山城守組与力大塩格之助同居養父大塩平八郎儀、二月上旬当表町
人共之内及困窮難渋罷在候もの多人数え施行金差遣候事之由、山
城守風聞及承、格之助は組之ものに付、平八郎一己之慈善に候と
も右体大行之儀に付、山城守え可申聞筋と存、同人限に同組老分
与力荻野勘左衛門を以、平八郎父子存念承糺候処、平八郎申答に
は、兼而聖賢之道を学候付、米穀等高直に而諸人難渋いたし候時
節には、窮民を可救遣儀に可有之候得共、不及力候故、所持之書
籍売払、一己之致施行候儀に而、平八郎儀は隠居之身分に付、別
段相届候にも及間敷し存、右様取計候儀に而、外に子細無之、父
子共心得違恐入候由申之、尤施行も今一日限に而相仕廻候手筈に
有之候得共、前書之通察度受候儀に付、最早差止候様可仕哉之儀
も伺呉候様平八郎申之候旨、勘左衛門申聞候付、右施行金調達方
之儀も相分、不審之儀不相聞上は、前以申触置候義を俄に差止候
而は却而不都合之筋を生じ可申、今一日之儀に候ハゝ随分穏便に
取計可申旨申聞置候儀に有之、勿論其節は右迄之風聞に而、天満
(聞カ)
辺出火有之候ハゝ可駈参旨、施受候ものえ為申移候趣等更に相聞
不申、全心得違迄之儀と相聞伊賀守は当表着坂当座初入式混雑中
之儀、廉立打合候程之事にも無之候付、山城守限承置候儀に有之
候、然処二月十七日夜同人組同心待ち目付役申付置候平山助次郎
儀、山城守手元え罷越密々申聞候は、平八郎儀格之助并同組与力
瀬田済之助・小泉淵次郎、同組同心吉見九郎右衛門・渡辺良左衛
門・近藤梶五郎・庄司義左衛門・先達出奔いたし候元同組同心河
合郷右衛門・右助次郎申合、大胆成巧を企、棒火矢其外兵具用意
いたし置、近在百姓共人数不相知申合、同月十九日初入式に付、
拙者共同夜天満辺巡見之折を考発立、大坂市中其外焼払候積相企、
加担之もの共より平八郎手元え一味之誓詞をも差出候得共、今更
恐入候次第心付密訴いたし候事之由助次郎申聞、不容易儀に付其
儘同人を留置、虚実可致吟味処、山城守組には前段加担名差之も
の之外にも、平八郎文武之門弟不少候に付、自然助次郎密訴之趣
無相違候ハゝ平八郎え響可申も難計、然ル時は賊徒之もの共捕押
手配向にも差支候間、助次郎は役用有之為致上京候姿に取計、山
城守内状相添、矢部駿州え向差下、引続虚実之儀内糺申付置候内、
翌十八日には公事日に付、伊質守儀早朝 山城守御役所え立会に
罷趣候節、右之始末申聞、追々為取探候得共、速急に虚実不相分
候とは乍申、右体密訴之ものも有之上は、両組打交捕方差向可申
積内談相決候に付而は、前書之通右加担之ものは勿論其外共御役
(聞カ)
所に詰合罷在候儀に付、手当之儀平八郎え相移候而は不都合之筋
は不及申、御役所内におゐても如何様之異変可生も難計と心配い
たし、何れも退散後人撰を以捕方之儀申合、山城守左右次第伊
賀守も同様差向候積、夫々手筈示合置、平常之通公事訴訟承切
候上、伊賀守は態と一旦致帰宅、同組老分吉田勝右衛門え捕方掛
引之儀申含、内々為致手当候儀に而、山城守組与力前書勘左衛門
并捕方役掛相勤候同人倅荻野四郎助磯矢頼母等は、平生平八郎文
武之門弟に候得共、兼而見届候ものに付、右三人え捕方掛引之儀
申含候処、何れも驚入深勘弁之上相答候は、三人共近頃御用多に
