Я[大塩の乱 資料館]Я
2014.2.22

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「大塩の乱関係論文集」目次


「大塩平八郎の再生」
その2

川島文郎

『戦争によつてのみ貧乏人は救はれる』
(新興戦争文学集) 天人社  1931 所収

◇禁転載◇

第一幕 (1) 管理人註
  

  道光二十年より三年まで打ち続いた大饑饉の跡である。粤江の氾濫は  田畑と云はず、邸と云はず、地上の悉くを磧にしてしまつた。夏草の影  さへ乏しい。洪水後の疫病は、日毎に餓えた土民の生命を奪ひ、累々と  して横はる死屍、その腐肉に群らがる烏の鳴き声が喧しい。けれども、  末路に瀕した清朝政府は、民の惨禍を傍観してゐるのみである。   舞台は、桂平県鵬化山の山麓金田村である。荒涼たる磧の中に一軒の  小屋が立つてゐる。易清とその小供とが、磧でバツタを追つてゐる。 易清 そら、そつちへ逃げたぞ。(小供棒切を持つてヨロ\/と追ひ掛け  て行く)駄目だ。駄目だ。父やんに貸してみな。 小供 (棒切を投げ出し、崩れるやうに座り)お腹がペコ\/だア……。 易清 (棒切を拾つて)あゝ、待つてゐなよ。父やんが捕へてやるからな。 子供 早く喰べたいなア。   易清、力のない足取でバツタを追ひ廻すが、仲々捕へられない。百姓  の一、下手より蹌踉として、出て来て、鼠を捕へる猫のやうにバツタの  上へ身体を投げ出して捕へる。 百姓の一 おゝ、ありがたい、ありがたい(云つて)やつと食ひ物にあり  ついたぞ。(バツタを眺める) 易清 (走り寄つて)そのバツタ、俺らのだが。(と奪ふとする) 百姓の一 (素速くバツタを口に入れる)戯談云つちア不可ねえ。俺らが  捕へたんじやねえか。 易清 俺らが見付けたんだ。此の泥棒野郎め! 百姓の一 ハツハ……喰べるものさへ頂けば、泥棒でも強盗でも結構で御  座んす。 小供 あゝ……(泣き出す)   易清の妻、小屋から出て来る。  (子供に)どうした?どうした? 小供 (百姓の一を指さして泣きながら)小父ちやんが奪つちまつたア、  小父ちやんが奪つちまつたア。 易清 此の泥棒がバツタを奪つたんだ。俺らが、坊にたべさせやうと思つ  てゐたのを奪つちまつたんだ。  (百姓の一を睨んで)鬼!悪魔! 百姓の一 ヘツヘ……鬼でも悪魔でも結構で御座んす。どうぞ、たべるも  のをお恵み下さいませ。お腹が一杯になるまでたべたう御座んす。(乞  食のやうに叩頭する)  戯談じアないよ。此方で貰ひたいやね(小供の手を引いて)さあ坊や、  お帰り。 百姓の一 あゝゝゝ(突然苦みを起し、地上を転げ廻つて絶命する。) 易清 あツ、疫病だ!疫病だ!(後ずさりながら)近づいちやアいかん。   易清親子、逃げるやうに小屋の中へ這入る。

石崎東国
「大塩平八郎−太
平天国の建設者
大塩格之助−粤江(えつこう)
珠江の旧名






(かわら)
河原


















蹌踉
(そうろう)
よろけること













戯談
じょうだん


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