平八郎、一軍阻喪の色あるを見て、鴻嘆大息『噫大事既に去る』と叫
び、養子格之助と共に、衆に混じて其影を隠くす、乱後翌二十日黄昏に
至りて、火漸く滅するを見れば、差しもに広き関西の一大都会浪華の地
も、其一半一灰燼と為り、延焼五千余万戸、半焼及び半壊の家屋を合は
すれば、其災を被むる者殆んど一万戸に出入す、実に満目悽愴、全市其
半ばを挙げて烏有に帰す、是れ当初平八郎の期する目的にあらず、其末
流輩の猛勢余焔の茲に至りし者なり、是に於て官流星光底長蛇を逸し、
探索甚だ厳なり、即ち近畿の草木まで皆な之を探して、終に之を得ず、
官の苦心亦想ふべし
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