Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.9.15

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その20

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第四席 (5)

管理人註
   

 『三木半……三木半とは何だい』          かたなや  『ヘイ常盤町の刀剣商でございます、旦那様は御在宿でございます か』  『先生かい』  『ハイ親旦那様で』  『後素先生はお宅だが、何だ』  『八田様から承りまして、三木屋半兵衛が上りましたと仰しやつて 下さいまし』  『少々待つて居なさい』                すぐ  良蔵は奥の間へ行きましたが、直に出て参りまして。    さ            こつち  『然う申したら、此方へ通るやうにと仰しやつた、サア此方へ来な さい』                            かたな  と案内をして平八郎の居間へ連れて行きました、半兵衛は刀剣箱の風 呂敷包を側に置き、叮嚀に頭を下げまして。  『是れは旦那様、私は三木屋半兵衛でございまする、八田の旦那様 より、御当家様へ上るやうに仰せられましたので、推参仕つりましたや うな事で、エヘツヘ……』                   かね/゛\  『お前が刀剣屋の半兵衛か、名前は予々承知して居るのぢや』              こんにち  『恐れ入りまする、私も今日まで、トンと御縁がございませんので              どうぞ か、御出入を仕りませんが、何卒是れを御縁に、今後は、お引立の程を お願ひ申し上げまする』  持つて来た刀剣箱の風呂敷を解いて取出し。                        こ れ  『八田様へお願ひいたしました貞宗は、即ち此品でございます、一 応御覧下さいまするやう』  『イヤ、実は一昨日、八田の屋敷で見たのぢやが』  と云ひ乍ら刀剣箱を手許へ寄せて葢を開け。        こ れ  『ウム、此品ぢや』  とまた手に取つて、更に見て居りまてと、半兵衛は。            くるひ      なか/\  『目貫は後藤祐條の狂獅子で、却々宜く出来て居ります、ヘイ、 エー鍔もその何でございまして』           しやべ  と独りでベラ/\と饒舌つて居りますが、説明する者よりも平八郎の              くらい 方が、詳しく知つて居ります位。            いくら  『夫れで此刀剣は、幾許で手放すのか』        ほ か  『ヘイ、他家様でございますれば、二百金でなくては手放し兼ねる し ろ も の                あなた 代品物ではごございますが、御当家様なり夫れにモウ貴下、今日ネの事                      でございますから、決着の処百五十両で願ひ度う存じまする』  『成程貞宗を百五十金では高くは無いな』  『エー実は斯様な堀出し物は減多にございませんが、何分にも大晦   めのまえ 日を目前に控へて居りますので』                     いくら      つもり  『併し半兵衛、お前、此刀剣を売つて、幾許儲ける心算かい』           あなた              あきんど  『ヘイ、そりやア貴下、一文でも余計に儲けたいのが商人の慣ひで はございますが、私はそんな慾張つた了簡はございません、それに唯今 も申します通り、今日ネでございますから、損さへしなければ、早く金 に致したいと存じまするので』  『ハゝア、損をしなければ売りたいと申すのぢやな』               どうぞ  『ヘイ左様でございます、何卒百五十両でお求めを願ひまする』  『百五十両では高いな』  『ヘイツ、唯今百五十金では、高くないと仰しやいましたではござ いませんか』

   
 


『大塩平八郎』目次/その19/その21

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