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藤樹書院は、近江国高島郡上小川村にあり。上小川村に至るには大津内
出の浜より汽船に塔じ、大溝港に至り北に向ひて進めば、永田、出鴨の村々
平坦砥の如き街道を挟み、鴨川の清流東に注ぐを見るべし。尚ほ鴨川堤に
沿うて東にすゝみ、数町にして橋を渡れば一小村あり。これ即ち上小川に
して、藤樹書院は境内百坪余、園庭嘉卉の観るべきものなけれど、今尚ほ
老いたる藤樹の枝蔓蜿蜒、緑葉青々として繁茂し。先生が此の下に在りて。
書を講ぜらたる五十余年前の古を偲ぶべし。
書院の正面なる仏壇には、中央に先生、右に母堂、左に常省先生の位牌
を祀る。藤樹先生の位牌には、
藤樹先生。先生姓中江。諱原。藤惟命。号 軒。称藤樹先生。
慶安六年戊子八月二十五日卒。 邑東北玉琳寺。
西壁に先生の像を掲ぐ。之れを拝するもの、其の豊頬肥満、温醇玉の如く
大徳自ら備はられたるを想ふに余りあらん。書院の扁額は、分部大溝侯の
筆にして、玄関正面の『致良知』の三字は、藤原宣光が、勅を奉じて書し
たるもの也。大広間の左榻間には、大塩中斎の遺墨を掲ぐ。
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現在は
高島市安曇川町
嘉卉
(かき)
美しい草木
蜿蜒
(えんえん)
うねうねとどこ
までも続くさま
常省先生
中江常省
(なかえ じょうせい)
藤樹の三男
榻間
(とうま)
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