去月晦日出之貴報留守宅より差廻奉拝見候、追日冷気相増候得と
も、御揃倍御安泰被成御座奉恐祝候、然ハ私儀も無事勤番仕候、
乍憚得貴意易思召可被下候、且又御教諭之逸々難有奉承知候、
誠に短才之私前後を不顧在番中閑隙に堪かね、殊執心之芸技、膝
元に而稽古之響耳に徹し、風と誘に乗し試ミ候段、御委督之御教
諭に而、今更後悔実破師命候多罪、何卒御宥恕被成下候様仕度奉
願候、心中一決中々迷之差起り候儀抔ハ無御座候、聊驚し候儀ハ
御座候へとも、何分思慮無之段、幾重にも御仁恕奉願候、此度ハ
勤番所も違ひ、稽古等ハ不仕罷在候間、此段御安意可被下候、尤
右之御咄不申上、御教諭等無之候ハゝ、又々後悔を再ひ招き可申
儀も可有之処、御教示に而過改、以後相心得候様可仕候、尚其内
帰坂出席仕、拝両万々可申上候得共、先は右御受御詫迄草々如此
御座候、以上
　　九月十八日　　　　　　　　　　　　　　　　　　　平八郎
　　　　　　　　先生様
尚々御端書之趣奉承知口□、稽古之秋に而嘸御稽古場御賑敷と奉
羨候、私儀も任閑素ごき等仕、其日を送り罷在候、尚万々口可申
上候、且追日冷気相益候條、折角御自愛専一に奉仰候、以上、

先生は柴田勘兵衛を指す、平八郎西宮勤番中宝蔵院流儀
の槍術指南者と技を角せしこと(二)に見ゆ、本紙は勘兵
衛より之に就いて何等かの訓戒を与へたるに対し、更に
平八郎より前非わ悔いて其師に上りしものならん、