而平八郎方え不立越候得共同人兼々門弟共え教示之趣に引競候得
は、助次郎密訴之次第誠以不存寄候、儀に有之、右は平八郎儀気
むら同然之生質之上、近年我儘増長いたし、格別懇意に通合候も
のえは意外不法之儀共申聞候儀、常々之口癖に有之候処、助次郎
儀自身之誠心平八郎申聞之趣実事と心得、卒忽に密訴いたし候
儀を、捕方差向、若哉右様之儀無之節は、却而其儀を申立に致し、
如何様之不法可仕出も難計と致心配候間、十九日巡見差延候ハゝ
異変可生儀も無之、勿論平八郎手元早々相探、聊に而も怪敷様子
相見候ハゝ、三人共身命を抛尋常之取計可仕旨申聞候、次第無余
儀相聞候付任其意、右三人は為引取、伊賀守方えは穏便の取計方
も有之候付、捕方差向候儀先見合候積申遣置、未勘左衛門外弐人
何等之儀も不申出、同十九日暁七時頃伊賀守御役所え前書九郎右
衛門倅吉見英太郎郷右衛門倅河合八十次郎罷出、其以前九郎右衛
門認置候平八郎陰謀内訴書に檄文相添差出、平八郎企之次第申立
候付、英太郎八十次郎は其儘留置、右之趣早速山城守え申遣し、
最早難捨置期に至候付、最前打合置候通捕方差向候手筈申合、在
宿之組之もの追々呼寄に差遣、未駈集以前、其暁山城守御役所当
番与力は前書済之助淵次郎に而、右両人は平八郎加担之もの之由、
夫々密訴に而相分候間、其儘難差置存、捕押方之儀山城守家来共
え申付、右両人を手当為致候処、済之助は御役所裏手塀を乗越迯
去り、淵次郎は手に余候付無是非山城守差図仕為打捨、右之段早
速伊賀守え申遣候付、同人も組之もの召連山城守御役所え罷越、
猶手当方申談罷在候内、平八郎儀屋敷内頻に火矢打出候由相聞
候間手配相整候迄之内、如何様とも取鎮候方可然と存、山城守組
与力大西与五郎は平八郎伯父に而、先達而より病気に而引込罷在
候得共、打臥居候程之重病にも無之様子に付、与五郎厚縁之故を
以平八郎方え差遣、存念為承詰候上、与五郎勘弁を以尋常之取計
為致可申と、同組其筋之与力与五郎方え差遣、右之趣為申渡候処
承伏いたし、同人養子大西善之進差添罷越、山城守差図之通可取
計旨相答乍置、剛勢に恐不能其儀候事之由、其以前両組捕方之も
のも追々差出手配取計候得共、平八郎始賊徒之もの共多人数手に
＼／白刃を携、或は大筒小筒等烈敷打掛、松明様之物打振、右往
左往に立騒、追々組屋敷辺焼立、火勢強難近寄旨申聞候付、早速
石渡彦太夫御手洗伊右衛門え掛合、御鉄炮組同心一同鉄炮を以可
打払旨差図仕候得共手足兼候付、猶又遠藤但馬守えへ掛合、両御
定番組与力同心呼寄種々手当いたし候得共、賊徒之もの共乱妨増
長およひ、追々市中所々をも同様焼立候付、其節之御城代土井大
(マゝ)
炊頭殿も防人数被差加、御城程能天満橋北詰を始其外手薄場所々
相固、拙者共者始終立別所々駈廻防手配いたし候内、伊賀守儀内
平野橋辺に而賊徒四五百人計集居候由相聞、島町御祓筋に而出会、
右之もの共鉄炮打掛候付、伊賀守に随身致し候御定番組其外之
ものえ差図仕、内平野町松屋町筋迄追々鉄炮為打払、賊徒共は東
横堀川向之方え迯去候折柄、山城守に出会候付、猶又手配示合、
同人は賊徒共之先を塞、東横堀思案橋打渡、船場淡路町え乗抜候
道筋に而も、見掛次第銕炮打払、右淡路町堺筋辻合に而発頭平八
