Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.9.14

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その19

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第四席 (4)

管理人註
   

        かたな            げつぱく  此方は常盤町の刀剣屋三木半兵衛、モウ月迫の事でございますから、 一日も早く商ひをしたいと思つて、八田の屋敷へ参りますと、衛門太郎 は、預かり置きました貞宗の刀剣を半兵衛に返しまして。       きのふ  『お前が昨日来るであらうと思つて待つて居たのだ、兎も角も預り     たしか の品は、慥に返却いたすぞ』                     さくじつ  『ヘイ/\慥に受取ましてございます、昨日参上仕つらうと存じま        せわ      いかゞ したが、余りお忙しなう申すも如何と存じまして……エー如何いふ事で            かな ございましたか、御意に適ひましたでございませうか』             かね  『実は同僚の大塩が、予て刀剣の出ものがあつたら、買求めたいと の事であつたから、此貞宗の事を話した処が如何やら懇望のやうであつ た、夫れで貴様が来たれば、屋敷へ寄越して貰ひたいと云ひたいと云つ                             い      ぢ たから、其刀剣を持つて大塩の方へ、私から聞いたと云つて往いて、直 接に話しをするが宜い、多分大塩が求めるであらうと思ふのぢや』  『デございますか、有難う存じまする、夫れでは大塩様の方へ、是 れから参る事にいたしませう』      『然うするがよい』         いとま  『夫れではお暇を……』                        『コレ/\、マア宜いではないか、茶でも喫んで往つては』  『ヘイ……有難う存じまする、今日は是れで御免を……』                          勝手な男でございます、少しも早く商ひの相談を極めたいと思ひまし て、いつも来るとつまらぬ事を云つて、長尻の男だのに、挨拶もそこ/\                  すぐ にして、八田の屋敷を立出で、其足で直に大塩平八郎の屋敷へ参りまし て、内玄関の処から。  『ヘイ御免下さいまし、上町の三木半でございます』        すぐ    こ ま  この内玄関の直隣の小室に机を置いて、書物を読んで居た鈴木良蔵と 云ふ学生が出て来ました。



月迫
月末に差し迫っ
たこと。また、
そのころ。月末


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