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学校と家庭へ
読物の及ぼす影響の大きなことは、最近幼少年の思想調査の結果を見て
も明かである、欧米諸国では、夙に此点に注意して、相当知名の学者、教
育家、文学者で、幼少年の読物に筆を染める人が少くない、我が国でも、
最近幼少年の読物調査に関する運動が盛んになつて、優良な読物がボツボ
ツ刊行されるやうになつたが、まだ/\欧米のそれに較べると、比較にな
らないほど寂しいものである。
読書は精神の営養である。営養の良否が、身体の発育に大きな影響を与
へるやうに、読物の善し悪しが、幼少年の精神に至大の影響を与へること
は、想像以上である。近時新聞紙上に現はれる、幼少年の犯罪の大部分が、
不良の読物の悪影響であるのを見ても、この問題が、一日も等閑に附すべ
からざることを、発見するであらう。
近ごろ少年保護会や、少年裁判所などの特設を見たが、事は事前に予防
しなければならぬ。病にかゝつて薬をもるのは、労して効少きものである。
病にかゝらない前に、十分予防して、健康を保持するやうにしておくのが、
却つて賢明な手段ではあるまいか。世の為政者、教育家、乃至父兄が、こ
の点に留意しないのは、寧ろ不思議である。
幼少年に、健全な読物を提供したいといふ考へは、ずつと以前から持つ
てゐた。時たまたま、文行社主の懇請があり、この方面の大家の賛同を得
たので、こゝに本叢書の刊行を見た。
本叢書の誇とするところは、現在我が国に於ける、斯道の大家を網羅す
ることが出来たといふことである。教育家あり、文学者あり、童謡童話の
大家あり、何れもこの方面にオーツォリテイをもつてゐる人ばかりである。
しかもそれ等が、連帯責任をもつて、叢書のすべてに、絶対の責任を負つ
てゐるといふことは、この種刊行の物として、未だ嘗て見ない偉観であら
うと思ふ。
不肖僭越ながら、多年教育の実際にたづさはつてゐたといふところから、
推されて監修の重責を負ふことゝなつた。この叢書が、幸に時弊をすくひ、
幼少年の精神的滋養となつて、小さき人々へ、好影響を与へることが出来
たら、執筆者一同の、この上もない仕合である。
監修者 友納友次郎識
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営養
栄養に同じ
斯道
(しどう)
学問や技芸などで
この道、この分野
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