Я[大塩の乱 資料館]Я
2002.10.7

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新東宝映画「風雲天満動乱」解説

島田 耕

大塩研究 第23号』1987.12より転載


◇禁転載◇

 唯今ご紹介いただきました島田でございます。大へん専門的な先生のお話のあとで、こういうところヘ出てくるのはいささか晴れがましいのですが、長い間映画のことをやっていたということから、今日の映画のご紹介をさせていただくということなのですが、「風雲天満動乱」という題のこの映画は、制作されたのが昭和三十二年でございます。それが新東宝という会社、ご存じの方もいらっしゃると思いますが、当時の日本映画は、六社ございまして、六社というのは六つの大きな会社があったということですね。東宝・松竹・東映・日活・大映、それで新東宝というふうにございまして、その新東宝というのは、東宝という文字がついておりますように、東宝の労働組合がいわゆる東宝争議というのがございまして、そういうことで会社の中の遅れた部分が、会社側の入れ智恵で分裂をして、この頃でしたら頑張っている連中を追い出してしまうのが労務政策の基本でございますが、当時は何せ戦後の二・一ストなどもございました昭和二十二年から二十三年という非常に労働運動が盛り上った時の労働争議でございましたので、その時の社長が京都の大沢商会の大沢貢 *1 さん、この方が誰かにはかられて、不満分子を、別会社を作ってそこで仕事をさせようではないかということで、出来ましたのが新東宝という会社でございます。ですから非常に珍らしいのですね。労働組合の運動の結果、会社が別の会社を作った、というようなことで生まれた会社でありますが、この映画が出来ました昭和三十二年のあと二〜三年しまして、昭和三十五年に実は倒産してしまいまして、それでこの倒産をしたときが、非常に歴史が皮肉でございますが、日本映画の映画館に入る観客数が、最高の観客数を記録するというのがこのころなんです。ですからテレビ出てくる前の映画が非常に盛んであったと。しかしところがその中で新東宝さんは非常に苦労をしておりまして、東宝から分かれたあとも内紛や経営陣のあれがございまして、最後は皆さんもご存じのような大沢貢さんというなかなかやり手の経営者が経営しておりまして、講談をそのまま映画にするというような企画が続々と出て来まして、「明治天皇と日露大戦争」というような映画、これは嵐寛(アラカン)さんが明治天皇の役をおやりになって非常に身にあまる光栄だとおっしやったお話が当時ございました。かと思うと、有名な同社のスターさんを自分の側女にされたというようにゴシップで書かれたら、大沢さんは怒って、「何を言うか、わしの妾を女優にしたんだ」というふうにマスコミに訂正されたというエピソードがありましたが、やっぱり経営基盤、企画内容もですね、六つございました映画会社の中では、生まれが生まれということもございましたせいか、もう一つ観客の大きな支持が得られなくて、大倉貢さんの日露戦争ものなんかもやってですね、一時期は少し人気も取りました。しかし今は巨匠になっております市川昆監督もですね、東宝争議の中で、組合を抜けてこっちへ来たら監督にしてやるというので、実は新東宝へ行って監督になられて、「三百六十五夜」というような映画もお撮りになって監督修行をなさった会社でもございます。

 さて、この映画そのものはですね、もう実行委員会の主なメンバーの方はご覧になっていられるようですが、史実ということではない。佐倉宗五郎を主役にした講談調の映画も新東宝は撮っておりますのでね、嵐寛さんがカッコよく鞍馬天狗のイメージでつくられたのだろうと思います。そういうことで出来ておりますが、しかしまあどういうことであれ、この大塩平八郎を主人公にした企画をやっぱり新東宝が立てて、それも前編、後編と映画を作っている。今日ご覧いただくのは後編の方でございますけれど、これを二回に分けて公開しているのですね。一挙公開ではなく、前編を公開して、あとで後編を公開すると。こういう形でやった作品でございます。なつかしい俳優さんがいろいろ出てくると思いますが、今、配役表を見てみますと、丹波哲郎さんも若き日にこの映画に出ておりますね。それから、おじいさん役なんかやりましたら、脇役で名優の横山運平さんも、じいやという役で出ております。今、もう活躍している人は、これを見ますと少ないのですけれど。それで監督をしておりますのが山田達雄といいますが、この人も助監督を十年ほどやって監督をやった方で、いろいろ活劇ものを新東宝で撮ってきた人という方で、あまりベスト10に入るような名作を残されたということはない方でございます。それで新東宝がつぶれたあとは、新東宝で働いていた人たちの多くは、ちょうどテレビが出てきたものですから、テレビ用の番組制作の方へ山田監督なんかもどんどん参加していかれた、というようなことが大まかな経過でありまして、中味についてはご覧になった皆さんの御判断とにお任せします。勿論白黒の映画でございます。そういうことでご紹介になったかどうか、若干の経過をお話させていただきました。

 映画「風雲天満動乱」


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管理人註
*1 大蔵貢?


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