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翁、又た言るゝ様、国会の実況は概ね斯の如き有様に達す可し、是れ勢ひ
の然らしむる所にして、一の政変を見ざれば急進党は満足せざるが故なり、
けいしん
政府は飽までも着実にして秩序と進歩の併行を望み、一事一物、軽進の挙
あるなく、実に国家の幸福なりと雖も、急進党の意思は頗る反対にして、
何事ぞあれかしと思ひ居る所なるに、幸ひ憲法の改正論と云ふ緒を得て、
之を賛成し、之れを器械として、本心の目的を達せんとするに及ぶ也。嗚
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呼、政府も亦た至難なりと言ふ可し、去れば余は前に(第二章)言ふ如く、
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彼輩より迫て改革をなさんとするに先ち、政府自ら改革をなし、彼等が器
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械として改正を施さんとする憲法は、早く国約を以て定め玉ふこそ上策な
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らんと言ひたるなり、何事にあれ、彼輩が攻撃せんと欲する所をば、其計
略の裏をかへて鼻あかせ、終に過激の政変を見ざる様にせざる可らず、之
れ未来を説くの骨子なりとぞ述べらる壮士つく/\之を聞て感激する事良
久矣、翁の金言、実に面のあたり見る心地ぞ仕るなり、左らば改正憲法の
為に両院の不和を生し、急進党、虚に乗じて改革をなさんとするに至る迄
は承はり候、此後の事、いかなる景況に立至る可きや一騒動なくば、纏は
り申す間敷や、希くは続いて語り玉はれかし、翁曰、是より後に至れば、
一層激を極め、夫より種々の議論もある可れど、そこに奇々の周旋家現れ
て、亦言にいわれ、又至味至妙の模様を織出すもあらん、然し今日は已
ともしび
に日も暮れぬ、深山の中、灯火なく、月もまた出でざれば、汝帰るに便な
からん、今日は是れ迄として、尚ほ続き話は二篇の事とせん、一たび帰り
て明日来れ、さらばと許り身を起せば、翁の姿はかき消す如くに成にけり、
壮士、急に呼止めんと声張り上て。やよ待ち玉へ、待ち玉へと叫びし声に
なんか
驚かされ、忽然として目を開けば、是れ南柯の一夢にして、身は我家にう
もなか
た寝の最中なりけり
二十三年未来記終
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南柯の夢
夢、はかない
ことのたとえ
『南柯太守伝』
による故事
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