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一、中斎大塩平八郎先生は私の曾て久しく崇敬せる一先覚であります。
而も先生の遺著は少時率読一過したることあるのみ、未だ留心研鑽の
時を得ざるを憾みとしてゐましたが、去月陽明学界のの耄宿石崎東国
氏の高嘱により、洗心洞剳記の精神大要を、氏の幹せらるゝ学会に演
述するに方り、全三日剳記を熟読し、乃ちその概要を図して初学に便
ずるの端緒を得ました。素より、浅学急做大方の清聴を累はすに足る
ものなきに拘はらず、会合諸君子の謙虚なる能く口の私をして、略々
言はんと欲するところを遂げしめられたことは望外の喜とするところ
であります。
一、雑誌「陽明主義」の為めに、その講述の大要の筆記されたるもの、
図らず百枚に上りましたので、寧ろ単行本となして普く江湖求道の人
に頒ちてはとの議が起り、結局播陽岡田氏の斡旋で立正屋書店から出
すことになりました。是れこの小冊刊行の縁起であります。
一、本概説は簡易分明を期するが為、専ら剳記上巻に拠り、その思想を
系統的に述ぶるに止めました。異日機縁熟して空虚詳説を講ずる時が
ありしたなら更に下巻を参照し、内容一段の豊富と説明の周密を期す
るつもりであります。
一、本稿の整理編輯の為め、特に瀟洒清閑なる書室を提供して下された
石崎、福田(宏一)両氏の誠悃恩諠に対し、謹んで感佩の意を表しま
す。
大正十三年新嘗祭の日
高田生記
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留心
(りゅうしん)
憾(うら)み
耄宿
(ぼうしゅく)
高嘱
(こうしょく)
他人を敬って
その依頼をい
う語
急做
(きゅうさく)
口
(こうくつ)
『洗心洞箚記』
清閑
清らかで、も
の静かなこと
誠悃
(せいこん)
まごころ
感佩
(かんぱい)
心から感謝
して忘れな
いこと
新嘗祭の日
11月23日
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