○大塩平八郎檄文
四海こんきういたし候ハゝ、天禄なかくたゝん、小人に国家をおさめしめは災害 并至と昔の聖人深く天下後世人の君人の臣たるものを御誡被置候ゆヘ、
東照神君にも鰥寡孤独におゐて尤あはれみを加ふへくハ是仁政之基と被仰置候、然ルに茲二百四五十年、太平之間に追々上たる人驕奢とておこりを極、太切之政事に携候諸役人共、賄賂を公に授受とて贈貰いたし、奥向女中之因縁を以、道徳仁義をもなき拙き身分ニ而、立身重き役に経上り、一人一家を肥し候工夫而已に智術を運し、其領分知行所之民百姓共江過分之用金申付、是迄年貢諸役之甚しき苦む上江、右之通無体之儀を申渡、追々入用かさみ候ゆへ、四海之困窮と相成候付、人々上を怨さるものなき様に成行候得共、江戸表
諸国一同右之風儀に落入、天子ハ足利家以来別而御隠居同様賞罸之柄を御失ひニ付、下民之怨何方へ告愬とてつけ訴ふる方なき様に乱候付、人々之怨気天に通し、年々地震火災、山も崩、水も溢るゝより外、色々様々之天災流行、終に五穀飢饉に相成候、是皆天より深く御誡之有かたき御告に候得共、一向上たる人々心も付す、猶小人奸者之輩太切の政を執行、只下を悩し金米を取たてる手段計に打懸り、実以小前百姓共之なんきを、吾等如きもの草の陰
常々察し悲み候得共、湯王武王之勢位なく、孔子孟子の道徳もなけれは、徒に蟄居いたし候処、此節米価弥高直ニ相成、大坂之奉行并諸役人共、万物一体の仁を忘れ、得手勝手の政道をいたし、江戸へ廻米をいたし天子の御在所之京都へは廻米之世話も不致而已ならす、五舛壱斗位之米を買に下り候もの共を召捕杯いたし、実に昔葛伯といふ大名は農人の弁当を持運ひ候小児を殺候も同様、言語道断、何れの土地にても人民は、
徳川家御支配之ものに相違なき処、如此隔を付候ハ、全奉行等之不仁ニ而、其上勝手我儘之触書等を度々差出、大坂市中游民計を大切に心得候ハ、前にも申通、道徳仁義を不存拙き身故にて、甚以厚ケ間敷不届之至、且三都之内大坂之金持共、年来諸大名へかし付候利徳之金銀并扶持米等を莫大に掠取、未曾有之有福に暮し、丁人之身を以大名之家老用人格等に被取用、又ハ自己之田畑新田等を夥しく所持、何に不足なく暮し、此節之天災天罸を見なから畏も不致、餓死之貧人乞食をも敢而不救、其身ハ膏梁之味とて結構之物を食ひ、妾宅等江入込、或は揚屋茶屋へ大名之家来を誘引参り、高価の酒を湯水を呑も同様にいたし、此難渋の時節に絹服まとひ候かわらものを妓女と共に迎ひ、平生同様に游楽に耽候ハ、何等之事哉、紂王長夜之酒盛も同事、其所之奉行諸役人、手に握居候政を以右之もの共を取〆、下民を救候儀も難出来日々堂島相場計をいしり事いたし、実に禄盗ニ而、決而天道聖人之御心に難叶、御赦しなき事に候、蟄居之我等最早堪忍難成、湯武之勢、孔孟之徳はなけれ共、無拠天下のためと存血族の禍をおかし、此度有志之ものと申合、下民を悩し苦候諸役人を先誅伐いたし、引続驕に長し居候大坂市中金持之丁人共を誅戮およひ可申候間、右之もの共穴蔵に貯置候金銀銭等、諸蔵屋敷内に隠置候俵米夫々分散配当いたし遣候間、摂河泉播之内田畑所持不致もの、たとへ所持いたし候とも父母妻子家内之養方難出来程之難渋ものへハ右金米等取らせ遣候間、いつに而も大坂市中に騒動起り候と聞伝へ候ハゝ、里数を不厭、一刻も早く大坂へ向馳可参候面々江、右米金を分け遣し可申候、鉅橋鹿台の金粟を下民へ被与候遺意にて、当時之飢饉難儀を相救遣し、若又其内器量才力等有之者は夫々取立、無道之者共を征伐いたし候軍役にも遣ひ可申候、必一揆蜂起之企とは違ひ、追々年貢諸役に至迄軽くいたし、都而中興
神武帝御政道之通、寛仁大度の取扱にいたし遣、年来驕奢淫逸之風俗を一洗相改、質素に立戻り、四海万民いつ迄も、 天恩を難有存、父母妻子を被養、生前之地獄を救ひ、死後の極楽成仏を眼前に見せ遣し、尭舜、
天照皇太神之時代に復しかたくとも、中興之気象に恢復とて立戻申へく候、此書付村々ヘ一々しらせ度候へとも、数多之事に付、最寄之人家多候大村之神殿江張付置候間、大坂
廻し有之番人ともにしられさる様に心懸、早々村々へ相触可申候、万一番人とも眼付、大坂四ケ所之奸人共へ注進いたし候様子に候ハゝ、遠慮なく面々申合、番人を不残打殺可申候、若右騒動起り候を承りなから疑惑いたし、馳参不申、又ハ遅参およひ候ハゝ、金持之米金は皆火中之灰に相成、天下之宝を取失ひ申へく候間、跡にて必我等を恨み、宝を捨る無道者と陰言を不致様可致候、其為一同江触しらせ候、尤是迄地頭村方にある年貢等に加ゝわり候諸記録帳面類ハ、都而引破焼捨可申候、是往々深き慮ある事にて、人民を困窮為致不申積に候、乍去此度の一挙当 朝平将門、明智光秀、漢土之劉裕、朱全忠の謀反に類し候と申者も是非有之道理に候得共、我等一同、心中に天下国家を簒盗いたし候慾念より起し候事には更無之、日月星辰之神鑑にある事にて、詰る所は湯武、漢高祖、明太祖、民を吊、君を誅し、天討を執行候誠心而已にて、若疑敷覚候ハゝ 、我等之所業終る処を爾等眼を開て看、