Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.9.12

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その17

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第四席 (2)

管理人註
   

 平八郎が二百両の金を借りやうとするのは、何に使ふのかと云ふと、                        あか 彼の貞宗の刀剣に金が要るからの事だが、夫れとは明して孝右衛門へは 申しません、何故夫れを云はぬのかと云ふと、竹上万太郎と云ふ者は、 白井孝右衛門とは縁者でございますから、其縁者の万太郎の為めに、刀 剣を買ふのだとは云はれない、そんな事を云へば、孝右衛門は、気の毒                     がつて金も貸もしませうが、夫れでは恩を被せるやうであるから。唯自 分の手許の必要に迫つた事にして頼みました。  孝右衛門に於きましては、日頃から、平八郎を師として深く信用して 居ります上に有福に暮して居りますから、二百や三百の金を貸す事は、 何とも思つて居りませんから。                             『夫れではお使ひなさい、持つて帰るのも実は重くて可けないので すから』  と云つて三百両と二百両、都合五百両の金を平八郎に渡して、守口村          あと       うち へ立帰りました、其後で其日の中に橋本忠兵衛からも、木村司馬之助か らも三百両宛持つて参りましたから、是れに百両を足しまして都合千両                     いで を千両箱に収め、其翌日は常よりも早く起き出ました、林の用人、谷村 幸之進の来るのを待つて居りました。                          ぼく  扨谷村幸之進に於きましては、翌日は約束通り二人の僕を連れまして、                            わかとう 天満の大塩平八郎の屋敷へ出掛けて見ると、玄関には大塩の若徒と学生              すぐ 二人が出迎へて居りまして、直に客の間へ案内をいたしました、幸之進 は座に就きますと、平八郎は袴羽織で出てまゐり。            『是れは是は、能くぞお出で下された、コレ/\、お茶を差上げい』  と云ふと茶を運び出す、尤も年末の事でございますから、火鉢などに は火も沢山入れてあります、幸之進は叮嚀に挨拶をしながら屋敷の様子 を見ると、八田の屋敷のやうに、飾り立てゝ派手にはしてございません、 至極質素ではございますが、掃除万端は行届いてあるから、清潔で心持 が宜い。  『昨日お約束をして立帰り、早速調達に取掛りましたる処、幸ひに               どうぞ 金子が整ひましてございます、何卒お持帰り下さるやう』  と云つて手を鳴しますと、学生の一人が出て参りました。  『居間にある金子の箱を持つて参れ』  『ハア』  と云つて立つて行きましたが、直ぐに二人して持つて参つたのが千両 箱。  『其処へ置いて行きなさい』  二人『ハア』                     ふところ  千両箱を平八郎の側へ置いて行きますと、懐中から鍵を取出して錠を 開け、葢を開きまして金子を一包づゝ取出して、其処に並べまして。                     あらた  『谷村氏、都合千両でございますからお検め下さい』                かたじ  『早速に御調達下され、誠に辱けなく存じまする、主人に於ても満 足仕るでございませう』    か ね    あらた  と金子包を検めると、五十両包で二十個、此五十両包と云ふは、一分 銀廿五両を切餅のやうに、キツチリと包んだものを二ツ合したのでござ います、一包づゝの封を切つて中を検めなどはいたしません、大塩平八 郎が調達をする金だから大丈夫でございます。    たしか  『確実に金千両受取りました、即ち仮の証書を持参いたしてござる から』  と云つて幸之進は懐中から、一通の証文を取出して平八郎に渡し。  『いづれ江戸表へ立帰りましたる上、更にまた本証書と認め、大学 頭調印の上其仮証文とお引換へ仕つるでござる』  と云つて金子を箱に収め、平八郎より鍵を受取つて錠を下し、鍵を紙 入れに収めますと、平八郎は。

   


『大塩平八郎』目次/その16/その18

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