Я[大塩の乱 資料館]Я
20021.9

玄関へ

大塩の乱関係論文集目次


「坂本鉉之助のある書状」

村上義光・島野 三千穂

『大塩研究 第17号』1984.3 より転載

◇禁転載◇


 高遠藩砲術家坂本天山と関連する諏訪藩坂本八弥家文書約六十点余を島野三千穂が所蔵、その古文書を大阪の住吉古文書研究会で一通々々解読を行っているが、その中に大坂宗家坂本鉉之助俊貞(自署花押)の坂本八弥宛の長文の書状を発見、研究会からの御すヽめもあり、解説を付して紹介することにする。

 坂本鉉之助俊貞は、周知のように、大塩の乱当日幕府側の武士(玉造口与力)として大塩の一揆軍に真っ向から立向い、その武人らしい働きにより英雄視された体制側の人物で、本人執筆の事変当日の記録〃咬菜秘記〃は有名で、大塩の乱時の幕府側の人物として、必ず登場するのは御存じの通りである。

 本書伏は、切紙(巻紙)、美儂紙長さ二.七○メートルに及ぶ長文のものである。筆跡は武士らしい闊達な書風、内容は砲術家としての種々の近況報告、特に各藩が砲術に夢中になっている動きが克明に報ぜられ、又鉉之助自身の欠所役拝命及び女子出生と、非常に豊富な内容です。

 本書状の問題点として先ず解明したいのは、

の三点であるが、2の坂本俊通(八弥俊通)と坂本俊貞(鉉之助)との関係については、「天山全集」(信濃教育会著、昭和十二年五月、信濃毎日新間社発行)で左の如く明確になった。系譜にみるように、坂本俊通(八弥) は (1)、天山の姉で鉉之助の伯母佐野が諏訪藩士岡村忠寔に嫁した、その三男で、寛政七年に天山の養子となり、砲術(2)を以て諏訪侯に仕えたものである。
(同書下巻六八三−七○○頁)

      寛保二年(一七四二)生
┌―佐野 岡村忠寔ニ嫁ス――――――――俊通(八弥)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥┐
│     俊通(八弥)ノ母                                :
│                                             :
│                 安永四年(一七七五)生                 :
│              ┌―俊元(孫四郎) ―――→永貞*               :
│              │  文化十三年没                      :
│              │                              :
│              ├―女                            :
│  延享二年(一七四五)生 │                              :
├―俊豈(孫八)(天山)―――┤  安永元年(一七七二)生                 :
│  享和三年(一八〇三)没 ├―俊通(八弥) 岡村忠寔三男、寛政七年天山ノ養子トナル ←┘
│              │  天保九年(一八三八)没
│              │
│              ├―俊享 幼死
│              ├―女
│              ├―女
│              │
│              │  寛政三年(一七九一)生
│              ├―俊貞(鉉之助)
│              │   寛政九年四月大坂宗家本駒太郎ノ養子トナル
│              │  万延元年二(一八六○)没 
│              │
│              └―永貞*
└―英真

 この系譜により、鉉之助から見れば、義兄八弥は、十九歳の年長、長兄俊元は十六歳の年長となり、天保八年の大塩の乱時には、鉉之助は四十六歳、八弥は六十五歳で翌天保九年に没、長兄俊元は既に死亡、末弟永貞(俊に元の嗣となった)は四十三歳となる。

 以上から推論すると、本書状の丁重なる書き振りからも当然目上に対するもので、義兄八弥宛の書状に相違ないものと思われる。尚八弥は天保九年に没しているので、天保九年以前の書状であろう。

 次に、1および3の問題点についてみると、書状文中に

 このように書状中に作成年代を類推し得るいくつかの鍵がありながら、未だ解明出来ないのが非常に残念である。

 なお最後に、鉉之助の諏訪藩家中との砲術稽古を示す「口上覚」も見つかったのでここに紹介する。

軍之進が八弥の子息で諏訪藩の武術師範を継いだ事以外は未詳である。



(1) 坂本慶通(八弥)に関しては、「天山全集」の正確さを裏付ける、左記覚書が本文書中に存する。但し人名を欠く。

(2) 本文書では、柔術も師範役となって居る。

【史料図版 略】




大塩の乱関係論文集目次

『大塩研究』第16号〜第19号目次

玄関へ