Я[大塩の乱 資料館]Я
2012.8.24

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩中斎空虚の哲理』

その2

高田集蔵

立正屋書房 1925

◇禁転載◇

自 序管理人註
   

 官憲の禁制するところ、吾人劇に大塩平八郎の史蹟を観ることを得ざ るや久し矣。  しかも余の解するところ、中斎大塩は米屋荒しの首魁として葬り去ら るゝには、あまりに惜しき英傑なりき。殊に彼の哲学的思想に至つては、 空虚をその宗とし、仁孝を以てその用とするもの、而して日本儒界未だ 曾て有らざりしものを発揮せるを疑はず。  語に曰く、人生は短く芸術は長しと。斯人死すと雖も永久に滅びさる ものは夫れたゞ芸術か。中斎の遺著、一部洗心洞箚記あり、自ら富士の 山巓に埋め去りしと云ふもの、是れ彼が心胆を灑尽せるの文字的活芸術 にして、貪夫をして廉に、懦夫為めに志を立つる感化の極めて皎著なる ものあり。此の書存せんかきり、其の人永へに生くと云ふ、非ならん耶。  生がこの小著、もと是れ一回の講演に過ぎず、素より悉くその奥底を 叩くに足らずと雖も、略々その思想の精神大綱を挙し得たるを信ず。蓋 し活人は思想の権化なり。思想の伝はるところ、活人出づるなきを憂へ ざるべし。空虚を宗とし仁孝を用とする中斎思想の伝播するところ、早 晩那様の活人や世に出でゝ、済世救民の真劇をや演ずらむ。かくの如き は官憲も猶禁制し得ざるところ、其人亦果敢なき米屋荒しの魁たる覆轍 を踏むが如き拙を学ばざらむ歟。  草稿成るの日、寸感を巻首に題すること如此。   大正十三年臘月                    著者

洗心洞箚記山巓
(さんてん)

灑尽
(しゃじん)
そそぎつくす

懦夫
(だふ)
意気地のない
男


(ぎょう)
白く明るい
さま


活人
生きている人




覆轍
(ふくてつ)
先人の失敗





臘月
(ろうげつ)
陰暦一二月の
異称
 


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