郎始賊徒人数に行逢候処、山城守馬印目当に一際烈敷銕炮打掛候
付、同人に差添候御定番其外之者え差図仕、此方も手強に為打
払、終賊徒大筒之手を掛引いたし候居所不知浪人体之ものを始、
其外雑人共三人一時に打留候、平八郎ハ勿論其外之もの共銘々
武具其余之品とも捨置迯散候付、右品々取上置候儀に而、伊賀守
は山城守と立別候本町筋を船場へ乗渡、南手押詰候処、難波
橋筋に而賊徒を見当候付、是又打払追行候処、堺筋に而山城守と
致再会、右体賊徒散乱に付申合召捕方専一に手配申付、猶市中人
気取鎮方をも取計置、火事場消防差図いたし、翌廿日夜五ツ半時
頃火鎮候儀に有之、右之次第は大炊頭殿え相達置有之候儀に而、
此度右一件取計方之儀も御同人え向ケ相伺候儀に付、右之手続伺
書え認入不申候儀に有之、勿論前書取計振之儀は臨機応変之掛引
仕候儀故、差極心得方難貴候、将又平八郎伯父摂州吹田村氏神主
宮脇志摩儀も平八郎不届之企に加担いたし、同人市中乱妨之砌も
乍後人夫召連当表え駈付候事之由相聞候付、同月廿日為召捕其筋
之もの差向候処自滅いたし候付、右死骸並前書淵次郎死骸共外同
様塩詰に申付有之候、但右賊徒之内大筒之手を掛引いたし候浪人
体之もの名住所之儀承糺候処、居所不知政七と申もの之由、右一
件之内天満典薬町大和屋万兵衛見知罷在候旨申立候、右政七首は
其節斬取帰塩詰に取計置候得共、骸は右様混雑中之儀に付取退候
猶予無之終に焼失仕候、尤最寄取上置候大筒台車に重立候加担人
姓名認有之内、額田善右衛門と申名前をも書載有之候得共、同人
居所差当難相分候付追々穿鑿いたし候処、近衛殿家領摂州伊丹植
松村油屋善右衛門と申者、安部摂津守領分同州曾根村地内に生立
有之樹木え帯を結下縊死いたし居候を、当三月朔日右村方之者見
付、早速摂津守役場え訴出相糺候処、他領引合之儀に付、同月中
山城守御役所え一件差出候間、為検使両組同心差遣為改候処、全
自滅に無相違旨申聞候、然ル処右善右衛門儀前段徒党一件に携居
候者之由相聞候付、虚実取糺中、右死骸は先仮埋に取計置候儀に
而、善右衛門儀平八郎とは兼而懇意いたし、同人存立候施行之世
話いたし、又は企発覚之節致人集候板行摺檄文等を最寄村々え投
賦候儀、平八郎被頼取扱、同人刀壱腰貰受、額田善右衛門と
相名乗居候事之由追々相分候に付而は、平八郎に加担いたし候者
に無紛相聞候間、旁右刀は取上、善右衛門女房は所領申付置候、
尤右死骸之儀は余程日数も相立有之候儀に付、先仮埋之儘差置申
候、且山城守組平八郎門弟共之内同人企に加担いたし候者は前條
名差之もの而已に而、其外之者は篤と相糺候得共、右様之企に致
加担候儀無之、勿論怪敷様子見聞およひ候事も無之由申之、既右
之者共は乱妨之節も山城守に随身いたし、賊徒共捕方手配等出精
相働罷在、更に心障之筋無御座候事、
本書は跡部山城守堀伊賀守より騒乱前後の顛末を録して江
戸幕府に上りしものならん、評定所吟味伺書平山助次郎及
吉見英太郎河合八十次郎の條中、冒頭に此儘大坂町奉行え
懸合承糺候処云々とある朱書の分は、大抵本書と同一にし
て僅に一二辞句の異同あるに過ぎず、
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