|
鵬化山麓野陣の場。
洪秀全始め諸王その他、威儀を正して並んでゐる。(支那歴史に見へ
る長髪賊の集団であるが故に、総て長髪である。)
正面に上帝の祭壇を設け、九濤が秀全に渡した卷物を捧呈してある。
秀全演説を続けてゐる。
秀全 ……爾来満洲人は二百年に亘る長年月の間、支那の王位を世襲しつゝ
ある。けれども、吾々は満洲人をのみ王位に戴くことを誓つたものでは
ない。然るに彼等満洲人は戦争に馴れたる土族強軍を率ゐて、吾等の平
和を撹乱し、吾等の財宝、土地、政府を略奪してより此の方、天下を彼
等の天下と心得、天下に上帝あることを無視し、暴戻惨虐その極みを尽
し、吾等が上帝の意に従ひ、鰥寡孤独を慰め、餓えたる兄弟姉妹を救は
んとするさへ、之れを暴徒一揆と見做し吾等に向つて軍兵を派遣し、良
民を圧制殺戮したものである。此の罪、此の悪、何ぞ上帝の免し給ふと
ころぞ!上帝窃かに、余に一卷の書を下して汝等に告げしむるものであ
る。
秀全、恭しく卷物を捧げ持つて来て読む。一同礼拝する。
秀全 (卷物を読む声、朗々として響く)嗟、爾有衆明かに予が言を聞け。
予惟ふに天下は上帝の天下にして胡虜の天下に非ず。衣食は上帝の衣食
にして、胡虜の衣食に非ず。女子人民は、上帝の子女人民にして、胡虜
の子女人民に非ず。慨す。満洲の毒を肆にして、中国を混乱せしより、
六合の大九州の衆を以て一にその胡虜に任せ、恰として怪しむを為さず。
や
中国に尚人ありと為す乎。妖胡虜焔蒼穹を燔き、淫毒宸極を穢す。醒風
は四海に播し、妖気は五胡に惨たり。而も中国の反て低首下心甘んじて
婢僕となる甚しい哉。中国に人なき乎。それ中国は首なり。胡虜は足な
り。中国は神地なり。胡虜は妖人なり。中国を名づけて神地となすは何
ぞや。天父上皇帝は真人なり。天地山海は、是その造成するところ、故
に従前、神地を以て中国と名けたり。胡虜を目して妖人と為すは何ぞや。
蛇魔邪鬼なり。韃靼の妖胡は惟だ敬拝す。故に当今、妖人を以て胡虜と
目せり。奈何ぞ、足は反りて首を加へ、妖人は反りて神地を盗み、我が
中国を駆りて尽く妖魔に変せしむるや、南山の竹簡を馨くするも、溝地
の淫汚を写し尽さず、東海の波濤を洗するも、満天の罪を洗浄せず。
予謹みて略其彰著なるを云はん。
この時、祭壇の背後より白煙蒙々として立ち昇り、白煙の中に神化し
た九濤(平八郎)の姿現れる。
一同、地に跪きて礼拝する
……(幕)
|
石崎東国
「大塩平八郎−太
平天国の建設者
大塩格之助−」
鰥寡孤独
(かんかこどく)
妻を失した男、
夫を失した女、
親のない子、
老いて子のな
い人。
大塩「檄文」
にも見られる
言葉
嗟(ああ)
肆
(ほしいまま)
奈何
(いかん)
馨(かぐわし)く
(げき)
跪(ひざまず)
きて
|