御組与力
　　　　　　　　　　　　　　　　　大塩格之助同居養父　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　大塩平八郎妾
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ゆ　う
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　酉四拾歳
　　　　　　　　　　　　　　　　　　同
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　み　ね
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　酉拾七歳
　　　　　　　　　　　　　　　　　　同人養女
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　い　く
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　酉九歳
　　　　　　　　　　　　　　　　　　右三人申口
一私共儀当二月十九日、前書平八郎徒党を催、当表市中所々放火
　及乱妨候付、被召捕御吟味御座候、
　　此段私共之内ゆうは曾根崎新地壱丁目大黒屋和市娘に而ひろ
　　と申候節、弐拾ケ年以前不計平八郎と密通いたし、同人妾に
　　いたし候積之由に有之候得共、和市方は茶屋渡世人に而、平
　　八郎儀其節勤仕之身分に付、外聞も如何敷趣に而、同人取計
　　を以摂州般若寺村忠兵衛方え一旦引取、同人と妹之因みを結、
　　ゆうと改名之上平八郎妾に相成候処、九ケ年以前丑年三月同
　　人存寄有之、ゆう儀剃髪いたし、忠兵衛掛屋敷え引移候儀に
　　而、いく儀は摂州吹田村氏神神主宮脇志摩娘に而、七ケ年以
　　前辰年平八郎養女に相成候付、ゆう儀いく養育いたし候様平
　　八郎申付、其節より同人方え立帰候儀に有之、みね儀は前書
　　忠兵衛娘に而、八ケ年以前平八郎方え罷越、末々は養子格
　　之助妻に可嫁合契約も有之候由之処、格之助えはいくを嫁合
　　候由に而、四ケ年以前七月頃平八郎密通申掛、其意に随ひ
　　及密会、夫同人妾に相成候得共、平八郎儀は儒学相好、門
　　人共も数多有之、留学之ものも不少候付、其もの共の手前を
　　憚候哉、ゆうみねを妾にいたし候儀は深相包候様子に而、屋
　　敷内に而別間を補理、私共儀は其所決而外えは出不申、門
　　人共は不及申、格之助にも絶而面会不致儀に而、みね儀は去
　　申十二月男子致出生候処、平八郎儀当時大塩姓相名乗候得共、
　　元来今川義元庶流に付、右男子は本姓為相名乗候由に而今川
　　弓太郎と名付、竊に養育罷在候処、ゆう儀は近頃多病に相成、
　　当正月頃別而不相勝、みね儀は産後引続恢復不致、病臥勝に
　　罷在候を、始終平八郎心に不叶様子に而、当二月七日同人申
　　聞候は、ゆうみね病気保養旁いく諸共忠兵衛方え罷在候様申
　　聞候付、無拠其意に随ひ、私共並弓太郎下女りつ召連忠兵衛
　　方え罷越候処、何角差支之筋有之候間、同人家内之趣に申繕、
　　兼而知ル人同州伊丹紙屋幸五郎方え可差遣趣申聞、同月十五
　　日忠兵衛同道に而幸五郎方え罷越滞留罷在候処、同月十九日
　　深更におよひ、忠兵衛儀其節名前不存天満北木幡町大和屋作
　　　　　　　　　　　　(参り脱カ)
　　兵衛同道、幸五郎方え竊にゆうみねえ申聞候は、此度平八郎
　　儀不容易企いたし、徒党を催、当表所々放火及乱妨候節、同
　　人謀計齟齬いたし、終に御捕之御人数銕炮被打掛、一同離散
　　いたし候、此上行先御手当可有之は必定之儀、迚も落行候儀
　　は相成間敷候間、平八郎父子は火事に入自滅可致覚悟に付、
　　ゆうみねにも自殺相勧候様致伝言候趣竊申聞、致仰天愁歎難
　　堪、此上は平八郎差図之通自殺可致と存候得共、左候而は弓
　　太郎並いく儀も路頭に迷餓死可致は目前之儀と愛着に迷ひ、
　　責而右両人身分落付候迄存命いたし度とゆうみね申談、其段
　　忠兵衛え申聞候処、是又同意に付翌廿日早朝幸五郎方を出立
　　同州能勢郡丹州路を経、京都迄罷越候処被召捕候儀に而、
　　平八郎乱妨およひ候次第、又は同人より忠兵衛え伝言之次第
　　等、いくえは不申聞候付不存罷在候処、此度御吟味之上始而
　　承驚入、一同恐入候事、
右之通相違不申上候、猶御尋之儀は追々有体可申上候、以上、
　　酉四月
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ゆ　う
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　み　ね
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　い　く

平八郎妾ゆう剃髪の年月が弓削新右衛門等一類糾察の年月
と同じきこと注意すべし、(七)に家に一妾あり、之を出し
て累ふ所なからしむとあるに対して、弓削一件に於ける平
八郎の決心の尋常一様ならざるを知る、而して平八郎みね
密通の件は九郎右衛門の密訴状に起因せるもの、みねが自
由の自白にあらずと知るべし、