Я[大塩の乱 資料館]Я
2012.3.22

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「大塩の乱関係論文集」目次


「梅非凡」

その1

足立栗園 1912.5

『陽明学 第43号』陽明学会 所収

◇禁転載◇

   管理人註
   

梅非凡  (月次演説) 諸君、私は、陽明学と云ふことに付いては、未だ深い研究をしたことが ございませぬ。それで皆さんに、陽明学の学説とか、総てのことに付い て、御話をする程の材料を持つて居らぬのであります。併し陽明学者が 此国家社会に遺したところの実蹟、其歴史を見ますると、実に竪確なる 精神を以て、さうして其行動が、如何にも熱烈であります。私は、其点 に於て、始終陽明学者と云ふものは――他派の学者にもそれ/゛\偉人 もあつて、いろ/\な事をして居りますけれども、陽明学者其ものは、 実に精神が堅実で、其上に行が熱烈であつて、少しも他より侵すことの 出来ぬやうな行動をして居ると思ふのであります。 其点を大に感心をして居る次第でありまして、先づ一例として申します と、かの有名なる熊沢蕃山とか、或は大塩平八郎とか、あゝ云ふ人の行 蹟を見ますと、如何にも陽明其人の精神が!全く国を異にし、時代を異 にして居りますけれども、其処に乗移つたもののやうに、私は思ふて居 るのであります。それで私は陽明学、殊に日本の陽明学者のしたことに 付いては、多大の興味を以て常に観察して居ります。 其の陽明学者の特色とも申す点は、第一に直截簡明とでも云ひますか、 実に竹を割つたやうな趣があります。是などは私の考ふる所では、かの 陸象山先生が、宇宙即是自家分内事、自家即是宇宙分内事、斯う云ふ所 より胚胎して居ると思ふのであります。殊にゴタ/\と面倒臭い理窟を 言はず、宇宙の大に合するを以て人間向上の直路字した事などが、実に 面白いと思ふのであります。 殊に第二には知行合一といふことであります。知つたことゝと、云ふこ とゝが、始終一つになる、知れば、直に行ふことが出来る、行ふことが、 即ち知つたことである、此に於て、直ちに実践躬行と云ふことに効験が 著しいのであります。此実践躬行と直截簡明、此二つが陽明学の最も特 色であります。 更に日本の陽明学者は尊王愛民……愛国と申すよりも、私は尊王愛民と 云ひたい、尊王と申しますのは、申すまでもなく、我国家を尊ぶ、皇室 を尊んで、何処迄も一天万乗の陛下に忠を尽すと云ふこと、愛民は、社 会民衆を如何に幸福ならしむべきかといふことに付いて、始終其頭を悩 まして居ることであります。世往々にしまして、学者は其時代の権力者 に阿り従ふ。ところが陽明学者は、蕃山にしましても、平八郎にしまし ても、国家を愛するため、又我皇室を尊ぶために、其眼からして、社会 と云ふものを最も愛すべきものと見て居りますから、悉く権力者の都合 ばかりに従ふて居りませぬ。即ち彼等は、当時の権力者なる幕府の忌諱 に触れても、自分の行はんとする所を断行して居る。それが私は陽明学 のえらい所だと思ひます。

   


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