そこにはいささかも人生幸福というものが招来されるはずがない。

この自明の現実から厳格に省察すれば、かりそめにも、宇宙真理に順応する心身統一の重要さを理解し、その生命の根本義を掌握する精神生命の対人生態度の積極化を徹底させることに専念する人間であれば、すべからく常に自己の心的態度とその状態とに厳しい内省検討を施して、いやしくも人を憎んだり、怨んだり、況や中傷するがごとき卑しむべき言動は、決して為さざるよう我と我が心に厳命すべきである。

そして、常に、真人としての真の気高さを堅持すべしである。一体、他人の中傷や悪口を敢えて為す人というのは、人間として大切に考えるべき自己批判ということをとかく厳正にしないで、むしろないがしろにするからである。

自己批判を厳正にしないと、どうしても他人の批判のみ、その注意が徒に注がれることになりがちになるものである。

要は、前述した内省検討(心身統一法にあげる積極観念養成の要項)が、完全に実行されないからの結果であると断言する。

中村天風 『天風哲人箴言註釈』より抜粋
現在は 『叡智のひびき』 講談社 1995年 として刊行されています

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 2003 Yoshiaki Sugimoto