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かたな げつぱく
此方は常盤町の刀剣屋三木半兵衛、モウ月迫の事でございますから、
一日も早く商ひをしたいと思つて、八田の屋敷へ参りますと、衛門太郎
は、預かり置きました貞宗の刀剣を半兵衛に返しまして。
きのふ
衛『お前が昨日来るであらうと思つて待つて居たのだ、兎も角も預り
たしか
の品は、慥に返却いたすぞ』
さくじつ
半『ヘイ/\慥に受取ましてございます、昨日参上仕つらうと存じま
せわ いかゞ
したが、余りお忙しなう申すも如何と存じまして……エー如何いふ事で
かな
ございましたか、御意に適ひましたでございませうか』
かね
衛『実は同僚の大塩が、予て刀剣の出ものがあつたら、買求めたいと
の事であつたから、此貞宗の事を話した処が如何やら懇望のやうであつ
た、夫れで貴様が来たれば、屋敷へ寄越して貰ひたいと云ひたいと云つ
い ぢ
たから、其刀剣を持つて大塩の方へ、私から聞いたと云つて往いて、直
か
接に話しをするが宜い、多分大塩が求めるであらうと思ふのぢや』
半『デございますか、有難う存じまする、夫れでは大塩様の方へ、是
れから参る事にいたしませう』
さ
衛『然うするがよい』
いとま
半『夫れではお暇を……』
の
衛『コレ/\、マア宜いではないか、茶でも喫んで往つては』
半『ヘイ……有難う存じまする、今日は是れで御免を……』
き
勝手な男でございます、少しも早く商ひの相談を極めたいと思ひまし
て、いつも来るとつまらぬ事を云つて、長尻の男だのに、挨拶もそこ/\
すぐ
にして、八田の屋敷を立出で、其足で直に大塩平八郎の屋敷へ参りまし
て、内玄関の処から。
半『ヘイ御免下さいまし、上町の三木半でございます』
すぐ こ ま
この内玄関の直隣の小室に机を置いて、書物を読んで居た鈴木良蔵と
云ふ学生が出て来ました。
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月迫
月末に差し迫っ
たこと。また、
そのころ。月末
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